- 親の年金だけで入れる老人ホームは、本当にあるのか
- 国民年金だけで、振込が月に数万円の母でも入れる施設はあるのか
- 特養なら年金の範囲で払えると聞いたが、親の場合はいくらになるのか
- 「非課税」「第2段階」と言われても、親がどれに当たるのか分からない
- 預貯金が少しあると、安くなる仕組みは使えないのか
- 有料老人ホームやサ高住は、年金だけでは無理なのか
- 足りない分は子が出すしかないのか、生活保護は使えるのか
- 施設に入らず、家で続ける道は残っているのか
上記のような悩みに答えます。
親の年金で老人ホームに入れるかは、施設紹介のサイトでは「年金◯万円なら入れる施設」として、施設の種類ごとの月額の目安と並べて説明されがちです。ところが、介護保険施設の食費と居住費がどこまで下がるかを決めるのは年金の額そのものではなく、世帯全員が市町村民税非課税かどうか、本人の年金収入等、預貯金の3つで決まる「負担限度額の段階」です。目安の月額の表からは、この段階を自分の親に当てはめる手順も、足りないときにどの制度をどの順で確かめるかも読み取れません。そこで、段階の決まり方と特養の月額を段階ごとに出す計算を押さえたうえで、施設の種類ごとの軽減の有無、足りない分の出し方の順番まで、介護保険法と省令、厚生労働省・日本年金機構・国税庁の資料で確かめながら整理しました。
年金だけで払えるかは、年金の額そのものより「負担限度額の段階」で決まります。世帯全員が市町村民税非課税で、本人の年金収入等と預貯金が基準以下なら、特養や老健などの介護保険施設は食費・居住費が段階ごとの額まで下がり、介護費も高額介護サービス費で月の上限があります。有料老人ホームやサ高住にはこの軽減が無いため、契約の金額を年金と比べて決めます。
介護費の自己負担シミュレーター(要介護度と負担割合から介護費の部分を出す)
この記事の数字は2026年10月時点のものです。食費・居住費の基準費用額と負担限度額は2026年8月1日からの額、施設サービス費の単位数は令和6年度改定後の基本部分(加算を含まない)、年金額は令和8年度の額で書いています。
年金で払えるかは「段階」で決まる

親の年金で施設の費用をまかなえるかは、年金の額を施設の月額と見比べる前に、親が負担限度額のどの段階に当たるかで大きく変わります。段階が付けば、特養・老健・介護医療院などでは食費と居住費が段階ごとの1日の上限まで下がるからです。
この仕組みは、介護保険の給付の作りから来ています。施設に入ったときの保険給付(施設介護サービス費)は、食事の提供と居住にかかる費用を除いた部分に出ると介護保険法48条で決まっていて、食費と居住費は原則として全額が自己負担です。そのうえで、所得と資産の少ない人には、基準費用額から負担限度額を引いた額を介護保険から出す別の制度(特定入所者介護サービス費。一般に負担限度額認定と呼ばれる)が法51条の3に置かれています。
出典:介護保険法48条(e-Gov法令API)/介護保険法51条の3(e-Gov法令API)
この軽減が使えるのは、特養・老健・介護医療院・地域密着型特養・2種類のショートステイの6つだけです。施設の種類ごとに、段階で何が変わるかを並べると次のとおりです。
| 施設の種類 | 食費・居住費が段階で下がるか | 所得で変わる部分 |
|---|---|---|
| 特養・老健・介護医療院 | 下がる(負担限度額認定) | 介護費は高額介護サービス費の上限 |
| ケアハウス(軽費老人ホーム) | 下がらない | サービスの提供に要する費用が所得に応じて決まる |
| グループホーム | 下がらない | 家賃等の助成は市町村が任意で行う |
| 有料老人ホーム・サ高住 | 下がらない | 介護費の上限だけ |
出典:介護保険法51条の3(e-Gov法令API)/介護保険法8条(e-Gov法令API)
たとえば、同じ年金額の母でも、世帯全員が非課税で預貯金が基準以下なら特養の多床室で食費と居住費が段階の額まで下がり、同じ母が有料老人ホームを選べば、食費も家賃もホームの契約の額のままです。年金の額が同じでも、どの施設を選ぶかと、段階が付くかどうかで、毎月の持ち出しは別の話になります。
最初に確かめるのは、施設の名前ではなく親の段階です。段階が分かれば、介護保険施設なら月額を表の数字で組み立てられ、軽減の無い施設なら年金と契約の金額を比べる、という分かれ道に進めます。
段階を決める3つの条件
段階は、世帯の課税状況、本人の年金収入等、預貯金等の3つで決まります。年金の額が同じでも、世帯の中に市町村民税を課税されている人が1人でもいれば第1〜第3段階にはならず、預貯金等が基準を超えれば段階の額は使えません。
| 段階 | 世帯の課税と本人の年金収入等 | 預貯金等(65歳以上) |
|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護を受けている人等/世帯全員が非課税で老齢福祉年金を受けている人 | 生活保護は要件なし/老齢福祉年金は単身1,000万円・夫婦2,000万円以下 |
| 第2段階 | 世帯全員が非課税で、年金収入等が82.65万円以下 | 単身650万円・夫婦1,650万円以下 |
| 第3段階① | 世帯全員が非課税で、82.65万円超120万円以下 | 単身550万円・夫婦1,550万円以下 |
| 第3段階② | 世帯全員が非課税で、120万円超 | 単身500万円・夫婦1,500万円以下 |
| 第4段階 | 市町村民税の課税世帯 | 原則として対象外(特例あり) |
出典:介護サービス情報公表システム「利用者負担の軽減について」(厚生労働省)/介護保険法施行規則83条の5(e-Gov法令API)
1つ目の世帯の課税状況では、配偶者の扱いに注意が要ります。介護保険法施行規則83条の5は非課税の要件を「世帯員並びにその者の配偶者」と書いていて、配偶者は同じ世帯かどうかを問いません。住民票の世帯を分けても、別の世帯にいる配偶者が課税されていれば対象になりません。配偶者が行方不明の場合や、配偶者から暴力を受けた場合などは除かれるので、当てはまるかは市区町村に確認してください。世帯の分け方で判定を変えようとするより、親の世帯と配偶者の課税状況をそのまま確かめるほうが先です。
2つ目の年金収入等は、公的年金の収入額(遺族年金・障害年金などの非課税年金を含む)に、その他の合計所得金額を足したものです。課税されない年金も足すので、老齢年金が少なくても遺族年金を受けている母は、段階が1つ上がることがあります。
3つ目の預貯金等は、本人と配偶者の分の合計で見ます。国の通知では、預貯金・有価証券・投資信託・現金(いわゆるタンス預金)などが含まれ、生命保険・自動車・宝石や絵画などは含めない扱いです。住宅ローンなどの借入金を差し引く運用も通知に書かれていますが、個別の可否は市区町村が判断します。
出典:厚生労働省 介護保険最新情報(負担限度額認定の事務処理)(PDF)
課税世帯(第4段階)でも、介護保険施設に入所していて世帯員が2人以上いる場合に、世帯の年収等から施設の利用者負担・食費・居住費の年額を引いた額が82.65万円以下で、預貯金等が450万円以下などの4つの条件をすべて満たすと、負担限度額の対象になる特例があります。世帯の収入から施設の費用を引いて計算する仕組みなので、当てはまるかは個別に市区町村に確認してください。
たとえば、父を亡くして遺族年金を受けている母と、同じ住所に住む課税されている長男の世帯なら、母本人の年金収入等がいくらであっても、世帯に課税者がいるので第1〜第3段階には当たりません。同じ母が1人で暮らしていて世帯全員が非課税なら、年金収入等と預貯金で段階が決まります。
なお、偽りや不正な手段で負担限度額の支給を受けると、市町村は支給額の全部または一部を徴収でき、さらに支給額の100分の200に相当する額以下を徴収できると介護保険法22条に定められています。申請は、ありのままの課税状況と預貯金で出してください。
特養の月額を段階ごとに出す
特養の月額は、介護費の自己負担と、食費・居住費の段階の額を足して出せます。介護費は「1日の単位数×30日×1単位の単価×負担割合」、食費と居住費は「段階の1日の額×30日」です。
特養の単位数は、要介護度と居室の型で決まります。従来型個室と多床室は同じ単位数で、要介護1から5まで1日589・659・732・802・871単位、ユニット型個室は670・740・815・886・955単位です。1単位の単価は施設の所在地の地域区分で決まり、施設サービスは1単位10円から10.90円までの8つの区分があります。要介護度は、市区町村に申請して受ける要介護認定で決まります。法律上は申請から30日以内に結果を出すことになっていますが、実際にかかる日数は市区町村で違います。
※1単位の単価や軽減の扱いは地域によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
出典:厚生労働省 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(告示)/介護保険法27条(e-Gov法令API)/厚生労働省 地域区分と1単位の単価(PDF)
特養の食費と居住費の1日の額は、段階ごとに次のとおりです(2026年8月1日から)。
| 段階 | 食費 | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室 |
|---|---|---|---|---|
| 第1段階 | 300円 | 0円 | 380円 | 880円 |
| 第2段階 | 390円 | 430円 | 480円 | 880円 |
| 第3段階① | 680円 | 430円 | 880円 | 1,370円 |
| 第3段階② | 1,420円 | 530円 | 980円 | 1,470円 |
| 認定なし(基準費用額) | 1,545円 | 915円 | 1,231円 | 2,066円 |
出典:介護サービス情報公表システム「利用者負担の軽減について」(厚生労働省)
介護費には、世帯の所得に応じた1か月の上限があります。世帯全員が非課税なら世帯で24,600円、そのうち年金収入等とその他の合計所得の合計が82.65万円以下の人は個人で15,000円が上限で、課税世帯で課税所得380万円未満なら世帯で44,400円です。
要介護3・1割負担・1単位10円の地域で、世帯でほかに介護サービスを使っていない単身の親が特養に入った場合の30日の目安は次のとおりです。介護費は732単位×30日=21,960円(ユニット型個室は815単位×30日=24,450円)で、上限を超える分は上限額に置き換えています。
| 段階 | 多床室 | ユニット型個室 |
|---|---|---|
| 第2段階 | 15,000円+430円×30日=12,900円+390円×30日=11,700円=39,600円 | 15,000円+880円×30日=26,400円+11,700円=53,100円 |
| 第3段階① | 21,960円+12,900円+680円×30日=20,400円=55,260円 | 24,450円+1,370円×30日=41,100円+20,400円=85,950円 |
| 第3段階② | 21,960円+530円×30日=15,900円+1,420円×30日=42,600円=80,460円 | 24,450円+1,470円×30日=44,100円+42,600円=111,150円 |
| 認定なし | 21,960円+915円×30日=27,450円+1,545円×30日=46,350円=95,760円 | 24,450円+2,066円×30日=61,980円+46,350円=132,780円 |
加算と日常生活費(理美容代など)は含みません。第1段階は、多床室なら居住費が0円、食費が300円×30日=9,000円です。
この表で見てほしいのは、多床室とユニット型個室の差が段階によって変わることです。第2段階なら差は13,500円(53,100円−39,600円)ですが、認定なしでは37,020円(132,780円−95,760円)に広がります。差の大半は居住費で、ユニット型個室の居住費は第2段階でも1日880円かかります。
たとえば、年金の振込が少ない父が特養に申し込むとき、ユニット型の施設しか空きが無いと言われたら、段階を確かめたうえで上の表のユニット型個室の列で月額を出し直してください。多床室で考えていた額と比べて、年金で足りるかの答えが変わることがあります。
特養の施設が決まったら、料金表の食費・居住費の額が段階の額になっているか(認定証を出したあとの額か)を見比べます。認定を受けていない人の食費と居住費は施設との契約で決まり、料金表の額が基準費用額と違うことがあるからです。
老健・ケアハウス・グループホームの違い
年金で入れるかを考えるとき、特養以外の施設は「段階で食費と居住費が下がるかどうか」で2つに分かれます。老健と介護医療院は特養と同じく下がり、ケアハウスとグループホームは下がりません。
老健(介護老人保健施設)は介護保険施設なので、負担限度額認定の仕組みは特養と同じです。違うのは単位数で、基本型の多床室は要介護1から5まで1日793〜1,012単位と、特養より高く決められています。もう1つの違いは医療費控除で、老健の介護費・食費・居住費の自己負担は全額が控除の対象、特養は2分の1です。
軽費老人ホーム(一般にケアハウスと呼ばれる施設)は、老人福祉法で「無料又は低額な料金」で入所させる施設と定められています。入所できるのは原則60歳以上で、自立した生活に不安があり家族の援助を受けにくい人です。利用料のうち「サービスの提供に要する費用」は、入所者の所得の状況などを勘案して都道府県知事が定める額に限られ、所得に応じて額が変わる仕組みです。具体的な額は施設の重要事項説明書か、お住まいの都道府県・市区町村の高齢者福祉の担当で確かめてください。ただし生活費や居住に要する費用は別にかかり、介護保険施設ではないので負担限度額認定は効きません。
出典:老人福祉法20条の6(e-Gov法令API)/軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準 16条(e-Gov法令API)
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症のある要支援2以上の人が少人数で暮らす住まいです。家賃・食材料費・光熱水費は保険給付の外で、負担限度額認定の対象にも入っていません。低所得の人の家賃等を助成する事業は、市町村が任意で行う事業として置かれているので、実施しているかどうかと額は市町村ごとに違います。
出典:介護保険法42条の2(e-Gov法令API)/厚生労働省 地域支援事業の任意事業(PDF)
もう1つ、名前が似ていて取り違えやすいのが養護老人ホームです。こちらは本人が契約して申し込む施設ではなく、65歳以上で、環境上の理由と経済的な理由の両方によって家で養護を受けるのが難しい人を、市町村が措置として入所させる施設です。経済的な理由は、世帯が生活保護を受けていること、本人と本人の生計を維持している人の前年の所得に市町村民税の所得割の額が無いこと、災害などで世帯の生活が困窮していることのいずれかと政令で決まっています。
出典:老人福祉法11条(e-Gov法令API)/老人福祉法施行令6条(e-Gov法令API)
たとえば、要介護1で認知症の診断がある母なら、特養は原則の対象(要介護3以上)に入らないので、グループホームかケアハウスが候補に挙がります。どちらも段階で食費・居住費は下がらないので、グループホームなら市町村の家賃等の助成の有無、ケアハウスなら所得で決まるサービスの提供に要する費用の額を、それぞれ先に確かめると年金と比べる材料がそろいます。要介護1・2でも、やむを得ない事情があれば特養に入れる特例入所の道もあります。
有料老人ホーム・サ高住は軽減が無い
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は介護保険施設ではないので、負担限度額認定で食費や家賃が下がることはありません。年金で払えるかは、ホームや住宅の契約の金額を、親の年金の手取りと比べて決めます。
介護付き有料老人ホームでも、介護保険から出るのは特定施設入居者生活介護という介護の部分だけです。家賃・食費・管理費などは保険給付の外にあり、その金額はホームが決めます。介護の部分は一般型で要介護1から5まで1日542・609・679・744・813単位です。
要介護3・1割・1単位10円の地域なら、介護付き(一般型)の介護の部分は679単位×30日=20,370円です。これにホームの家賃・食費・管理費が加わり、そこには段階の軽減がありません。
出典:厚生労働省 介護報酬の算定構造(PDF)/介護保険法41条(e-Gov法令API)
サ高住の費用には、国土交通省の資料に平均の値があります。令和2年8月末時点の登録情報で、家賃・共益費・必須サービス(生活相談・見守り)の費用を合わせた月額の平均は全国で10.7万円、地方圏で8.9万円、大都市圏で12.5万円でした。食費と介護保険の自己負担はこの額に入っておらず、募集時の表示額であって実際の請求額ではありません。
出典:国土交通省 サービス付き高齢者向け住宅の現状(PDF)
だからといって「年金だけでは入れない」と決めつけることはできません。家賃や食費はホームと住宅ごとに違い、年金の額と契約の金額の組み合わせで答えが変わるからです。前払金(いわゆる入居一時金)を受け取る有料老人ホームでは、入居後3か月以内に契約が終わったときの返還が法令で決まっているので、前払金の有無と返還の条件は重要事項説明書で確かめます。
たとえば、厚生年金を受けている父で手取りが比較的多い場合でも、有料老人ホームの月額は家賃・食費・管理費・介護の自己負担・日常生活費の合計なので、契約書の月額の欄だけでなく、別欄の費用まで足して年金と比べてください。同じ父が非課税で段階に当たるなら、特養の月額と並べてみる価値があります。
介護費の上限と医療費控除
介護費の自己負担には、高額介護サービス費という1か月の上限があります。超えた分は、申請すれば戻ります。特養・老健・グループホーム・介護付き有料老人ホームの介護の部分は、どれもこの対象です。
| 区分 | 1か月の上限額 |
|---|---|
| 課税所得690万円以上 | 140,100円(世帯) |
| 課税所得380万円以上690万円未満 | 93,000円(世帯) |
| 住民税課税〜課税所得380万円未満 | 44,400円(世帯) |
| 住民税世帯非課税 | 24,600円(世帯) |
| 世帯非課税で、年金収入等の合計が82.65万円以下 | 15,000円(個人) |
出典:厚生労働省 介護保険最新情報Vol.997(PDF)/介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(厚生労働省)/介護保険法51条(e-Gov法令API)
上限の対象は介護費の自己負担で、食費・居住費・日常生活費は上限の計算に入りません。食費と居住費を下げるのは別の制度(負担限度額認定)です。戻るのは申請した場合だけで、給付を受ける権利は2年で時効になります。いつから数えるかも市区町村に確認してください。
確定申告の医療費控除では、特養の介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1、老健と介護医療院は全額が対象です。日常生活費や特別なサービスの費用は対象外で、特養で高額介護サービス費が戻ったときはその2分の1を医療費から差し引きます。
たとえば、第3段階①の母が特養の多床室に要介護3・1割で1年間入った場合、30日の目安55,260円×12か月=663,120円で、その2分の1の331,560円が医療費控除の対象になりうる額の目安です。
ただし、医療費控除は所得税を計算するときの控除なので、親に所得税がかかっていなければ、控除を申告しても戻る税金はありません。子が施設の費用を払っている場合に子の控除に入れられるかは「生計を一にしているか」で変わるので、税務署で確かめてください。医療費控除はその年の1月から12月までに支払った分で計算するので、領収証は年ごとにまとめて保管しておきます。
年金で足りない分の出し方

年金だけで足りないときは、家族の負担を決める前に、公的な軽減を順番に確かめます。この順で確かめるのは、制度ごとに使える条件と申請先が違うからです。なお、額を計算する順は確かめる順と同じではなく、社会福祉法人等の軽減は負担限度額認定のあとの額にかかり、高額介護サービス費はその軽減のあとの額で上限を超えたかを見ます。
- 1負担限度額認定を申請する市区町村の介護保険の担当
- 2高額介護サービス費を申請する介護費の月の上限
- 3社会福祉法人等の軽減を聞く市区町村と入所先の法人の2か所
- 4生活保護を相談する福祉事務所
- 5家族の負担を決める誰がいくら・いつまで
1つ目は負担限度額認定の申請です。認定の効力は、国の通知の取扱いでは申請した月の初日にさかのぼるので、入所が決まった月のうちに申請しておくと取りこぼしが少なくすみます。申請先は市区町村です。
2つ目は高額介護サービス費で、介護費の自己負担が上限を超えた月の分を申請します。
3つ目が、社会福祉法人等が行う利用者負担の軽減です。市町村民税世帯非課税で、年間収入が単身150万円以下(世帯員が1人増えるごとに50万円を加算)、預貯金等が単身350万円以下(1人増えるごとに100万円を加算)、活用できる資産が無い、負担能力のある親族等に扶養されていない、介護保険料を滞納していない、の5つをすべて満たし、市町村が生計が困難と認めた人が対象です。軽減は利用者負担の4分の1(老齢福祉年金を受けている人は2分の1)が原則で、4分の1になるのではなく4分の1が減る形です。対象は特養や訪問介護・通所介護など通知に挙げられたサービスで、老健や介護付き有料老人ホームは挙がっていません。この軽減を行うかは法人が決めるので、市区町村で確認証の申請方法を、入所を考える施設で実施の有無を、と2か所で確かめます。負担限度額認定を受けている人は、認定のあとの額にこの軽減がかかります。
出典:厚生労働省 社会福祉法人等の利用者負担の軽減の実施要綱(介護保険最新情報)(PDF)
4つ目が生活保護の相談です。生活保護の介護扶助は、施設介護(特養・老健・介護医療院など)と、特定施設入居者生活介護を含む居宅介護までが範囲で、介護サービスの費用は指定を受けた介護機関に直接支払われる現物給付です。ただし、受給できるかどうか、どの施設に入れるか、食費や家賃がどう扱われるかは福祉事務所の判断になるので、ここで決めつけずに福祉事務所に相談してください。
出典:生活保護法15条の2(e-Gov法令API)/生活保護法34条の2(e-Gov法令API)
5つ目に、ここまで確かめても足りない分を家族でどう出すかを決めます。決めておくのは、毎月の不足額、誰が出すか、きょうだいでどう分けるか、いつまで続ける前提か、の4つです。子が出す分を親の口座に入れるのか、施設に直接払うのかも決めておくと、あとで医療費控除や相続の話になったときに記録が追えます。
たとえば、第2段階に当たりそうな母で、多床室なら年金で払えるのに、空きのある特養がユニット型だけという場合は、まず認定を取り、そのうえで法人の軽減の5つの要件に当てはまるかを市区町村で、実施しているかを施設で確かめると、家族が出す額が小さくなることがあります。家族の負担の話は、公的な軽減を全部確かめたあとの額で始めると、きょうだいの間で前提がずれません。
親の年金額と預貯金の確かめ方
親の年金額は、年金額改定通知書と年金振込通知書で確かめます。毎年送られてくる通知書には年金の年額と振込額が書かれていて、通帳に入る額とあわせて見ると、施設に払える1か月の額が分かります。
年金額の目印として、令和8年度の老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以後生まれが月額70,608円(年額847,300円)、昭和31年4月1日以前生まれが月額70,408円(年額844,900円)です。これは20歳から60歳になるまでの40年間、保険料をすべて納めた場合の額で、納めた月数が少なければ減ります。
出典:厚生労働省 令和8年度の年金額改定について(PDF)/日本年金機構 老齢年金ガイド(PDF)
厚生労働省は、令和6年度に65歳になる人の加入期間や収入から概算した、経歴の類型ごとの年金額も示しています。令和8年度の月額で、国民年金(第1号被保険者)期間が中心の男性は63,513円、同じく女性は61,771円、第3号被保険者期間が中心の女性は78,249円、厚生年金期間が中心の男性は176,793円、女性は134,640円です。これは概算で、実際の受給額の平均ではなく、いまの親の世代と同じとは限りません。夫婦2人分の基礎年金を含む標準的な年金額(月額237,279円)も、会社員の夫が平均的な収入で40年働いたモデルの給付水準で、実際の平均額ではありません。
年金の年額を段階の基準と比べると、たとえば老齢基礎年金だけを受け取っていて、満額の年額847,300円の母は82.65万円を上回るので、ほかに所得が無く世帯全員が非課税なら第3段階①の候補です。国民年金期間が中心の男性の概算63,513円で年額にすると63,513円×12か月=762,156円で、82.65万円以下なので、同じ条件なら第2段階の候補になります。
ここで「候補」と書いたのは、段階が年金額だけでは決まらないからです。遺族年金などの非課税年金、その他の所得、世帯と配偶者の課税状況、預貯金等で結論が変わります。
| 確かめるもの | どこで分かるか |
|---|---|
| 年金の年額と振込額 | 年金額改定通知書・年金振込通知書・通帳 |
| 非課税年金(遺族年金・障害年金) | 年金の通知書・通帳の入金 |
| 世帯と配偶者の課税状況 | 市区町村の課税証明書(非課税証明書) |
| 預貯金等 | 通帳・証券会社などの口座残高 |
| 負担割合 | 介護保険負担割合証 |
たとえば、上の満額の母が第3段階①で特養の多床室に入れば、30日の目安は55,260円で、月額70,608円(昭和31年4月2日以後生まれ)との差は15,348円です。この差から日常生活費や医療費を払うことになります。同じ母に遺族年金があって年金収入等が120万円を超えれば、預貯金等が単身500万円以下の場合に限って第3段階②になり、30日の目安は80,460円に上がります。
計算では、年金の額面ではなく通帳に振り込まれる額を使ってください。親が施設に入ったあとも実家の固定資産税や光熱費の基本料金が同じ口座から出ていくなら、その分も差し引いて考えます。
入居先を探す順番
入居先は、段階と月額の見当をつけてから、地域包括支援センターかケアマネジャーに相談し、候補を絞って見学する順で探します。段階が分かっていると、相談の場で「年金で払える範囲の施設」という条件を数字で伝えられます。
特養は申し込めばすぐ入れるとは限りません。入所申込者数(地域密着型を含む)は、2025年4月1日時点で要介護3以上が約20.6万人、そのうち在宅で待っている人が約8.6万人でした。厚生労働省は、名簿に長く載っている人も含み、今すぐ入所が必要な人に限らないと注記しています。入所の順番は申込順ではなく、介護の必要の程度や家族の状況を勘案して必要性の高い人を優先するよう省令で努力義務が定められ、具体的な基準は都道府県や市町村と関係団体が作る入所の指針で決まります。
出典:厚生労働省 特別養護老人ホームの入所申込者の状況(PDF)/指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 7条(e-Gov法令API)/厚生労働省 特別養護老人ホームの優先入所に関する指針について(PDF)
※特養の入所の指針は自治体によって違います。お住まいの都道府県・市区町村で確認してください。
- 親の段階の見当と、年金の振込額から出した払える1か月の額
- 介護保険の被保険者証・負担割合証・要介護度
- 特養に申し込む場合の、入所の指針と申込先
- 候補の施設の料金表(段階の額で書かれているか)
- 社会福祉法人等の軽減を実施しているか
- 空きを待つ間に使える在宅サービスやショートステイ
たとえば、要介護3の父で第2段階の見当がついているなら、特養の多床室を第一の候補に置き、申し込みと並行して、待つ間のショートステイや老健を地域包括支援センターに相談すると、行き先の無い期間を作らずにすみます。見学では料金表をもらい、食費・居住費の欄が段階の額で書かれているかを見てください。施設の種類から候補を広げるときは、在宅か施設かの入口のページから種類ごとの記事をたどれます。
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年金の範囲で払える入居先を探すときは、特養に申し込みながら、ほかの施設も地域と予算で並べておくと、空きを待つ間に慌てずに済みます。老人ホームの検索サイトでは、地域と予算で絞って施設の資料をまとめて取り寄せられます。届いた資料は、月額に含まれるものと別にかかるものを書き出し、通帳に振り込まれる年金の額と同じ表に並べて比べてください。
入らずに在宅で続ける条件

施設に入らず在宅で続けられるのは、親に要る介護が訪問・通所のサービスとショートステイの組み合わせで回り、夜間や急な体調の変化に誰がどう動くかが決まっていて、介護する家族の仕事と暮らしが続けられるときです。この3つがそろうなら、施設の月額と在宅の費用を並べて比べる意味があります。
在宅の介護サービスには、要介護度ごとに1か月に使える上限(区分支給限度基準額)があり、1単位10円の地域で要介護3なら270,480円、要介護4なら309,380円が目安です。上限の中で使った分の1割(所得により2割・3割)が自己負担で、在宅では居住費がかからない代わりに、食事の用意や見守りの手間が家族に残ります。
出典:介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(厚生労働省)
要介護3の上限まで在宅サービスを使った場合の1割の自己負担は、270,480円×1割=27,048円が目安です。
ショートステイも負担限度額認定の対象なので、段階に当てはまれば泊まった日の食費と滞在費が下がります。ただし、ショートステイの食費の負担限度額は入所とは別の額(第2段階なら1日600円)なので、申し込む前に施設で確かめてください。
たとえば、日中はデイサービスに通い、月に数日ショートステイを使えば家族が仕事を続けられる母なら、在宅で続ける選択を特養と並べて考えられます。反対に、夜間の介助が毎晩要るのに担い手がいない場合は、費用だけで在宅を選ぶと家族の暮らしが先に崩れます。どちらに当たるかは、ケアマネジャーに親の一日の過ごし方と家族が動ける時間帯を書き出して見せると、判断の材料がそろいます。
入居したあとの実家
親が施設に入ると、次に考えることになるのは、親が住まなくなった実家です。年金で施設の費用を払う計算をしたときに、実家の固定資産税や光熱費の基本料金を差し引いたなら、その費用をいつまで払い続けるかが、実家をどうするかの話とつながります。
郵便物の転送、電気・ガス・水道の契約、鍵の管理と見回りの担当を家族で決めておくと、入居のあとに慌てずにすみます。
よくある質問
年金だけで入れる老人ホームはありますか?
年金だけで払えるかは、施設の種類と親の段階で決まります。特養・老健・介護医療院は、世帯全員が非課税で年金収入等と預貯金が基準以下なら、食費と居住費が段階の額まで下がり、介護費も月の上限で止まります。有料老人ホームやサ高住は軽減が無いので、契約の金額と年金の手取りを比べてください。
国民年金だけでも特養に入れますか?
入所の対象は原則要介護3以上で、年金の種類では決まりません。費用は段階で変わり、老齢基礎年金だけで世帯全員が非課税なら、年金の年額が82.65万円以下なら第2段階、82.65万円超120万円以下なら第3段階①の候補になります。
要介護3・多床室・1割・1単位10円の地域なら、30日の目安は第2段階で39,600円、第3段階①で55,260円です。
年金が少なくて施設に入れないときはどうすればいいですか?
負担限度額認定、高額介護サービス費、社会福祉法人等の軽減、生活保護の相談の順に確かめ、それでも足りない分を家族で決めます。どれから手を付けるか迷ったら、地域包括支援センターに親の年金の振込額と課税状況を持って相談してください。
預貯金があると負担限度額認定は受けられませんか?
65歳以上で第2段階なら単身650万円・夫婦1,650万円以下など、段階ごとの基準を超えると認定は受けられません。預貯金等は本人と配偶者の合計で見て、生命保険や自動車は含めない扱いです。
有料老人ホームは年金だけでは入れませんか?
入れないとは言い切れません。家賃・食費・管理費はホームごとに違い、負担限度額認定で下がらないので、契約の月額に別欄の費用を足した額を、年金の手取りと比べて決めます。
生活保護を受けると施設に入れますか?
生活保護の介護扶助は、特養・老健・介護医療院などの施設介護も範囲に入っていて、介護サービスの費用は指定を受けた介護機関に直接支払われます。ただし受給できるか、どの施設に入れるか、食費や家賃の扱いは福祉事務所の判断なので、まず福祉事務所に相談してください。
順番のおさらい
- 年金で払えるか:年金の額そのものより、負担限度額の段階で月額が変わる
- 段階の決まり方:世帯と配偶者の課税状況、非課税年金を含む年金収入等、本人と配偶者の預貯金等の3つ
- 特養の月額:単位数×30日×単価×負担割合に、段階の食費・居住費×30日を足す
- 施設の種類:老健・介護医療院は特養と同じく下がり、ケアハウスとグループホームは別の仕組み
- 有料老人ホーム・サ高住:段階の軽減は無く、契約の金額を年金の手取りと比べる
- 介護費の上限と医療費控除:上限は申請で戻り、控除は特養が2分の1・老健が全額
- 足りない分:認定→高額介護サービス費→社会福祉法人等の軽減→生活保護の相談→家族の負担
- 確かめ方:年金の通知書と通帳、課税証明書、預貯金の残高、負担割合証
- 探す順番:段階の見当をつけてから、地域包括支援センターかケアマネジャーに相談する
- 在宅で続ける条件:介護がサービスで回り、夜間の担い手と家族の暮らしが成り立つか
親の年金で施設に入れるかを考えるとき、年金額と施設の月額の目安を見比べるだけでは、うちの親の答えは出ません。年金の通知書、課税証明書、通帳の3つをそろえて段階の見当をつければ、介護保険施設なら月額を表の数字で組み立てられ、軽減の無い施設なら契約の金額と比べる、という道筋が見えます。足りない分の話は、公的な軽減を順番に確かめたあとの額で家族と始めると、親の暮らしと家族の負担の両方を同じ前提で決められます。
※負担限度額認定の申請の扱い・社会福祉法人等の軽減の実施・グループホームの家賃等の助成は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

