成年後見の申立ては家庭裁判所でどう進むか|必要書類・期間・誰が申し立てるか

テーブルの上の書類
  • 親が認知症で、銀行の窓口で「成年後見人を立ててください」と言われた
  • 子どもの自分が申し立ててよいのか、どこの家庭裁判所に出すのか分からない
  • 必要書類が多すぎて、何から集めればいいのか見当がつかない
  • 費用は全部でいくらで、鑑定というのは何なのか
  • 申し立ててから決まるまで、どれくらい待つのか
  • 長男の自分が後見人になるつもりでいるが、本当になれるのか
  • 一度始めたら、やめられないと聞いて踏み切れない
  • 申立ての費用や、その後の報酬が払えるか不安

上記のような悩みに答えます。

成年後見の申立ては、親の判断する力が衰えたあとに、家族が家庭裁判所へ「後見を始めてほしい」と求める手続きです。つまずきやすいのは、申立てを「書類をそろえて出せば家族が後見人になれる手続き」と受け取ってしまう点で、実際には後見人を誰にするかは家庭裁判所が決め、出したあとは自由に取り下げられません。手続きの解説は、書類と費用と流れを順に並べたものが中心で、申し立てる前に家族で確かめておく条件や、始まったあとに何年も続く負担、費用の助成の仕組みは、見た範囲では後ろのほうで短く触れられる程度でした。そこで、誰が・どこに・何を出し・いくらかかるかという基本を押さえたうえで、申し立てる前の条件、後見人が決まる仕組み、始まってから続くこと、申し立てない場合の条件まで、民法・家事事件手続法の条文と、裁判所・厚生労働省の資料で確かめながら整理しました。

先に答え

成年後見の申立ては、親(本人)の住所地の家庭裁判所に、子などの親族が行えます。費用は収入印紙と郵便切手で数千円からで、令和7年は約7割が2か月以内に終わっています。ただし後見人を選ぶのは家庭裁判所で、申し立てたら自由には取り下げられず、始まると原則として親が亡くなるまで続きます。

この記事の数字は2026年11月時点のものです。統計は、最高裁判所の「成年後見関係事件の概況(令和7年)」によります。

目次

成年後見を申し立てる前に確かめること

申立ての書類を集め始める前に、家族で確かめておきたいことが3つあります。後見人は家庭裁判所が選ぶこと、申し立てたら許可なしには取り下げられないこと、始まると原則として親が亡くなるまで続くことです。

この3つは、どれも条文や国の案内に書かれている決まりで、家族の希望だけでは変えられません。民法843条1項は、家庭裁判所が後見開始の審判をするときに「職権で」成年後見人を選ぶと定めています。家事事件手続法121条は、後見開始の申立ては審判の前でも家庭裁判所の許可を得なければ取り下げられないとしています。厚生労働省の成年後見制度の案内も、後見人の仕事は、本人の判断する力が回復して家庭裁判所が取り消すか、本人が亡くなるまで続き、申立てのきっかけだった目的を果たしても終わらないと説明しています。

  • 後見人を選ぶのは家庭裁判所:申立書に家族を候補者として書いても、その人が選ばれるとは限らない
  • 取下げには許可が要る:思っていた人が選ばれそうにないと分かっても、自由に取り下げられるわけではない
  • 終わりは原則として親が亡くなるとき:預金の解約や実家の売却が済んでも、後見は続く

たとえば、親名義の定期預金を施設の費用に充てたい、という理由で申し立てる家を考えます。預金を動かせるようになったあとも、後見人は親の財産を管理し続け、家庭裁判所への報告も続きます。後見人に専門職が選ばれた場合は、その報酬も家庭裁判所が決めた額で続いていきます。「預金を下ろすための1回の手続き」のつもりでいると、始まってから想定が大きく違ってきます。

実家を売って施設の費用に充てることがきっかけになる家もあります。売却そのものの考え方は、後見とは別に整理しておくと話が混ざりません。

実家を売るか残すかの考え方

家族で話すときは、「何のために申し立てるのか」「後見人に家族以外が選ばれても進めるか」「親が亡くなるまで続くことを兄弟全員が分かっているか」の3つを、紙に書いて確かめてください。この3つに全員がうなずけたら、書類集めに進む段階です。

出典:民法843条(e-Gov法令API)/家事事件手続法121条(e-Gov法令API)/厚生労働省 成年後見はやわかり「後見人等の選任」

申し立てる人と、どこの家庭裁判所か

子は申し立てられます。申立先は、申し立てる子の住所ではなく、親(本人)が住んでいる所を管轄する家庭裁判所です。

民法7条は、後見開始の審判を請求できる人として、本人・配偶者・四親等内の親族などを挙げています。子は親から見て一親等の親族なので、この中に入ります。申立先は、家事事件手続法117条1項で、成年被後見人となるべき人の住所地を管轄する家庭裁判所と決まっています。

令和7年に申立てをした人と本人との関係は、次のとおりです(申立人の内訳で、1つの事件に申立人が複数いることもあります)。

申立人 割合(令和7年)
本人 24.8%
市区町村長 23.7%
子 18.5%
兄弟姉妹 10.6%
その他親族 10.3%

市区町村長が申立人に入っているのは、老人福祉法32条の定めによります。65歳以上の人について、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、市町村長が後見開始などの審判を請求できる、という規定です。ただし、条文は「できる」と書いているだけで、家族が頼めば市町村長が代わりに申し立ててくれる、という仕組みではありません。どういうときに市町村長が申し立てるかは、市区町村の判断になります。

※お住まいの市区町村で確認してください。

たとえば、子が東京に住み、親が地方の実家で一人暮らしをしているなら、申立先は親の住む地域を管轄する家庭裁判所です。親がすでに施設に入っていて住民票を移していない場合は、どこが「住所地」に当たるか迷うときは、申し立てる前に家庭裁判所に問い合わせてください。

兄弟がいる家では、誰が申立人になるかを先に決めておくと進めやすくなります。申立人は書類をそろえ、家庭裁判所からの連絡を受ける役です。親の近くに住む子が申立人になり、遠方の兄弟は書類の一部を手伝う、という分け方も考えられます。

出典:民法7条(e-Gov法令API)/家事事件手続法117条(e-Gov法令API)/老人福祉法32条(e-Gov法令API)/最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和7年)」

後見・保佐・補助のどれになるか

法定後見には、後見・保佐・補助の3つの類型があり、親がどれに当たるかは家庭裁判所の審判で決まります。認知症と診断されたから後見、と自動的に決まるわけではありません。

3つの違いは、判断する力(条文の言葉では「事理を弁識する能力」)がどの程度かです。欠く常況にある人は後見(民法7条)、著しく不十分な人は保佐(民法11条)、不十分な人は補助(民法15条1項)の対象になります。補助を本人以外が申し立てるときは、本人の同意が要ります(同条2項)。本人以外が申し立てるときに本人の同意が条件として条文に書かれているのは補助だけで、ここが後見・保佐との違いです。

判断する力の程度で、類型が分かれる
後見

  • 事理を弁識する能力を欠く常況
  • 申立手数料は収入印紙800円
  • 本人以外の申立てに本人の同意は不要
保佐・補助

  • 著しく不十分(保佐)・不十分(補助)
  • 800円に、付与を求める権限の分が加算
  • 補助は本人以外の申立てに本人の同意が必要

後見が始まると、親が自分でした契約などの法律行為は取り消せるようになります。ただし民法9条は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いています。後見が始まっても、親がスーパーで食料品を買うことまで取り消しの対象になるわけではありません。

たとえば、親が同じ話をくり返すようになったが、近所の店での買い物や年金の受け取りは自分でできている、という段階なら、後見ではなく保佐や補助に当たる可能性もあります。反対に、家族の顔が分からない状態が続いている、契約の内容を説明しても理解できない、という状態なら、後見に当たることもあります。ただ、どちらも医師の診断書と家庭裁判所の判断で決まることなので、家族の見立てで類型を決めつけないでください。

物忘れが出始めた段階で、まず何をするかを確かめたい場合は、次の記事が先です。

親の物忘れが気になったら

医師に診断書を頼むときは、申立先の家庭裁判所が案内している書式があるかを先に確かめ、その書式を持って受診してください。書式や記載例は家庭裁判所によって違うことがあります。

出典:民法9条(e-Gov法令API)/民法11条(e-Gov法令API)/民法15条(e-Gov法令API)

成年後見の申立てに要る書類と順番

テーブルの上の書類

書類は、家族が書く「申立書類」と、役所や医師から取り寄せる「添付書類」に分かれます。取り寄せる書類のうち、戸籍・住民票・診断書・登記されていないことの証明書は、発行から3か月以内のものが求められるので、集める順番に気をつけてください。

裁判所の後見開始のページに載っている書類は、次のとおりです。

  • 申立書類:後見・保佐・補助開始等申立書、申立事情説明書、親族関係図、親族の意見書、後見人等候補者事情説明書(候補者がいない場合は不要)、財産目録、相続財産目録(本人が相続人になっている相続財産がない場合は不要)、収支予定表
  • 本人と候補者の身分の書類:本人の戸籍謄本(全部事項証明書)、本人の住民票または戸籍附票、成年後見人候補者の住民票または戸籍附票
  • 本人の状態の書類:本人の診断書、本人情報シートの写し、介護保険の認定書や障害者手帳などの写し
  • 法務局の書類:本人について成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
  • 財産と収支の資料:預貯金通帳の写し、残高証明書、不動産登記事項証明書、ローン契約書の写し、年金額決定通知書、施設利用料や入院費の資料、納税証明書など

ここに出てくる財産目録と収支予定表は、申立てのときに家族が出すものです。後見人が選ばれたあとに、後見人が家庭裁判所へ出す財産目録・収支予定表とは別の場面の書類なので、混同しないでください。また、マイナンバーが書かれた書類は出さないよう、裁判所のページに注意書きがあります。

期限の示されていない書類から集め、3か月の書類を最後に
  1. 1書式と案内を手に入れる申立先の家庭裁判所のサイトや窓口で
  2. 2財産と収支の資料を集める通帳の写し・年金の通知・施設の請求書
  3. 3申立書類を書く申立事情説明書・親族関係図・財産目録
  4. 4診断書を医師に頼む発行から3か月以内のもの
  5. 5戸籍・住民票・証明書を取る申立ての直前にまとめて

3か月の期限がある書類を早く取りすぎると、財産の資料をそろえている間に期限が過ぎ、取り直しになります。通帳の写しや年金の通知は3か月の期限が示されていないので、先に集めて財産目録を書きながら抜けを探せます。

たとえば、親の通帳が何冊あるか分からない家では、財産の資料集めに時間がかかります。郵便物や引き出しを見て、どの金融機関の口座があるかを書き出すところから始めることになります。その間に戸籍を取ってしまうと、申立ての時点で3か月を過ぎていた、ということが起きます。

審理のために必要なときは、ほかの書類を追加で求められることもあります。書式や記載例は家庭裁判所によって違う場合があるので、申立先の家庭裁判所のサイトで、その裁判所の書式を使ってください。

出典:裁判所「後見開始」

申立てにかかる費用の内訳

申し立てるときに裁判所に納めるのは、後見開始なら収入印紙800円(申立手数料)と2,600円(登記手数料)、それに連絡用の郵便切手です。鑑定が行われる場合は、別に鑑定の費用がかかります。

裁判所に納めるのは、手数料としての収入印紙と、連絡に使う郵便切手です。鑑定は、親の精神の状況について行われるものです。

費用 額 確かめる所
申立手数料(収入印紙) 800円(後見開始・保佐開始) 保佐・補助は付与を求める権限の分が加算
登記手数料(収入印紙) 2,600円 裁判所の後見開始のページ
連絡用の郵便切手 裁判所ごとに異なる 申立先の家庭裁判所
鑑定の費用 鑑定が行われた場合。令和7年は10万円以下が85.8% 申立先の家庭裁判所
計算例

後見開始で鑑定が行われない場合、裁判所に納める収入印紙は 800円 + 2,600円 = 3,400円 です。ここに郵便切手の額が加わります。

郵便切手の額は、申立先の家庭裁判所で確認してください。

鑑定について、家事事件手続法119条1項は、家庭裁判所は本人の精神の状況について鑑定をしなければ後見開始の審判をできない、ただし明らかにその必要がないと認めるときは除く、と定めています。原則は鑑定ありですが、令和7年に実際に鑑定をした事件は3.4%でした。鑑定の費用は申立人の負担になることがあります。

たとえば、申立ての費用を長男が立て替える場合、そのまま長男の負担で終わるとは限りません。申立人が希望すれば、申立手数料・送達や送付の費用・後見登記手数料・鑑定費用の全部または一部を、本人の負担とすることが認められる場合があります。認められるかどうかは家庭裁判所の判断なので、親の財産から返ってくると決めて立て替えないでください。

ここまでが裁判所に納める費用です。書類を集めるときの戸籍や住民票、証明書の発行手数料は、それぞれの役所や法務局で別にかかります。申立書の作成を司法書士・弁護士に頼む場合の報酬は事務所ごとに違うので、頼む前に見積をもらってください。

出典:裁判所「後見開始」/裁判所「保佐開始」/家事事件手続法119条(e-Gov法令API)/裁判所「成年後見・保佐・補助開始の申立てについて」/最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和7年)」

家庭裁判所の審判が出るまでの期間

令和7年は、申し立ててから審判などで2か月以内に終わった事件が71.1%でした。何か月で終わると決まっているわけではありません。

計算例

  • 2か月以内に終わった事件:71.1%
  • 4か月以内に終わった事件:93.8%

申立てのあと、家庭裁判所は書類をもとに審理し、必要なら鑑定を行い、後見を始めるかどうかと、誰を後見人にするかを決めます。鑑定をした事件では、鑑定の期間は1か月以内が52.6%でした。

後見開始の審判が出たあとにも、手続きの区切りがあります。家事事件手続法123条1項は、後見開始の審判に対して、民法7条に定める人など(申立人を除く)が即時抗告できるとしています。即時抗告は、特別の定めがある場合を除き「二週間の不変期間内」にしなければなりません(同法86条1項)。一方で、誰を後見人に選ぶかの判断には不服申立てができません。

この期間の統計は、申立てから事件が終わるまでのもので、そのあとの登記や、金融機関での手続きにかかる日数は入っていません。また、後見・保佐・補助と任意後見監督人の選任を合わせた数字です。

たとえば、施設に入る日が決まっていて、それまでに親の預金を動かせるようにしたい、という家は、申立ての日から逆算して考えることになります。2か月以内に終わった事件が71.1%ということは、残りの事件はそれより長くかかっています。入所の日を申立ての結果に合わせて決めるのではなく、施設には後見の手続き中であることを伝え、支払いの方法を相談しておくほうが安全です。

書類に不足があると、家庭裁判所から追加の書類を求められることがあります。申立てのあとは、家庭裁判所からの電話や郵便に早く応じられるよう、連絡を受ける人を家族で決めておいてください。

出典:家事事件手続法86条(e-Gov法令API)/家事事件手続法123条(e-Gov法令API)/最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和7年)」

家族は後見人になれるか

湯のみを持つ手

後見人は家庭裁判所が選び、家族が候補者になっても、その人が選ばれるとは限りません。令和7年に選ばれた後見人等のうち、親族は16.4%、親族以外は83.6%でした。

民法843条4項は、後見人を選ぶときに考えることとして、本人の心身の状態と生活・財産の状況、後見人になる人の職業と経歴、本人との利害関係の有無、本人の意見、その他一切の事情を挙げています。裁判所の案内は、家庭裁判所が本人にとって最も適任だと判断した人を選ぶ、としています。厚生労働省の案内では、申立ての時点で本人に法律上や生活面の課題がある、財産の管理が複雑で難しい、といった事情が分かっている場合に、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることがある、と説明されています。

令和7年の数字を並べると、次のようになります。

  • 親族が選ばれた件:16.4%(7,014件)
  • 親族以外が選ばれた件:83.6%(35,718件)
  • 親族が選ばれた件のうち、子が選ばれた件:52.0%

この数字は後見・保佐・補助を合わせたもので、候補者が書かれていた事件の中で候補者が選ばれた割合ではありません。

たとえば、長男が候補者として申し立てた家で、親名義の賃貸アパートがあって財産の管理が複雑だったりすると、専門職が選ばれる事情になりえます。そうなっても、選任の判断には不服申立てができず、取下げにも許可が要ります。

専門職が後見人になったときの報酬は、民法862条で家庭裁判所が決めるとされていて、法律で額が決まっているわけではありません。横浜家庭裁判所が公表している「めやす」では、専門職の後見人の基本報酬は月額で次のとおりです。管理する財産は、預貯金や有価証券などの合計で、不動産は含まれません。特別な事務をした場合の付加報酬は、このほかに別にあります。

計算例

  • 管理する財産が1,000万円以下:月2万円
  • 1,000万円を超え5,000万円以下:月3万〜4万円
  • 5,000万円を超える:月5万〜6万円

これは決定額ではなく、資料の日付も古いので、最新の扱いは申立先の家庭裁判所で確かめてください。家族が後見人になった場合に、このめやすがそのまま当てはまるわけでもありません。

候補者を誰にするかで迷うときは、親の近くに住んでいるか、財産の管理と家庭裁判所への報告を続けられるか、ほかの兄弟が納得しているか、を基準に考えてください。兄弟の考えは「親族の意見書」として申立ての書類にも入ります。

出典:民法843条(e-Gov法令API)/民法862条(e-Gov法令API)/裁判所「成年後見・保佐・補助開始の申立てについて」/横浜家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」/最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和7年)」

後見が始まってから続くこと

後見が始まると、後見人は親の財産を管理し、家庭裁判所に報告を出し続けます。後見人を途中でやめるには正当な事由と家庭裁判所の許可が要り、後見そのものは原則として親が亡くなるまで続きます。

選ばれたあと、後見人は財産目録や収支予定表を家庭裁判所に出します(申立てのときに家族が出したものとは別の書類です)。後見人の辞任について、民法844条は、正当な事由があるときに家庭裁判所の許可を得て辞めることができる、と定めています。厚生労働省の案内は、申立てのきっかけだった手続き(不動産の売却など)が終わったことは辞任の理由にならない、としています。

後見が終わるのは、次のどちらかの場合です。

  • 親が亡くなったとき
  • 親の判断する力が回復し、家庭裁判所が後見開始の審判を取り消したとき(民法10条)

親が亡くなると、後見人の権限は原則としてなくなります。ただ、民法873条の2により、必要があり、相続人の意思に反することが明らかなときを除いて、相続人が相続財産を管理できるようになるまで、財産の保存に必要な行為や、支払期限の来た債務の支払いができます。火葬や埋葬に関する契約などは、家庭裁判所の許可が要ります。このほかの相続の手続きが後見人にできるかは、家庭裁判所か司法書士・弁護士に確認してください。

たとえば、長女が後見人に選ばれた家では、長女は親の通帳を自分のお金と分けて管理し、何に使ったかの記録を残し、家庭裁判所に報告を続けることになります。その負担は親が亡くなるまで続くので、仕事や子育てと両立できるかを、候補者になる前に考えておく必要があります。専門職が選ばれた家なら、その報酬が親の財産から出ていく状態が続きます。

候補者になる人だけで抱えず、報告の時期や記録のつけ方を兄弟で共有しておくと、続けやすくなります。

出典:民法844条(e-Gov法令API)/民法873条の2(e-Gov法令API)/厚生労働省 成年後見はやわかり「後見人等の選任」

成年後見の費用が払えないときと相談先

申立ての費用や後見人の報酬が払えないときは、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」で助成を受けられることがあります。ただし、事業を行うかどうかと条件は市区町村ごとに決まります。

成年後見制度利用支援事業は、低所得の高齢者について、申立てにかかる費用(申立手数料・登記手数料・鑑定費用など)や後見人等の報酬を、市町村が助成する仕組みです。国の要綱では、親族が申し立てる場合も対象になりえます。一方で、市町村が任意で行う事業なので、実施しているか、所得や資産の基準、助成の額や範囲は、市区町村の要綱で決まります。

※お住まいの市区町村で確認してください。

相談できる公的な窓口は、次のとおりです。

  • 家庭裁判所:申立ての書式、郵便切手の額、住所地の考え方など手続きの案内
  • 地域包括支援センター:高齢者の総合相談と権利擁護を行う窓口。親のことで困っている点を最初に相談できる
  • 市区町村の高齢者福祉の窓口:成年後見制度利用支援事業の有無、市町村長による申立て

地域包括支援センターに相談しても話が進まないと感じるときの動き方は、次の記事にまとめています。

地域包括支援センターが頼りないと感じたら

たとえば、身寄りが少なく親族が誰も申し立てない、という家では、市区町村長が申し立てる制度が使われることがあります。ただ、これは市区町村長が特に必要と認めたときの制度で、子が申し立てないと決めれば市区町村が代わってくれる、というものではありません。

※お住まいの市区町村で確認してください。

親の預金から介護の費用が出せず困っている場合は、後見の前に使える仕組みもあります。

介護のお金が足りないとき

親が訪問販売で高額な契約をしてしまったことが、後見を考えるきっかけになる家もあります。契約そのものへの対処は、次の記事で先に確かめてください。

親が訪問販売で契約してしまったら

家族の間で意見が割れている、親の財産に不動産や借金がある、申立書をどう書けばいいか分からない、という場合は、ここからは司法書士・弁護士への相談になります。相談に行くときは、親の通帳の写しや年金の通知、介護保険の認定書、家族の関係を書いたメモを持っていくと、何が必要かを具体的に聞けます。

出典:厚生労働省「成年後見制度利用支援事業」/介護保険法115条の46(e-Gov法令API)/老人福祉法32条(e-Gov法令API)

成年後見を申し立てない場合の条件

親にまだ契約の内容を判断できる力があるなら、法定後見を申し立てる前に、任意後見や家族信託、日常生活自立支援事業で足りないかを確かめてください。申立ては、判断する力がもう衰えていて、ほかに手がないときの選択肢です。

任意後見は、親が元気なうちに、将来任せたい人と公正証書で契約しておく仕組みです(任意後見契約に関する法律3条)。契約しただけでは効力はなく、判断する力が不十分になってから、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から動き出します(同法2条1号・4条)。親が自分で任せる人を決められる点が、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見との違いです。家族信託との違いは、次の記事で比べています。

家族信託と後見の違い

申し立てないほうがよい、または急がなくてよいのは、次のような場合です。

  • 親がまだ契約の内容を判断できる:任意後見や家族信託を親と一緒に選べる
  • 困っているのが日々のお金の出し入れだけ:日常生活自立支援事業の金銭管理の援助で足りることがある
  • 目的が1回の手続きだけ:後見はその手続きが済んでも終わらないので、ほかの方法がないかを先に確かめる
  • 家族以外が後見人になることを受け入れられない:選ぶのは家庭裁判所なので、その前提で進められるかを話し合う

日常生活自立支援事業は、判断する力が不十分でも、契約の内容を判断できる力がある人を対象に、福祉サービスの利用の援助や日常的な金銭管理の援助を行う仕組みです。判断する力が大きく低下していると対象にならないことがあり、その場合は成年後見の領域になります。どこで受け付けているかは、お住まいの市区町村に聞いてください。

たとえば、母が軽い物忘れはあるものの自分の考えを話せる、という段階なら、母と相談して任意後見の契約を結んでおく道があります。逆に、父がすでに契約の意味を理解できない状態で、預金や実家を動かす必要があるなら、法定後見を申し立てることになります。

施設への入所の契約が、申立てのきっかけになる家もあります。施設か在宅かを考え始めたら、費用と契約の流れを先に確かめておくと、後見の手続きと並べて段取りを組めます。

在宅か施設か|施設を考え始めた人へ

出典:任意後見契約に関する法律2条(e-Gov法令API)/任意後見契約に関する法律3条(e-Gov法令API)/任意後見契約に関する法律4条(e-Gov法令API)/厚生労働省「日常生活自立支援事業」

よくある質問

成年後見人には毎月いくらくらい費用がかかりますか?

専門職が後見人になった場合の報酬は家庭裁判所が決めるもので、法律で額は決まっていません。横浜家庭裁判所のめやすは、上の「家族は後見人になれるか」に並べています。家族が後見人になった場合にこのめやすがそのまま当てはまるわけではないので、申立先の家庭裁判所で確かめてください。

成年後見人は家庭裁判所でどのように選任されますか?

家庭裁判所が、本人の心身の状態や財産の状況、候補者の職業や本人との利害関係、本人の意見などを考えて選びます(民法843条4項)。候補者を書いても、その人が選ばれるとは限りません。誰を選ぶかの判断には不服申立てができません。

成年後見制度では、どこまでやってくれるのでしょうか?

後見が始まると、親が自分でした契約などは取り消せるようになりますが、日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます(民法9条)。後見人が具体的に何を担うかは、家庭裁判所の案内で確かめてください。親が亡くなったあとにできることは限られます(民法873条の2)。

兄弟が申立てに反対したらどうなりますか?

申立書類には親族の意見書があり、兄弟の考えは家庭裁判所が事情を考える材料の1つになります。反対があるとどうなるかは事案ごとの判断で、ここでは結果を言えません。意見が割れているなら、申し立てる前に司法書士・弁護士に相談してください。

法律が変わると聞きましたが、待ったほうがいいですか?

成年後見制度は法改正が公布済みで、遅くとも2028年12月までに政令で決める日に変わります(施行日は未定)。最新の内容は家庭裁判所・法務省で確認してください。いま親の預金や契約で困っているなら、現行の制度で申し立てるかどうかを考えることになります。

申立ては自分でできますか、専門家に頼むべきですか?

家族が自分で書類をそろえて申し立てることはできます。財産が多い・不動産や借金がある・家族の意見が割れている、といった場合は、司法書士・弁護士に頼むことも考えてください。頼むときは、何に対する報酬かを見積で確かめてください。

順番のおさらい

  1. 申し立てる前に:後見人は家庭裁判所が選ぶ、取下げは許可制、原則として親が亡くなるまで続く、の3つを家族で確かめる
  2. 誰が・どこに:子も申し立てられる。申立先は親の住所地を管轄する家庭裁判所
  3. 類型:後見・保佐・補助のどれになるかは家庭裁判所の審判で決まり、診断名だけでは決まらない
  4. 書類:3か月の期限が示されていない財産の資料から集め、発行から3か月以内の書類は申立ての直前に取る
  5. 費用:後見開始は収入印紙800円と2,600円に郵便切手。鑑定があれば別に費用がかかる
  6. 期間:令和7年は2か月以内に終わった事件が71.1%。審判後の登記や金融機関の手続きは別
  7. 後見人:親族が選ばれたのは16.4%。専門職の報酬は家庭裁判所が決める
  8. 始まってから:報告が続き、辞任には正当な事由と許可が要る。きっかけの手続きが済んでも終わらない
  9. 払えないとき:成年後見制度利用支援事業は市区町村ごと。相談は家庭裁判所・地域包括支援センター・市区町村の窓口
  10. 申し立てない場合:親にまだ判断する力があるなら、任意後見・家族信託・日常生活自立支援事業を先に確かめる

成年後見の申立てで見落としやすいのは、書類や費用よりも、「家族が後見人になって、用が済んだら終わる」という思い込みのほうです。申し立てる前に、選ぶのは家庭裁判所で、始まれば親が亡くなるまで続くことを兄弟全員で分かっておけば、書類集めも候補者選びも、進めやすくなります。迷いが残るなら、書類を集め始める前に、家庭裁判所の手続きの案内か地域包括支援センターに一度相談してから動いてください。

介護にかかるお金の全体像は、次の記事にまとめています。

介護にかかるお金の全体像

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この記事を書いた人

親の介護と相続の手引き編集部です。親の介護と相続の手続きについて、法令や省庁・自治体の公式資料を原文で確かめ、確認日を添えてまとめています。

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