親の物忘れがひどいと感じたら何から動くか|記録・相談先・受診の促し方・お金の守り方

テーブルの上の書類
  • 電話のたびに同じ話をする。歳のせいなのか分からない
  • 病院に行こうと言うと、怒って話が終わってしまう
  • 本人を連れて行かずに、家族だけで相談できるのか知りたい
  • 通帳や財布をしょっちゅうなくしているらしい
  • コンロの火を消し忘れたと聞いて、怖くなった
  • 前より怒りっぽくなって、電話するのがしんどい
  • 兄弟は「歳だから普通」と言って取り合わない
  • 遠くに住んでいて、月に一度帰れるかどうか
  • 認知症かもしれない、と口にするのが怖い
  • 何かあってからでは遅い、とは分かっている

上記のような悩みに答えます。

親の物忘れが気になり始めた時期は、病名もまだなく、家族の誰も何も決めていない段階です。検索すると、加齢の物忘れとの違い、初期症状の一覧、受診先の案内が並びますが、中心は「本人をどう診てもらうか」で、家族の側で何を書き留め、誰がどの順で動くか、本人が受診を拒んだら次に何があるか、診断を待つあいだにお金と火をどう守るかまでは、あまり書かれていません。そこで、相談先と受診の入り口という基本を押さえたうえで、家族で作る記録メモ、受診を拒むときにつなげる市町村の仕組み、診断の前から打てるお金と火の守りまで、介護保険法・民法・特定商取引法の条文と国の要綱で確かめながら整理しました。歳のせいか病気かの見立てや薬のことは医師が判断する話なので、扱いません。

先に答え

親の物忘れがひどいと感じたら、受診を説得する前に、家族で「いつ・何が・どれくらい」を書き留め、家族だけで地域包括支援センターに相談してください。歳のせいか病気かは家族では決められないので、受診はかかりつけ医から切り出すと話しやすくなります。本人が受診を拒むときは、センターを通じて市町村の初期集中支援の仕組みにつなぐ道があります。診断を待たずに、お金の管理と火の始末の守りも並行して始めます。

2026年10月時点の制度で確かめています

目次

物忘れが増えたら、まず記録と家族だけの相談

最初にやることは、親を病院へ連れて行く説得ではありません。家族のあいだで気づいたことを書き留め、その記録を持って、親の住む地域の地域包括支援センターに家族だけで相談することです。受診の話も、お金や火の守りも、その相談の中で順番をつけていけます。

動く順番を、先に並べておきます。

  1. 電話や帰省で気づいた出来事を、日付と一緒に家族で書き留め始める
  2. 親の住所を担当する地域包括支援センターに、家族だけで電話する
  3. センターやかかりつけ医と相談しながら、受診の話を誰から出すかを決める
  4. 受診の返事を待つあいだに、お金の置き場所と火の始末の守りを整える

説得を後に回すのは、物忘れを指摘されること自体が、本人にとってつらい出来事になりうるからです。「また同じこと聞いてる」「病院で診てもらったら」と重ねて言われると、本人は物忘れを認めるより先に、言われたことへの反発で身を守ろうとします。そこで言い合いになると、次の電話も帰省も気まずくなり、家族が様子を知る機会そのものが減ってしまいます。記録と相談は、本人の返事を待たずに家族だけで始められる、数少ない手です。

たとえば、帰省の初日に親が同じ質問を何度か繰り返し、冷蔵庫に同じ食品がいくつも並んでいるのを見た場面を考えてみてください。その場で問いただせば、親は「たまたまよ」と返し、話はそこで終わります。同じ場面でも、見たことをその夜のうちに家族のメッセージに書き、翌週センターに電話して「こういう出来事が続いている。家族として何から始めればいいか」と聞けば、次の帰省で何を確かめればいいかを、家族以外の人と一緒に考えられます。

迷ったときは、「親に何かをさせること」と「家族が段取りを作ること」を分けて考えてください。前者は本人の気持ちが追いつくまで待つしかありませんが、後者は今日から始められます。なお、様子が急に大きく変わって緊急だと感じたときは、この順番を待たずにかかりつけ医や救急の相談窓口に連絡してください。

歳のせいかは家族では決められない

物忘れが歳のせいなのか、病気によるものなのかは、家族が見分けるものではありません。判断するのは医師です。家族の役目は、見分けることではなく、前と比べて何が変わったかを医師や相談先に正確に伝えることです。

家族が判定しないほうがいいのには、理由があります。家族が見ているのは、電話の数分間や帰省の数日間という、暮らしのごく一部です。その一部だけで「歳だから普通」と決めても、「もう病気だ」と決めても、どちらも根拠が足りません。物忘れの背景は一つとは限らず、見立てには診察が要ります。家族の中で結論を急ぐと、楽観した側と心配した側で言い争いになり、肝心の相談が後回しになりがちです。

「物忘れがひどくなるのは何歳頃か」という問いもよく見かけますが、年齢で線を引いても、目の前の親に当てはまるかは分かりません。見るべきは年齢ではなく、本人の以前の暮らしぶりと比べた変化です。家族が押さえておきたいことを並べます。

  • 歳のせいか病気かの判断は医師に任せ、家族は結論を出さない
  • 年齢ではなく、半年前や一年前の親と比べて何が変わったかを見る
  • 変化は「ボケてきた」のような言葉ではなく、出来事のまま書き留める
  • 兄弟と意見が違っても、結論ではなく記録を共有する
  • 病名を口にしなくても、相談と受診の段取りは進められる

「認知症かもしれない」と口にするのが怖い、と感じるのは自然なことです。ただ、相談や受診を進めるのに、家族がその言葉を本人に向けて使う必要はありません。センターへの相談も「最近、物忘れが増えた気がする」で始められます。2024年1月1日に施行された認知症基本法は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、国や自治体の施策を総合的に進めることを目的に掲げた法律です。この法律で新しいサービスや給付が受けられるわけではありません。

出典:共生社会の実現を推進するための認知症基本法1条(e-Gov法令API)/厚生労働省「認知症基本法概要」

たとえば、近くに住む兄は「親父も歳だから普通だよ」と言い、遠くに住む自分は心配している、という家を考えてみます。ここで「普通じゃない」と言い返すと、兄は自分の見方を守ろうとして、ますます動かなくなるかもしれません。代わりに「普通かどうかは分からないから、見たことだけ一緒に書いておかない?」と記録の共有を持ちかければ、兄も同じ材料を見ることになり、判断を医師や相談先に預ける形に移れます。

家族の中で「歳のせいか、病気か」を議論している時間は、記録を一行でも増やす時間に替えたほうが先につながります。答えを出すのは医師で、家族はその答えに必要な材料をそろえる側です。

受診の前に、家族で記録メモを作る

テーブルの上の書類

受診や相談の前に、家族で記録メモを作っておきます。書くのは「いつ・何が・どれくらい」と、それが暮らしにどう響いているかです。このメモがあると、相談先にも医師にも、家族が見ている変化が短い時間で伝わります。

メモが要るのは、診察や相談の場で、本人がふだんと違う様子を見せることがあるからです。初めての場所や人の前では、本人が気を張って受け答えをし、「特に困っていない」と話すことがあります。そうなると、家族が電話や帰省で見ている暮らしの変化は、その場にいない限り伝わりません。記録は、その場にいない時間の様子を伝えるための材料です。また、家族の記憶は「最近ひどい」という印象にまとまりやすく、いつから、どのくらいの間隔で起きているのかが抜け落ちます。書いておけば、そこを正確に答えられます。

メモに書く欄の例です。

書く欄 書き方の例 何に役立つか
いつ 日付と時間帯(朝の電話、帰省の夕食時など) 起きる場面の傾向が見える
何が 見た・聞いた出来事をそのまま(同じ質問を電話の中で何度か、財布の置き場所が分からなくなった) 評価ではなく事実が伝わる
どれくらい 以前と比べてどうか、前回の帰省のときはどうだったか 変化の速さが伝わる
暮らしへの影響 火の消し忘れ、支払いの行き違い、約束の取り違え、食事 急ぐ度合いを相談先と決められる
誰が見たか 自分・兄弟・近所の人・本人の話 情報の出どころが分かる

書き方で気をつけたいのは、判断の言葉を混ぜないことです。「認知症っぽい」「ボケてきた」と書くと、読む側は書いた人の印象しか受け取れません。「夕方の電話で、昼に話した内容をもう一度聞いてきた」と出来事のまま書けば、受け取った人が自分で判断できます。怒りっぽさも同じで、「怒りっぽくなった」とまとめるより、何の話をしていたときに、どんな言葉で怒ったかを書いておくと、怒りが出やすい場面が見えてきます。

置き場所は、紙のノートでも、家族のメッセージのグループでもかまいません。離れて暮らす兄弟がいるなら、全員が書き込めて読める場所にしておくと、誰か一人が抱え込まずに済みます。

たとえば、電話のたびに親が苛立った声になり、話すのがつらくなっていた人が、怒った場面を数回分書き出してみたとします。並べてみると、怒るのはどれも「予定を確認したとき」で、ふだんの世間話では穏やかだと分かることがあります。それなら電話では予定の確認を控え、予定の話は帰省したときに紙を見ながら一緒に確かめる、と話し方を変えられます。記録は相談先へ渡す材料であると同時に、家族自身の関わり方を見直す手がかりにもなります。

メモは完璧でなくてかまいません。一行でも日付つきの出来事があれば、相談の電話でも受診の付き添いでも、話の出発点になります。

地域包括支援センターに家族だけで相談

地域包括支援センターは、介護保険法で定められた、高齢者の暮らしと介護の相談を受ける公的な窓口です。物忘れが気になっている段階で、介護保険を使うかどうか決まっていなくても相談できます。本人の同席がなくても家族だけで相談できるセンターがあり、電話で受け付けているところもあるので、まず電話をかけて確かめてみてください。

センターの根拠は介護保険法115条の46で、市町村が設置できる施設とされています。センターが担う仕事の一つが、同じ法律の115条の45第2項1号に定められた総合相談で、高齢者の心身の状況や家での暮らしの実態を把握し、保健医療や福祉の情報を提供し、関係機関との連絡調整などを行うとされています。つまり、物忘れの相談を受けて、受診先や地域の仕組みに橋渡しするのは、センターの本来の仕事の一つです。

出典:介護保険法115条の46(e-Gov法令API)/介護保険法115条の45(e-Gov法令API)

相談先は、相談する子の住所ではなく、親が住んでいる地域を担当するセンターです。どこが担当か分からないときは、親の住む市区町村の介護保険の窓口に親の住所を伝えて尋ねれば案内してもらえます。費用がかかるかどうかも、最初の電話で確かめておくと安心です。

電話では、前の項目の記録メモを手元に置き、次のことを順に話すと伝わりやすくなります。

  • 気になり始めた時期と、記録メモにある具体的な出来事
  • 火の消し忘れ、お金の行き違い、訪問販売など、暮らしの中で困っていること
  • 親は一人暮らしか、近くに頼れる人がいるか
  • かかりつけ医がいるか、本人は受診をどう受け止めているか
  • 自分がどのくらいの間隔で帰省や電話ができるか

相談しても、その場で介護保険の申請や受診が決まるわけではありません。家族の話を聞いたうえで、受診先の候補、家族以外の人が関われる入り口、物忘れの相談を専門に受ける仕組みへのつなぎ方などを一緒に考えてもらう場です。どこまで対応できるかは地域と状況で違うので、自宅を訪ねてもらえるかどうかも含めて聞いてみてください。

たとえば、遠方に住む娘が平日の昼休みに親の地域のセンターへ電話し、記録メモを読み上げながら「受診を勧めたいが、本人が嫌がりそうで切り出せない」と伝えたとします。その電話で、次の帰省までに確かめておくこと、かかりつけ医に先に伝えておく方法、拒まれたときに相談できる仕組みの名前などを聞いておけば、帰省の日に一人で説得する必要はなくなります。

センターへの相談は、親の暮らしに口を出す第一歩ではなく、家族の判断を一人で抱えないための第一歩です。相談しても何かが決まるわけではないので、迷っているうちに一度かけておくほうが、後の動きが速くなります。

地域包括支援センターは市町村が設置するほか、市町村から委託を受けた法人が設置する場合もあるため、名称(「高齢者あんしんセンター」など)と担当区域は自治体によって違います。※お住まいの市区町村で確認してください。

受診の話を誰から、どう出すか

受診の話は、家族が帰省の日にいきなり切り出すより、かかりつけ医やセンターに先に状況を伝え、誰から話を出すかを決めてから進めます。最初の受診先は、いま通っているかかりつけ医から入ると話しやすくなります。

かかりつけ医から入るのは、本人にとって「物忘れのために新しい病院へ行く」より、「いつもの通院のついでに相談する」ほうが受け入れやすい場合があるからです。血圧や持病で定期的に通っている医師がいれば、次の通院に付き添い、記録メモを見せて家族から見た変化を伝えます。診察の前にメモを渡せるかどうかは医療機関によって違うので、受付や電話で事前に聞いておくと、本人の前で家族が細かく話さずに済みます。どの診療科や専門の医療機関が合うかは医師が判断することなので、家族が先回りして決める必要はありません。かかりつけ医がいない場合は、受診先をセンターに相談してください。

専門の受診先の候補としては、認知症疾患医療センターがあります。都道府県と指定都市が指定する病院や診療所で、国の要綱では、専門医療相談、診断とそれに基づく初期対応、診断後の本人と家族への相談支援などを行うとされています。専門医療相談には、受診の前に家族が電話や面談で相談するものも含まれています。受けられる内容や予約の方法はセンターごとに違うので、「受診の前に家族だけで相談できるか」を問い合わせてみてください。

出典:厚生労働省「認知症疾患医療センター運営事業実施要綱」(日本精神科病院協会掲載)

本人に話すときの組み立てを、比べておきます。

受診の話がこじれやすい出し方、通りやすい出し方
こじれやすい

  • 物忘れを並べて指摘する
  • 病名を出して検査を迫る
  • その日のうちに決着させる
通りやすい

  • 子の心配を主語にして話す
  • いつもの通院に付き添う形にする
  • 断られたら日を改める

伝え方で大切なのは、ごまかさないことです。「健康診断だから」と別の理由で連れて行くと、診察室で物忘れの話が出たときに本人が裏切られたと感じ、次の受診が難しくなることがあります。「最近、電話で話がすれ違うことがあって、私が心配している。次の通院のとき一緒に行ってもいいかな」と、子の気持ちを主語にして、付き添いの了解から取りにいくほうが、本人の気持ちを損ねにくくなります。

たとえば、母親が父親の物忘れを心配していても、父親は母親の言うことには反発しやすい、という家もあります。その場合は、話を出す人を、父親が日ごろ信頼している別の家族や、かかりつけ医に替えることを考えます。同じ内容でも、言う人が替わるだけで受け止め方が変わることがあります。誰から話すと通りやすいかは家族がよく知っている情報なので、センターに相談するときにも伝えておいてください。

受診は一度の帰省で決めるものではない、と最初から考えておくと、断られても慌てずに済みます。断られたら、その日は話題を変え、次の手に進めば足ります。

受診を拒むときの次の手

本人がどうしても受診を拒むときは、家族だけで説得を続けるのをいったん止め、センターを通じて市町村の初期集中支援の仕組みや、かかりつけ医からの声かけにつなぎます。拒まれたことは失敗ではなく、次の相談の材料です。

拒まれたまま家族だけで押し続けると、受診の話が出るたびに親子げんかになり、本人の側で「病院」という言葉そのものが嫌な記憶と結びつきかねません。そうなる前に、家族以外の専門職が関わる道に切り替えます。その道の一つが、介護保険法115条の45第2項6号に基づく事業の一つとして、国の要綱に置かれている認知症初期集中支援推進事業です。

国の要綱では、認知症初期集中支援チームとして、複数の専門職が、家族の訴えなどから認知症が疑われる人や認知症の人とその家族を訪問し、観察・評価や家族支援などの初期の支援を包括的・集中的に行うとされています。実施主体は市町村で、チームは地域包括支援センターや認知症疾患医療センター、診療所などに配置するとされています。家族からの訴えが訪問のきっかけになりうる点が、受診を拒む親を抱えた家族にとっての手がかりです。

出典:介護保険法115条の45(e-Gov法令API)/厚生労働省「地域支援事業実施要綱」

受診を拒まれたら、家族以外の道へ
  1. 1その日は引く言い合いにしない
  2. 2記録に残す拒んだ言葉と場面
  3. 3センターに伝える拒まれたことも相談
  4. 4次の担い手を決めるかかりつけ医・支援の仕組み

センターには「受診を勧めたが断られた。そのときはこう言っていた」と、記録メモと一緒に伝えます。拒んだときの本人の言葉は、どこに抵抗があるかを考える材料になります。「病院は嫌い」なのか、「自分はおかしくない」なのか、「お金がかかる」なのかで、次に誰がどう関わるかが変わるからです。

ただし、初期集中支援の仕組みは、名称、窓口、どんな人を対象に、どのように訪問するかが市町村ごとに違います。チームという名前で呼ばれていない地域もあります。家族が名称を調べて直接申し込むより、センターに「受診を拒んでいる。訪問して関わってもらえる仕組みはあるか」と聞くほうが確実です。条件に当てはまれば使えると決まっているものではないので、使えるかどうかもセンターと一緒に確かめてください。

地域の民生委員も、家族以外に相談できる人の一人です。民生委員法14条では、住民の生活状態を必要に応じて把握し、援助を必要とする人の生活の相談に応じ、福祉サービスを使うための情報提供などを行うことが職務とされています。担当の民生委員が誰かは、市区町村やセンターに聞いてください。

出典:民生委員法14条(e-Gov法令API)

たとえば、一人暮らしの父親が「俺はどこも悪くない」と受診を拒み、火の消し忘れも続いている場合は、急ぐ事情があることをセンターに伝えます。火やお金の危険が差し迫っているかどうかで、相談先が動く速さも変わりうるからです。反対に、暮らしが回っていて本人も穏やかなら、かかりつけ医の次の通院で医師から話を出してもらう、といったゆっくりした進め方も選べます。

※初期集中支援の仕組みの名称と窓口、民生委員の担当地区は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

診断の前にお金を守る

お金の守りは、診断を待たずに始められます。家族が今日できるのは、通帳や印鑑の置き場所を本人と一緒に決めることと、契約のトラブルに気づける目を持つことです。そのうえで、日常の金銭管理を手伝う公的な仕組みと、判断能力が大きく落ちたときの成年後見を、窓口と一緒に知っておきます。

診断の前から備えるのは、お金のトラブルが診断を待ってくれないからです。通帳や財布をなくして再発行を繰り返す、同じ品物を何度も買う、訪問販売の契約書が見つかる、といったことは、物忘れが増えた時期に家族が気づきやすい出来事です。気づいたときに使える仕組みを知っておけば、慌てずに窓口へつなげます。

守りたいことと、使える仕組みを並べます。

守りたいこと 使える仕組み 相談する窓口
訪問販売で契約した クーリング・オフ(特定商取引法9条) 消費生活センター
必要な量を著しく超えて買わされた 過量販売の解除(特定商取引法9条の2) 消費生活センター
支払いや預金の出し入れを手伝ってほしい 日常生活自立支援事業 市区町村の社会福祉協議会
判断能力が大きく落ち、契約や財産の管理ができない 成年後見(民法7条・11条・15条) 家庭裁判所・地域包括支援センター

訪問販売のクーリング・オフは、法律で定められた書面を受け取った日から数えて8日以内に、書面か電子メールなどの電磁的記録で通知します。通知は相手に届いた時ではなく、発した時に効力が生じます。書面が渡されていない、書面に不備がある、うそを告げられたり脅されたりして期間内に通知できなかった、といった場合は、8日を過ぎても使える余地があります。日常生活で通常必要な量を著しく超える契約は、契約の時から1年以内であれば解除を求められる場合があります。どちらも、個別の契約に当てはまるかどうかは事情によって変わるので、契約書を手元に置いて消費生活センターに相談してください。訪問販売の契約については、こちらで詳しくまとめています。

出典:特定商取引法9条(e-Gov法令API)/特定商取引法9条の2(e-Gov法令API)

親が訪問販売で契約してしまったときの対処

日常生活自立支援事業は、社会福祉法2条3項12号の福祉サービス利用援助事業にあたる国の事業で、都道府県や指定都市の社会福祉協議会が実施主体です。厚生労働省の資料では、福祉サービスの利用の手伝いのほか、預金の払い戻しや預け入れの手続きなど、日常生活費の管理(日常的金銭管理)を援助するとされています。対象は、判断能力が不十分で、かつこの事業の契約の内容を判断できる能力がある人です。判断能力が大きく落ちてからでは契約そのものが難しくなりうるため、早めに知っておく意味があります。利用料は社会福祉協議会ごとに決まっているので、窓口で聞いてください。

出典:社会福祉法2条(e-Gov法令API)/厚生労働省「日常生活自立支援事業【概要】」

成年後見は、診断名で始まるものではなく、家庭裁判所の審判で始まります。民法では、判断能力が不十分な人には補助(15条)、著しく不十分な人には保佐(11条)、判断能力を欠く常況にある人には後見(7条)と、程度に応じた3つの類型が定められ、本人・配偶者・四親等内の親族などが家庭裁判所に請求します。補助は、本人以外が請求するときは本人の同意が要ります。なお、成年後見制度は法改正が決まっていて、数年内に段階的に変わります。最新の内容は家庭裁判所や法務省で確認してください。ここからは家庭裁判所・司法書士・弁護士へ。申立ての手続きや、親に合う類型の見通しは、家庭裁判所の手続案内や、司法書士・弁護士に相談してください。どこに聞けばいいか分からなければ、まず地域包括支援センターに相談すれば窓口を教えてもらえます。

出典:民法7条(e-Gov法令API)/民法11条(e-Gov法令API)/民法15条(e-Gov法令API)

たとえば、母親が「財布を盗られた」と言い出した場合、家族が「誰も盗っていない」と言い返すと、本人は疑いを強めることがあります。その場は一緒に探し、見つかった場所を記録メモに書き、通帳と印鑑の置き場所を本人と一緒に決め直すほうが、関係を保ったまま守りを固められます。そのうえで、支払いや預金の出し入れに手助けが要りそうなら社会福祉協議会に、すでに契約や財産の管理が自分では難しそうなら家庭裁判所の窓口や専門家に、と次の相談先を分けて考えます。

※社会福祉協議会の窓口と利用料、消費生活センターの窓口は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

火の消し忘れと離れて暮らす見守り

湯のみを持つ手

火の消し忘れは、本人を責めても防げません。台所の道具と、家族が変化に気づける仕組みの両方で守ります。離れて暮らしているなら、電話だけに頼らず、暮らしの様子が分かる見守りを入れておくと、気づくのが遅れずに済みます。

火の消し忘れが怖いのは、物忘れの中でも、一度で取り返しのつかない結果につながりうるからです。「気をつけてね」と念を押しても、忘れたこと自体を覚えていなければ、本人にとっては身に覚えのない注意になります。注意を重ねるより、忘れても火事にならない道具と、忘れたことに家族が気づける仕組みに置き換えるほうが、本人の自尊心も傷つけずに済みます。

帰省したときに確かめておきたいことです。

  • 鍋やフライパンの底に、焦げつきが増えていないか
  • 今のコンロに、消し忘れたときに火を止める機能が付いているか(取扱説明書かガス会社で確かめる)
  • 暖房器具や電気ポットなど、火や熱を使う家電の使い方が以前と変わっていないか
  • 台所の近くに、燃えやすい物が積まれていないか
  • 電話に出ない時間帯があるとき、その時間に何をしているか

自治体による見守りの仕組みもあります。国の地域支援事業の要綱では、市町村が任意で行う事業の一つとして、認知症高齢者の見守り体制づくりを目的とする認知症高齢者見守り事業が挙げられています。ただし、実施するかどうか、対象、自己負担は市町村が決めます。緊急通報や安否確認の仕組みも同じで、市区町村の高齢福祉の担当課かセンターで、親の地域に何があるかを聞いてください。

出典:厚生労働省「地域支援事業実施要綱」

※見守りの事業の有無・対象・自己負担は市区町村によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

たとえば、月に一度しか帰れない息子が、帰省のたびに鍋の焦げつきが増えていることに気づいた場合を考えます。電話では親が「料理はちゃんとしてる」と言うので、それ以上は確かめようがありません。この場合、コンロの安全機能を確かめたうえで、家電の使用状況や人の動きを離れて知らせる見守り機器を置くと、次の帰省までのあいだも、暮らしのリズムが崩れていないかを見られます。置くときは「見張る」ではなく「電話に出なかったときに、こちらが慌てないため」と、子の側の事情として伝えると、本人が身構えにくくなります。

火の始末やお金の様子を、離れていて電話だけで確かめ続けるのは難しくなります。見守りの道具は、親を管理するためではなく、家族が気づくのを遅らせないための道具として選んでください。種類ごとの向き不向きは、次の記事でまとめています。

見守りサービスの選び方/家電で親を見守る方法

※この枠にはプロモーション(アフィリエイト広告)を含みます。

近くの家族が毎日顔を出せるなら、まずはその声かけと記録から始められます。離れていて火の始末や暮らしの変化を電話だけで確かめ続けるのが難しいなら、生活の動きを知らせるセンサーや、本人の同意を得たうえでのカメラを置く家もあります。通販なら型ごとに並べて比べられるので、親に何が見えるのかを説明しやすいものから選んでください。

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様子見にするなら動く合図を決める

和室の廊下

いますぐ受診や相談に進まない、という選択もありえます。その選択をするなら、「こうなったら動く」という合図と、合図に当たったときに誰が動くかを、家族で先に決めておくことが条件です。

自分が気にしすぎかもしれない、兄弟も「歳だから」と言う、本人も困っていないと言う。そうした中で様子見を選ぶこと自体は、無責任ではありません。ただ、合図のない様子見は、何かが起きてから慌てて動くのと変わりません。合図を決めておけば、様子見は「何もしない」ではなく、「決めた条件が来るまで待つ」という家族の判断になります。

物忘れの場面で家族が決めておきたい合図の例です。

  • 火の消し忘れが、もう一度あった
  • 通帳や財布の紛失、支払いの行き違いが続いた
  • 見覚えのない契約書や請求書が見つかった
  • 慣れた道で迷った、帰り道が分からなくなったと聞いた
  • 電話で話がかみ合わない日が続くようになった

合図を決めたら、合図に当たったときにセンターへ電話する担当も決めておきます。「誰かが電話するだろう」では、全員が様子を見たまま時間がたちます。記録メモと同じ場所に合図と担当を書いておけば、兄弟の誰が気づいても同じ基準で動けます。

たとえば、近くに住む姉は「まだ大丈夫」と言い、遠くに住む弟は心配している家なら、どちらが正しいかを決めるより、「火の消し忘れがもう一度あったら、姉がセンターに電話する」と合図と担当をそろえるほうが話はまとまります。姉は自分の見立てを否定されずに済み、弟の心配も行き先を持ちます。

それでも迷いが残るなら、様子見を選んだ場合でも、センターへの相談だけは一度済ませておくことを勧めます。一度話してあれば、合図に当たったときに「前に相談した家族です」と話を始められ、記録メモの続きから相談できます。何かあってからでは遅いという感覚は、合図という形にしておくと、家族の共通の約束に変わります。

次に来るのは認定の話

物忘れの相談や受診が進むと、次は介護保険の要介護認定の話になります。診断がついても、それだけで介護保険のサービスが始まるわけではなく、使うには市区町村への認定の申請が別に要ります。

「介護保険はまだ早いのでは」と感じるのは自然なことです。申請しても、すぐにサービスを使わなければならないわけではありません。申請する時期が早すぎるかどうかも、センターで一緒に確かめられます。この段階で先に知っておくと慌てずに済むのは、次のようなことです。

  • 要介護認定は誰が申請でき、結果が出るまでにどのくらいかかるのか
  • 認定が出たとき、どんなサービスがどのくらいの負担で使えるのか
  • 物忘れがある親の場合、認定の調査で家族は何を伝えればいいのか

介護保険法27条11項では、認定の申請に対する処分は、申請のあった日から30日以内にしなければならないとされています。ただし、調査に日時を要するなど特別な理由があるときは、理由と見込みの期間を通知して延ばすことができます。実際にかかる日数は自治体や状況によって違います。記録メモは、認定の調査で家族がふだんの様子を伝えるときにも、そのまま使えます。

出典:介護保険法27条(e-Gov法令API)

たとえば、受診して物忘れについて医師の見立てを聞いたあと、本人は家事もこなせていて手助けはまだ要らない、という場合は、すぐに申請しなくても、仕組みだけ知っておけば足ります。反対に、火の始末や食事の支度に手助けが要るようになってきたなら、センターに申請の時期を相談するころ合いです。どちらの場合も、認定とお金の流れを先に知っておくと、動くときに迷いません。

認定とお金の流れは、次の記事で順番にまとめています。

認定・お金|要介護認定が出て、月にいくら出ていくか

同じ「ちょっと心配」の段階で、ほかの変化が気になるなら、こちらも参考にしてください。

親が外出しなくなったときの相談先/親がお風呂に入らないとき/親が食事を作らない・痩せたとき/親の介護、何から始める?

よくある質問

物忘れがひどくなるのは何歳頃ですか?

年齢で線を引いても、目の前の親に当てはまるかは分かりません。見るべきは年齢ではなく、以前の本人と比べて暮らしの中で何が変わったかです。変化に気づいたら、日付と出来事を書き留めて、地域包括支援センターやかかりつけ医に伝えてください。

親が認知症かもしれないと疑ったとき、どんな症状を確かめればいいですか?

症状を家族で確かめて判定する必要はありません。見立ては医師がします。家族の役目は、気になった出来事を「いつ・何が・どれくらい」で記録し、相談先に伝えることです。記録を持って、まず家族だけで地域包括支援センターに相談してください。

物忘れを治す方法はありますか?

治るかどうか、どんな手当てが合うかは、原因によって違い、医師が判断することです。家族が先に方法を探すより、受診につなげることが近道になります。受診の入り口は、いま通っているかかりつけ医が話しやすい候補です。

本人を連れて行かずに相談できますか?

地域包括支援センターには、本人の同席がなくても家族だけで相談できるセンターがあり、電話で受け付けているところもあります。認知症疾患医療センターにも、受診の前に家族が相談できる専門医療相談の窓口が設けられています。どちらも受け方は地域やセンターで違うので、最初の電話で確かめてください。

運転を続けていますが、やめさせるべきですか?

運転を続けてよいかどうかを、家族だけで決めつける必要はありません。運転していることと、運転中に気になった出来事を記録メモに書き、受診のときに医師に伝えてください。本人に話すときは、取り上げる話ではなく、心配している家族の気持ちから話を始めるほうが、こじれにくくなります。

診断がついたら、何が変わりますか?

診断がついても、それだけで介護保険のサービスや成年後見が始まるわけではありません。介護保険を使うには要介護認定の申請が、成年後見には家庭裁判所の審判が、それぞれ別に要ります。診断は、どの支えをどの順で使うかを、医師やセンターと一緒に考える出発点になります。

介護保険の申請は、まだ早いでしょうか?

早いかどうかは、親の暮らしぶりと手助けの要り方で変わります。申請してもサービスを使い始めることが決まるわけではないので、迷ったらセンターに申請の時期を相談してください。

順番のおさらい

  1. まず家族で:気づいた出来事を書き留め、親の地域の地域包括支援センターに家族だけで電話する
  2. 見立ては医師:歳のせいか病気かは家族で決めず、前と比べた変化を伝える役に回る
  3. 記録メモ:いつ・何が・どれくらい・暮らしへの影響・誰が見たかを、評価の言葉を混ぜずに書く
  4. 相談の中身:センターには記録メモを読み上げ、困っていることと家族の事情を伝える
  5. 受診の入り口:かかりつけ医から。専門の受診先として認知症疾患医療センターがある
  6. 拒まれたら:その日は引き、センターを通じて市町村の初期集中支援の仕組みやかかりつけ医につなぐ
  7. お金:置き場所を本人と決め、契約は消費生活センター、金銭管理は社会福祉協議会、後見は家庭裁判所と専門家へ
  8. 火と見守り:本人を責めず、道具と見守りで「忘れても気づける」形にする
  9. 様子見:動く合図と、合図に当たったときの担当を家族で決めておく
  10. 次に来ること:診断と認定は別の手続き。認定とお金の流れを先に知っておく

親の物忘れに気づいたとき、家族が最初に決めるのは、親をどう説得するかではなく、家族の側で何を書き留め、誰に、どの順で伝えるかです。記録と相談は本人の返事を待たずに始められ、お金と火の守りも診断を待たずに整えられます。そこまで済ませておけば、受診が少し先になっても、変化があったときに誰へ何を伝えればいいかは、もう家族の手元にそろっています。

センターや社会福祉協議会の名称と窓口、初期集中支援の仕組みや見守りの事業の有無は、自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

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この記事を書いた人

親の介護と相続の手引き編集部です。親の介護と相続の手続きについて、法令や省庁・自治体の公式資料を原文で確かめ、確認日を添えてまとめています。

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