- ヘルパーの話をしたら「他人を家に入れたくない」と突っぱねられた
- デイサービスは「年寄りの集まりだから行かない」と言う
- 一度来てもらったヘルパーを、その日のうちに断ってしまった
- 「子どもの世話にはならない」と言うけれど、実際は家族が回している
- 本人がうんと言わなくても、サービスを入れていいのか分からない
- 家族だけで見るのは、もう限界に近い
- ケアマネジャーに「親が嫌がっている」と相談していいのか迷う
- 事業所を変えれば、気が変わるのだろうか
- 嫌がる理由を聞いても、本人もうまく説明できない
上記のような悩みに答えます。
親が介護サービスを嫌がるのは、要介護認定が出た、あるいは出そうな時期に、家族がつまずきやすいところです。検索すると、拒む心理の解説や声かけのコツ、うまくいった家族の話が並びますが、説得の話に寄った記事が目立ちます。そこで、嫌がる理由・本人の同意・家族の負担という基本を押さえたうえで、理由ごとにサービスの種類や事業所、回数をどう変えられるか、ケアマネジャーとの計画づくりの場で家族が何を言えばいいか、使わないと決めるときに何を決めておくかまで、介護保険法と厚生労働省の基準で確かめながら整理しました。言いくるめる言い回しや、だまして連れて行く方法は扱いません。
親が介護サービスやヘルパーを嫌がるときは、説得を重ねるより、本人が選べる形をそろえることから始めてください。介護保険のサービスは本人の選択に基づいて使う仕組みで、嫌がる理由によって、訪問か通いか、どの事業所か、何回・何時間かを変えられます。家族の限界はケアマネジャーに伝えて計画に載せてもらい、主治医や地域包括支援センターから話してもらう道も使えます。
2026年10月時点の制度で確かめています
介護の入口で何から手を付けるかを全体で見たいときは、先に次のページで流れをつかんでおくと、この記事の位置が分かりやすくなります。
家族は「選べる形」を用意する
介護サービスを使うかどうかは、本人が選ぶことが制度の前提です。だから家族の役目は、親を「うん」と言わせることではなく、親が選べるだけの材料と選択肢をそろえることになります。
介護保険法2条3項は、保険給付は被保険者の心身の状況や置かれている環境に応じて、被保険者の選択に基づき、多様な事業者や施設から提供されるよう配慮して行われなければならない、と定めています。同じ条の4項は、要介護状態になっても、できる限り自宅で、その人の能力に応じて自立した暮らしを営めるよう配慮する、としています。この条文は理念を述べたもので、個々の権利や義務を直接決めたものではありません。それでも、家族が親の代わりに「使う」と決めて押し通す進め方が、制度の組み立てと逆向きであることは読み取れます。
この前提に立つと、家族の仕事は次のように言い換えられます。
- 嫌がっている中身を聞き分ける(他人が家に入ること・集団・お金・頼ること・物忘れのどれか)
- 中身に合わせて、訪問か通いか、事業所、時間や回数の組み合わせを出してもらう
- 家族ができること・できないことを、言葉にしてケアマネジャーに渡す
- 家族以外の人(主治医・地域包括支援センター)から話が出る経路を作る
- 使わない期間をつくるなら、その間の連絡方法と見直す合図を決めておく
「本人が選ぶ」と聞くと、家族は黙って待つしかないように感じるかもしれません。そうではなく、選択肢が「ヘルパーを入れるか、入れないか」の二択しか見えていないと、親は断る以外に自分の意思を示す方法がなくなります。選択肢が具体的に増えるほど、親は「これなら」と言える余地を持てます。
たとえば、入浴の介助だけが家族の手に余っている家なら、「ヘルパーを頼みたい」と切り出すより、「お風呂だけ、家で手伝ってもらうのと、通う所で入るのと、どちらが気が楽か」と聞くほうが、親にとって答えやすい問いになります。どちらも嫌だと言われたら、そこで初めて「何が嫌なのか」を聞く段階に進めます。逆に、家事全般が回らなくなっている家では、一つのサービスで全部を埋めようとせず、親が受け入れやすいものから一つずつ足していくほうが、結果として早く形になります。
なお、施設への入居を親が拒んでいる場合は、話の進め方が少し違います。この記事は在宅のサービスに絞っているので、施設の話は次のページに任せます。
親が嫌がる理由で打ち手が変わる

「嫌だ」という一言の中身は親によって違い、中身が違えば効く手も違います。理由を聞き分けずに同じ説明を繰り返しても、親の側から見れば同じ話を何度もされているだけになります。
理由を聞き分けるのが先なのは、サービスの側に変えられる部分がいくつもあるからです。訪問か通いか、どの事業所か、何曜日の何時間か。親が嫌がっているのがそのうちの一部なら、そこだけを変えれば済む場合があります。全部を拒んでいるように見えても、よく聞くと引っかかっているのは一点だけ、ということもあります。
下の表は、親がよく口にする言葉と、その裏にありそうな事情、試せることを並べました。事情の欄は編集部の推測で、親の本当の気持ちを決めつけるものではありません。本人に確かめる手がかりとして使ってください。
| 親の言葉 | 考えられる事情(推測) | 試せること | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 「他人を家に入れたくない」 | 家の中を見られたくない・知らない人への警戒 | 通う型から始める/時間を短くする/担当者のことを事前に相談 | ケアマネジャー |
| 「年寄りの集まりには行かない」 | 自分はまだそこまでではないと思いたい・集団が苦手 | 過ごし方の違う事業所を探す/見学や体験ができるか問い合わせる | ケアマネジャー・事業所 |
| 「お金がもったいない」 | 自己負担がいくらか見えていない・貯えを減らしたくない | 負担割合と使える枠を一緒に確かめる | ケアマネジャー・市区町村の介護保険の窓口 |
| 「子どもの世話にはならない」 | 頼る側に回ることへの抵抗 | 本人の暮らしで困っていることから話す | ケアマネジャー・地域包括支援センター |
| 「行ってみたけど嫌だった」 | その事業所・その日の過ごし方が合わなかった | 何が嫌だったかを聞き、事業所や曜日を変える | ケアマネジャー |
| 理由が毎回変わる・説明できない | 物忘れが関わっている可能性 | 受診や相談につなぐ | 地域包括支援センター・主治医 |
ここで気をつけたいのは、「子どもの世話にはならない」と言う親に、「私たちの負担を減らすためだから」と言い換えて頼むことです。子を思う親には断りにくい頼み方ですが、罪悪感で動いた利用は、本人が納得して選んだものとは言えません。本人の暮らしの中で本人が困っていること、たとえば「重いものを買って帰るのがきつい」「お風呂の掃除がおっくう」から話すほうが、本人の選択として受け止めやすくなります。
たとえば、同じ「ヘルパーは嫌だ」でも、一人暮らしで家の中が片付いていないことを気にしている親と、以前に来た人と相性が合わなかった親とでは、次の一手が逆になります。前者なら、家に人を入れない通いの形を先に試す意味があります。後者なら、訪問そのものではなく「あの人」が嫌だった可能性があるので、事業所や担当者について相談する余地があります。表の「試せること」は、どれか一つを選ぶものではなく、理由が分かったところから順に当てていくための手がかりです。
入浴を嫌がる、外に出たがらないといった変化が重なっているときは、サービスの話の前に別の手順が要ることがあります。
聞き分けのこつは、一度で聞き出そうとしないことです。帰省のたびに一つずつ、親の言葉をそのまま書き留めておくと、ケアマネジャーに伝えるときの材料にもなります。
家族の限界はケアマネに伝えて計画に
家族が「もう回らない」と感じているなら、その限界はケアマネジャーに具体的に伝え、ケアプランの中で扱ってもらってください。親の嫌がりと家族の限界は、どちらか一方だけを見ても計画になりません。
要介護の人のケアプラン(居宅サービス計画)は、ケアマネジャーが原案を作り、サービス担当者会議を開いて担当者から意見を求め(やむを得ない理由がある場合は、担当者への照会で代えられる例外があります)、そのうえで内容を利用者や家族に説明し、文書で利用者の同意を得てから使い始める、という手順が国の基準で決められています。サービス担当者会議は、利用者と家族の参加を基本としつつ、サービスの担当者を集めて開く会議とされています。本人が同意していないサービスを、ケアマネジャーが勝手に計画に入れて始める仕組みにはなっていません。
出典:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準13条(e-Gov法令API)
この手順の中には、家族が自分の事情を出せる場面が少なくとも二つあります。原案を作る前の相談と、サービス担当者会議です。家族の希望どおりに計画が決まるわけではありませんが、家族が何をどこまでできるかが伝わっていないと、ケアマネジャーは「家族が見られる」前提で原案を組むしかありません。
- 1限界を書き出す曜日・時間・できないこと
- 2ケアマネに伝える本人の嫌がり方も一緒に
- 3担当者会議家族の参加が基本
- 4原案の説明を受ける本人と家族が聞く
- 5文書で同意本人が納得してから
ケアマネジャーに渡すメモには、次のことを書いておくと話が具体的になります。
- 家族が手伝える曜日と時間帯(仕事・子育て・通う距離を含めて)
- 家族ではもうできないこと(夜間の付き添い、入浴の介助など)
- 親が嫌がっていることと、親が口にした言葉そのもの
- 親が「これならいい」と言ったこと、言いそうなこと
- このまま続くと家族の誰が、いつごろ倒れそうか
たとえば、平日は仕事で日中いない子が、毎晩の食事と週末の入浴を一人で担っている場合、「なんとかやれています」と伝えると、計画は今の形のまま進みます。「入浴は週末だけで、平日は誰も見ていない。自分は残業が増えると夜も行けない」と伝えれば、平日の昼に何を入れるか、入浴をどこで手当てするかが話題に上ります。そのうえで親が訪問を嫌がっているなら、通いの形や時間の短い利用から始める案を出してもらう、という順に進められます。
ケアマネジャーに「親が嫌がっている」と相談するのは、遠慮することではありません。本人の不安や嫌がっていることを伝えて原案を調整してもらうことは、計画を作る過程でケアマネジャーと話してよい内容です。
他人を家に入れたくないと言われたら
「他人を家に入れたくない」と言う親には、家に人が入る形を無理に押し込まず、入る人と時間を小さく始める順番を組んでください。家に入らない形から試す道もあります。
ヘルパー、つまり訪問介護は、介護保険法8条2項で、自宅で介護福祉士などが入浴・排せつ・食事などの介護やその他の日常生活上の世話を行うもの、と定められています。暮らしの場そのものにサービスが入ってくるので、自分の家を自分の城と感じている人ほど抵抗が出ます。一方、デイサービス(通所介護)は8条7項で、施設に通って入浴・食事などの介護や機能訓練を受けるもの、とされていて、家には人が入りません。同じ入浴の手当てでも、家で受けるか、通う先で受けるかを選べます。
- 1通う形を試す家に人を入れずに
- 2短い時間で家事の一部だけ
- 3同じ顔ぶれに担当者のことを相談
- 4様子を見て広げる本人の言葉を聞いて
試す順番の考え方は次のとおりです。
- 家に人を入れずに済む通いの形を、まず候補に出す
- 訪問を入れるなら、時間を短く、内容を一つに絞って始める
- 来る人が毎回変わるのが不安なら、担当者のことを事前にケアマネジャーに相談する
- 本人が「この人ならいい」と言ったら、その形を土台に少しずつ広げる
担当者を固定できるかどうかは事業所に確かめることで、約束されるものではありません。親が何を不安に思っているかは、ケアマネジャーを通じて事前に伝えておいてください。
たとえば、台所を他人に触られるのが嫌な親なら、調理の手伝いより先に、浴室の掃除や買い物の手伝いのように、本人の聖域から遠いところから始めるほうが入りやすい場合があります。反対に、家の中が散らかっているのを見られたくない親には、「片付けてから来てもらおう」と家族が先回りすると、かえって負担が増えて断る理由が強まります。家の中のどこを見られるのが嫌なのかを聞き、そこを避ける内容から入れると、親の側の防御も下がっていきます。
一度ヘルパーを断ってしまった場合も、それで道が閉じるわけではありません。何が嫌だったのかを聞き、時間・内容・人のどれを変えれば試せそうかをケアマネジャーに伝えて、もう一度組み直してもらってください。
デイを「年寄りの集まり」と嫌がるとき
デイサービスを嫌がる親には、「デイ」をひとまとめにせず、事業所ごとに過ごし方が違うことを前提に、親に合いそうな所を探すところから始めてください。見学や体験ができるかは、事業所に問い合わせて確かめます。
通所介護は、施設に通って入浴・排せつ・食事などの介護やその他の日常生活上の世話、機能訓練を受けるサービスです。条文が決めているのはこの枠までで、一日の過ごし方、集団で何かをするのか、一人で過ごす時間があるのか、といった中身は事業所によって違います。親が「年寄りの集まり」と言うとき、何を思い浮かべているかは、本人に聞いてみないと分かりません。なお、地域密着型の通所介護や認知症の人向けの通所介護は、法律上は別の種類として定められています。
親がデイを嫌がるときに確かめたいことは、次のようなものです。
- 集団で同じことをするのが嫌なのか、知らない人と話すのが嫌なのか
- 一日の長さが負担なのか、送り迎えの車が嫌なのか
- 「行く理由」が見えないのか(入浴のため・体を動かすため、など)
- 一度行って、具体的に嫌なことがあったのか
たとえば、人付き合いはそれほど苦にならないが、子ども扱いされるのが嫌だという親なら、体を動かすことに重きを置く事業所のように、目的のはっきりした所のほうが受け入れやすい場合があります。逆に、人の多い場所そのものが苦手な親なら、小さな規模の所や、家に人が来る形のほうが合うかもしれません。どちらに当たるかは、事業所の様子を見てみないと分からないので、ケアマネジャーに親の性格を伝え、候補を出してもらうのが近道です。
見学や体験利用ができるかどうか、できる場合の条件や費用は、事業所に確かめてください。「見学できますか」「試しに一度だけ利用することはできますか」と、ケアマネジャー経由か事業所に直接問い合わせてください。見学に誘うときは、行き先と目的を本人にそのまま伝え、断られたらその日は引くことが、次の機会を残すことにつながります。
体験して「やっぱり合わない」と言われた場合は、事業所が合わなかったのか、通いそのものが合わなかったのかを分けて聞いてください。前者なら別の事業所を探す価値があり、後者なら訪問の形に切り替えることを考えます。
介護サービスの事業所・回数は変えられる

一度決めたサービスでも、事業所・サービスの種類・回数や時間は、ケアマネジャーに相談して組み直せないか確かめられます。親が「もう嫌だ」と言ったときは、全部をやめる前に、変えられる部分がないかを見てください。
国の基準では、ケアマネジャーの事業所は、利用者が複数のサービス事業者の紹介を求めることができると説明することになっています。ケアマネジメントは利用者の選択に基づき、特定の種類や事業者に不当に偏らないよう、公正中立に行うことも基準(1条の2)に書かれています。
| 変えたいもの | 誰に言うか | 確かめておくこと |
|---|---|---|
| サービスの事業所 | 担当のケアマネジャー | 何が合わなかったか(人・時間・雰囲気) |
| サービスの種類(訪問か通いか) | 担当のケアマネジャー | 本人がどちらなら試せそうか |
| 回数・時間・曜日 | 担当のケアマネジャー | 家族の手が空く曜日と、本人の生活の流れ |
| ケアマネジャーの事業所 | いまの事業所(書類の交付)・新しく頼みたい事業所(引き受けられるかの確認) | 他の事業所を希望するとき、いまの事業所は直近のケアプランと実施状況の書類を渡す基準になっている |
ケアマネジャーとの相性が合わないと感じる場合もあります。別のケアマネジャーの事業所を希望するとき、いまの事業所は、直近のケアプランとその実施状況に関する書類を利用者に渡すことが基準で決められています。新しい事業所が引き受けてくれるかどうかは、その事業所の状況によるので、先に問い合わせてください。
回数を増やす、種類を足すときに気になるのがお金です。在宅のサービスには、要介護度ごとに1か月に使える枠(区分支給限度基準額)があり、1単位10円の地域の目安で、要介護1は167,650円、要介護2は197,050円、要介護3は270,480円、要介護4は309,380円、要介護5は362,170円です。1単位の単価は地域区分によって違うので、実際の枠の金額はお住まいの地域で変わります。
出典:介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(厚生労働省)
この枠の中で使った分のうち、利用者が払うのは原則1割です。合計所得金額が160万円以上で、年金収入とその他の合計所得金額が単身で280万円以上、2人以上の世帯で346万円以上の場合は2割になり、合計所得金額が220万円以上で、年金収入とその他の合計所得金額が単身で340万円以上、2人以上の世帯で463万円以上の場合は3割になります。親の割合は、市区町村から届く負担割合証で確かめてください。
「お金がもったいない」と言う親には、この枠と負担割合を、ケアマネジャーに一緒に見せてもらうのが確実です。いくらになるか分からないから嫌だ、という親の不安は、目安が見えるだけで小さくなることがあります。
たとえば、週に何回もデイに通うのは嫌だが、入浴だけは家族も手に負えないという場合、通いの回数を減らして、その分を短時間の訪問に振り替える、といった組み替えを相談できます。体の状態が変わって今の枠では足りないと感じたら、認定の有効期間の途中でも、要介護の人は要介護状態区分の変更を市区町村に申請できます(介護保険法29条)。結果が出るまでの日数は市区町村に確かめてください。
デイ・ショートステイ・ヘルパーを組み合わせた一週間の形は、次のページで具体的に見られます。
デイ・ショート・ヘルパーの組み合わせ方|在宅の一週間の組み立て
主治医や地域包括から話してもらう
子が言うと反発される話も、主治医や地域包括支援センターの職員から出ると、親が自分の体や暮らしの問題として受け止めやすくなることがあります。家族だけで話を出し続けるより、家族以外の口から話が出る経路を作ってください。
地域包括支援センターは、介護保険法115条の46に根拠がある公的な窓口で、市町村が設置できるほか、市町村から委託を受けた法人が届け出て設置することもできます。地域の高齢者の心身の状況や暮らしの実態を把握し、関係する制度の情報を伝え、関係機関との連絡調整を行う総合相談支援も、センターの仕事の一つです。親がサービスを嫌がっていることも、家族の相談として持ち込めます。
センターの名称(「高齢者あんしんセンター」など)と担当区域は自治体によって違います。相談先は子の住所ではなく、親が住んでいる地域を担当するセンターです。※お住まいの市区町村で確認してください。
主治医には、通院に付き添ったときに「家族から見た様子」をメモで渡し、医師として気になることがあるかを聞くところから始めます。医師から入浴や暮らしの注意について話が出れば、親にとってはサービスの話が子の心配ではなく自分の体のことになります。主治医が話してくれるかどうかは医療機関によるので、頼む前に、家族から状況を伝えてよいかを確かめてください。
物忘れが関わっていそうなときは、もう一つの道があります。国の要綱では、在宅で暮らす、認知症が疑われる人や認知症の人について、複数の専門職が自宅を訪ねて観察・評価や家族支援などの初期の支援を集中的に行う「認知症初期集中支援チーム」が置かれています。これは認知症が疑われる場合の仕組みで、当てはまるかどうかの線引きやチームの窓口は市町村の運用で違います。物忘れが気になるなら、地域包括支援センターに「認知症が疑われるが、本人がサービスも受診も嫌がっている」と伝え、使えるかどうかを聞いてください。
出典:厚生労働省「地域支援事業実施要綱」(取得できた令和4年改正版)
たとえば、同じ「行かない」でも、昨日決めたことを今日は覚えていない、という様子があるなら、嫌がっているのはサービスそのものではなく、物忘れが関わっている可能性もあります。この場合は、説明を重ねても伝わらないことがあるので、物忘れの相談を先に進めるほうが順番として合っています。物忘れに気づいたときの相談の順番は、次のページで整理しています。
介護サービスを使わないなら決めておくこと
本人の意向を受けて、しばらくサービスを使わない、という判断もありえます。その選択をするなら、家族が続けられる範囲、見守りの代わり、見直す合図の三つを先に決めておくことが条件です。
「本人がいいなら、それでいい」という兄弟の意見も、本人の選択を重んじるという意味では間違っていません。ただ、使わないと決めた日から、その分の手当ては家族の誰かが引き受けることになります。誰が、何を、どこまで引き受けるのかを決めないまま様子を見ると、気づいたときには一人に負担が集まっています。
決めておくことは次のとおりです。
- 家族が続けられる範囲:誰が、何曜日に、何を担うか。続けられない日が出たらどうするか
- 見守りの代わり:電話の時間、近所の人との連絡、市区町村の見守りの仕組みが使えるか
- 見直す合図:転んだ、食事が抜けている、家族の誰かが仕事を休み始めた、など
- 合図に当たったときの担当:誰がケアマネジャーや地域包括支援センターに連絡するか
- 本人との約束:「合図に当たったら、もう一度一緒に考える」と本人にも伝えておく
見守りの代わりとして、市区町村が緊急通報や安否確認、見守りのサービスを用意していることがあります。ただ、実施の有無、対象になる人、使う機器、自己負担は市区町村ごとに違います。確かめる先は、市区町村の高齢福祉の担当課か地域包括支援センターです。※お住まいの市区町村で確認してください。
たとえば、近くに住む兄が「本人がいいなら」と言い、遠方の妹が心配している家なら、使わないこと自体には賛成したうえで、「週二回は兄が夕方に寄る」「妹は毎晩決まった時間に電話する」「転んだと聞いたら兄がケアマネジャーに連絡する」と役割を決めておくと、意見が違ったままでも前に進めます。兄の訪問が続かなくなった時点で、それ自体が見直す合図になります。
使わない期間は、本人にとっても考える時間になります。合図に当たって「もう一度考えよう」と持ちかけたとき、最初に合図を一緒に決めておけば、本人にも「前に決めた合図だ」と伝えやすくなります。
子の側が限界なら先に手を打つ
親が嫌がっている間に子の側が限界に近づいているなら、親の説得より先に、子の負担を減らす手を打ってください。家族が倒れれば、親が望む在宅の暮らしも続けられなくなります。
親がサービスを拒むと、その分の手当ては家族に回ってきます。仕事、自分の家族、通う時間を削りながら、説得役まで引き受けていれば、疲れるのは当然のことです。親にきつい言葉が出てしまうのも、性格の問題というより、引き受けている量の問題であることもあります。
市町村によっては、介護保険の地域支援事業の任意事業として、家族介護者向けの相談窓口や交流の場、介護教室、認知症の人の見守り、家族の健康相談などを行っています。国の要綱には家族介護支援事業としてこうした取組が挙げられていますが、実施するかどうか、何をするか、費用がかかるかは市町村が決めます。まず地域包括支援センターか市町村の高齢者福祉の窓口に、「家族向けの支援で使えるものはあるか」と聞いてください。
子の側で先に打てる手は、次のようなものです。
- 説得役を降りる:サービスの話は、しばらくケアマネジャーや主治医を交えた場だけでする
- 窓口を分ける:ケアマネジャーとのやり取り、通院の付き添い、買い物を兄弟で分ける
- 自分の状況も伝える:子が限界だということ自体を、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する
- 勤め先の制度を確かめる:介護に関する休みや相談窓口が勤め先にあるかを、使う前に一度見ておく
たとえば、仕事を休みがちになった、夜眠れない、自分の家族との会話が減った、という変化が続いているなら、家族が続けられる範囲を超え始めています。その場合は、親の同意を待つ間も、自分の状況をケアマネジャーに伝え、家族の分担と計画の見直しを相談してください。仕事との両立、介護をしたくない気持ちとの向き合い方は、それぞれ次のページで扱っています。
サービスの話が進み始めると、次は要介護認定の区分と、毎月いくら出ていくかの話になります。先に仕組みを見ておくと、ケアマネジャーとの相談で何を聞けばいいかがはっきりします。
よくある質問
介護サービスを受けたがらない親はどうすればいいですか?
説得を重ねるより、何が嫌なのかを聞き分け、それに合わせてサービスの種類や事業所、時間を変えた案をケアマネジャーに出してもらってください。家族の限界も具体的に伝えて、計画の中で扱ってもらいます。主治医や地域包括支援センターから話してもらう道もあります。
介護サービスを拒否する心理は?
人によって違い、家族が決めつけられるものではありません。家に他人が入ることへの警戒、まだそこまで弱っていないと思いたい気持ち、お金の不安、頼る側に回ることへの抵抗などが考えられますが、どれも推測です。本人の言葉をそのまま書き留め、ケアマネジャーと一緒に中身を確かめてください。
本人の同意がなくても介護サービスは使えますか?
ケアプランは、原案の内容を利用者や家族に説明し、文書で利用者の同意を得てから使い始める手順が国の基準で決められています。家族の判断だけでサービスを決めて進める仕組みにはなっていません。本人が納得できる形を探すことが先になります。
一度断った事業所に、もう一度頼めますか?
頼めるかどうかは事業所の状況によるので、ケアマネジャーを通して問い合わせてください。断った理由が人や時間の合わなさなら、その点を伝えたうえで組み直せないか相談できます。別の事業所の紹介を求めることもできます。
ショートステイも嫌がります。どうすればいいですか?
ショートステイ(短期入所生活介護)は、施設に短期間入所して介護や機能訓練を受けるサービスです。泊まりが嫌なのか、知らない場所が嫌なのかを聞き分け、通いのサービスで同じ事業所に慣れてから考える、といった順番をケアマネジャーに相談してください。家族が休む必要があることも、そのまま伝えてかまいません。
お金がかかるから嫌だと言われたら?
要介護度ごとの1か月の枠と、親の負担割合(原則1割、所得によって2割か3割)を、ケアマネジャーと一緒に確かめてください。いくらになるか見えないことが不安の中身なら、目安が分かるだけで話が進むことがあります。負担割合は市区町村から届く負担割合証に書かれています。
順番のおさらい
- 前提:サービスは本人の選択に基づいて使う仕組み。家族の役目は「選べる形」をそろえること
- 理由を聞き分ける:他人が家に入る・集団・お金・頼ること・物忘れで、試す手が変わる
- 計画に載せる:家族の限界を書き出してケアマネジャーに伝え、原案の説明と担当者会議の場で扱ってもらう
- 他人を入れたくない:通う形から、短い時間から、担当者のことを相談しながら小さく始める
- デイを嫌がる:事業所ごとに過ごし方が違う。見学や体験は事業所に問い合わせる
- 組み直す:事業所・種類・回数はケアマネジャーに相談して変えられる。費用は枠と負担割合で確かめる
- 第三者から:主治医や地域包括支援センターから話してもらう。認知症が疑われる場合は初期集中支援チームも
- 使わないなら:家族が続けられる範囲、見守りの代わり、見直す合図を先に決める
- 子が限界なら:説得役を降り、自分の状況もケアマネジャーや地域包括支援センターに伝える
親が介護サービスを嫌がるとき、家族は「どう言えば分かってもらえるか」を探しがちですが、言葉を磨くより、親が選べる中身を増やすほうが話は前に進みます。訪問か通いか、どの事業所か、何曜日の何時間か。選択肢が具体的になれば、親は断る以外の答え方を持てますし、家族は自分の限界を計画の中に置くことができます。今日できるのは、親の言葉と家族の限界をそれぞれ書き出して、ケアマネジャーか地域包括支援センターに渡すことです。
地域包括支援センターの名称と担当区域、家族向けの支援や見守りの仕組み、サービスの単価は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
