遺留分侵害額請求をする・されたらどうするか|手順・時効・費用

テーブルの上の書類
  • 父の遺言に「全財産を長男に」とあった。自分の取り分はもう無いのか
  • 遺留分という言葉は聞いたが、自分にあるのか、どれくらいなのかが分からない
  • 兄弟姉妹にも遺留分はあるのか、伯父や叔母から言われて不安になった
  • 請求に期限があると聞いた。いつから数えて、いつまでに何をすればいいのか
  • 内容証明を送らないといけないのか、口で伝えるだけではだめなのか
  • 生前に兄だけが家の建築資金をもらっていた。それも数えてよいのか
  • 弟から遺留分を払えと言われたが、受け継いだのは実家だけで現金が無い
  • きょうだいと揉めたくない。どこまで自分たちで話して、どこから弁護士に頼むのか

上記のような悩みに答えます。

遺留分は、遺言や生前の贈与があっても、配偶者・子・親といった近い相続人に最低限残る取り分で、侵害されたら多く受け取った人にお金で請求できます。ところが、請求する側は「知った時から1年」という短い期限があることを、請求された側は「すぐ払えないときの道」があることを、どちらも揉めごとの最中に知ることになりがちです。上位に並ぶ法律事務所や税理士法人の解説は、制度の定義・計算例・自分の事務所への相談で組み立てられていて、見た範囲では、請求された側の払い方や、1年を逃さないための最初の一手を順番に並べたものは薄めでした。そこで、遺留分がある人と割合、時効、額の式、算入される贈与という基本を押さえたうえで、請求する側とされた側それぞれの順番、遺留分の放棄と相続放棄の違い、自分たちだけで進めないほうがよい場面まで、民法の条文と裁判所・法務省の案内で確かめながら整理しました。

先に答え

配偶者・子・親には、遺言でも奪えない最低限の取り分(遺留分)があり、侵害されたら多く受け取った人にお金で請求できます。期限は、相続の開始と侵害する遺言や贈与を知った時から1年です。請求された側も、金銭で払うのが原則で、すぐ用意できなければ裁判所に支払の猶予を求められます。

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目次

遺言があっても遺留分侵害額請求はできる

テーブルの上の書類

遺言で「全財産を長男に」と書かれていても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が残ります。遺留分を侵害された人は、遺言で財産を受け取った人(受遺者)や生前に贈与を受けた人(受贈者)に、侵害された額に相当するお金の支払を請求できます(民法1046条1項)。これを遺留分侵害額請求といいます。

ここで押さえておきたいのは、請求の中身が「物を返して」ではなく「お金を払って」だという点です。2019年7月1日以降に開始した相続(その日以降に亡くなった方の相続)は、この金銭で請求する仕組みです。それより前に開始した相続には改正前の民法が適用され、名前も遺留分減殺請求と呼ばれ、物の返還を求めるのが原則でした(法務省の施行期日と経過措置の案内)。調べものをしていて「減殺請求」という言葉が出てきたら、亡くなった日が2019年7月1日より前の相続の話かどうかを先に見てください。

民法1046条1項が定めているのは、侵害された額に相当する金銭の支払の請求です。物を返してもらうことでも、遺産を分け直すことでもありません。「物を返してもらう」「遺産を分け直す」と考えると、請求の入り口からずれてしまいます。

たとえば、父が亡くなり、母はすでに他界していて、子が兄と自分の2人だけ、遺言には「全財産を兄に相続させる」とあった家を考えてみてください。自分には遺留分があるので、遺言の内容にかかわらず、兄に対してお金の支払を求めることができる、という見方になります。同じ家でも、亡くなったのが2019年7月1日より前なら旧法の話になり、進め方が変わります。

請求するかどうかは、遺留分を持つ人それぞれの選択で、請求しないまま期限が過ぎれば、遺言どおりで終わります。迷っているあいだにも期限は進むので、まず「自分に遺留分があるか」と「いつまでに動くか」の2つを確かめるところから始めてください。

出典:民法1046条(e-Gov法令API)/法務省「民法(相続関係)改正法の施行期日について」/裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

遺留分があるのは誰で、割合はどれだけか

遺留分があるのは、兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条1項)。配偶者・子(子が先に亡くなっていればその代襲者)・親などが当たり、兄弟姉妹には遺留分がありません。

遺留分の全体の割合は、親(直系尊属)だけが相続人なら財産の3分の1、それ以外の場合(配偶者や子が相続人にいる場合)は2分の1です。相続人が複数いるときは、この全体の割合に、各自の法定相続分を掛けたものが一人ひとりの遺留分の割合になります(同条2項)。

相続人の組み合わせ 遺留分の全体の割合 一人ひとりの割合の出し方
配偶者と子 2分の1 2分の1 × 各自の法定相続分(配偶者と子で各2分の1、子が数人なら子の分を均等に)
子だけ 2分の1 2分の1 × 各自の法定相続分(子の人数で均等)
配偶者と親 2分の1 2分の1 × 各自の法定相続分(配偶者3分の2・親3分の1)
親だけ 3分の1 3分の1 × 各自の法定相続分(親が2人なら均等)
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 兄弟姉妹の分はない(配偶者の割合の出し方は弁護士に確認)

出典:民法1042条(e-Gov法令API)/民法900条(e-Gov法令API)/国税庁 No.4132「相続人の範囲と法定相続分」

表の前提になるのは「そもそも誰が相続人か」です。配偶者は常に相続人で、ほかの家族は子、次に親などの直系尊属、その次に兄弟姉妹の順で、先の順位の人がいないときだけ相続人になります。内縁の配偶者は相続人に含まれません。遺留分の話は、この相続人の顔ぶれが決まってから始まります。

遺留分がある人、ない人
遺留分がある

  • 配偶者
  • 子(代襲者を含む)
  • 親などの直系尊属(子がいないとき)
遺留分がない

  • 兄弟姉妹
  • 相続人ではない人(内縁の配偶者など)
  • 相続を放棄した人

たとえば、子のいない夫婦の夫が亡くなり、妻と夫の弟が相続人になった家で、遺言に「全財産を妻に」とあった場合、弟には遺留分がないので請求はできません。一方、同じ夫婦で夫の母が存命なら、相続人は妻と母になり、母には遺留分があります。誰が生きているかで、遺留分を持つ人が入れ替わるということです。

相続を放棄した人は、初めから相続人でなかったものとされるので、遺留分もありません(民法939条)。自分に遺留分があるかを確かめるときは、亡くなった親の出生から死亡までの戸籍をそろえ、相続人の顔ぶれを先に固めるのが近道です。戸籍の取り寄せ先や必要な書類は、※お住まいの市区町村で確認してください。

遺留分侵害額請求は「知った時から1年」

遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消えます。相続開始の時から10年を経過したときも同じです(民法1048条)。

1年の数え始めは、亡くなった日と決まっているわけではありません。条文は「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったこと」の両方を知った時としています。亡くなったことは知っていても、遺言の中身を知らなかった人は、その時点ではまだ両方がそろっていないことになります。一方の10年は、知っていたかどうかに関係なく、相続開始の時から進みます。

2つの期限は、数え始める日が違う
相続の開始10年の数え始め
遺言や贈与を知った時1年の数え始め
知った時から1年ここまでに意思表示
相続開始から10年知らなくても消える

亡くなったあとの期限は、遺留分だけではありません。相続放棄の3か月、相続税の申告の10か月と同じ時期に重なって進みます。自分の家の日付を一度書き出しておくと、どれが先に来るかが見えます。

亡くなったあとの期限を日付で出す計算ツール

「知った時」がいつかは、個々の事情で判断が分かれるところで、ここでは決められません。手元の段取りとしては、遅い側に見積もらず、亡くなった日を起点にした1年の日付を書き出し、それより前に請求の意思を伝える予定を組んでおくと、あとで起算点を争われても余裕が残ります。

もう一つ大切なのは、1年のうちに「何を」すれば足りるかです。家庭裁判所の調停を申し立てただけでは、相手方への意思表示にはならないと、裁判所は案内しています。調停とは別に、内容証明郵便等で請求の意思表示をする必要があります。期限が数週間に迫っている、相手と連絡が取れない、という場合は、自分で書面を整えようとせず、すぐに弁護士に相談してください。

出典:民法1048条(e-Gov法令API)/裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

遺留分の額は、式で当たりをつける

遺留分の額は、遺留分を算定するための財産の価額に、上の表の割合を掛けて出します。その財産の価額は、亡くなった時に持っていた財産に、算入される贈与を足し、債務の全額を引いた額です(民法1043条1項)。

そのうえで、実際に請求できる「侵害額」は、遺留分から、自分がすでに受けた遺贈や特別受益にあたる贈与と、相続分に応じて自分が取得すべき遺産を引き、自分が引き継ぐ親の借金の分を足して出します(民法1046条2項)。遺留分そのものと、請求できる額は、同じではないということです。

遺留分と、請求できる額は2段で出す
亡くなった時の財産+算入される贈与-債務の全額=遺留分を算定するための財産
遺留分-すでに受けた遺贈や贈与-相続分に応じて取得すべき遺産+引き継ぐ借金=請求できる額

式が2段になっているのは、条文がそう組み立てられているからです。1段目で、遺留分を算定するための財産の全体を出し、2段目で、自分がすでに受け取ったものを差し引きます。たとえば、遺言で一部の預金だけは自分が受け取っていた人は、その分だけ請求できる額が小さくなります。逆に、親の借金を法定相続分で引き継ぐ人は、その分が足されます。

「遺産がいくらなら遺留分はいくらか」という問いに、ここで円の答えを出さないのは、同じ遺産額でも、相続人が誰か、生前の贈与があったか、借金がいくらか、自分がすでに何を受け取ったかで答えが動くからです。とくに実家の土地や建物、非上場の株は、いくらと見るかの評価そのものが争いになることがあり、条件付きの権利などは家庭裁判所が選任した鑑定人の評価で価格を決めると条文に定めがあります(民法1043条2項)。

当たりをつけるときは、次の4つを紙に書き出してください。亡くなった時の財産の一覧(預金・不動産・有価証券など)、生前の贈与で分かっているもの(誰に・いつ・何を)、借金の一覧、自分が遺言や遺産分割で受け取るもの、の4つです。この一覧があれば、弁護士に相談したときに、どこが争点になりそうかを短い時間で聞けます。

出典:民法1043条(e-Gov法令API)/民法1046条(e-Gov法令API)

生前の贈与はどこまでさかのぼるか

住宅の外観

遺留分の計算に入る生前の贈与は、贈与を受けた人が相続人かどうかで線が違います。相続人以外への贈与は、原則として相続開始前の1年間のものが入ります。相続人への贈与は、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けたものに限り、相続開始前の10年間のものが入ります(民法1044条)。

贈与を受けた人 さかのぼる期間 入る贈与
相続人以外(相続人でない孫・内縁の配偶者など) 相続開始前の1年間 贈与した財産
相続人(子・配偶者など) 相続開始前の10年間 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限る
当事者双方が遺留分を侵害すると知っていた贈与 1年より前のものも入る 条文の要件に当たる贈与

この線が大事になるのは、請求する側にとっても、された側にとっても、「何を数えるか」で額が大きく変わるからです。相続人への贈与なら10年分を見ることになりますが、何でも入るわけではなく、婚姻・養子縁組・生計の資本という種類の限定がかかります。どの贈与が生計の資本に当たるかは、贈与の目的や家の事情で判断が分かれるところで、ここでは決められません。

たとえば、兄が8年前に父から自宅の建築資金を受け取っていた家なら、それは相続人への10年以内の贈与として、生計の資本に当たるかが問題になりうる候補です。同じ兄の受け取りでも、12年前のものなら、原則として10年の線の外になります。孫への贈与なら相続人以外への贈与として、原則は1年間のものだけを見る、というように、受け取った人の立場と時期で、まず候補を仕分けることができます。

生命保険金がこの計算に入るかどうかは、条文の贈与の規定だけでは決まらず、扱いが個別に分かれます。死亡保険金を受け取った家族がいる場合は、保険の契約者・被保険者・受取人が分かる書類をそろえて、弁護士に確かめてください。

仕分けのときは、通帳の大きな出金や、不動産の登記の記録、贈与の契約書や送金の控えなど、贈与があったことを示すものを集めておくと話が早く進みます。贈与があったかどうか自体を相手が認めていない場合は、自分たちだけで話を進めないほうが安全です(下の「自分たちだけで進めないほうがよいとき」の項)。

出典:民法1044条(e-Gov法令API)

遺留分侵害額請求をする側の順番

請求する側の最初の一手は、話し合いの前に「期限の日付」と「相続人と遺言・贈与の中身」を確かめることです。そのうえで、1年のうちに相手に請求の意思を伝え、話し合い、まとまらなければ家庭裁判所の調停を申し立てる、という順番で進みます。

請求する側は、この順で進める
  1. 1期限の日付を出す知った時から1年・相続開始から10年
  2. 2相続人と遺言・贈与を確かめる戸籍・遺言書の写し・財産の資料
  3. 3請求の意思を伝える裁判所は内容証明郵便等で、と案内
  4. 4話し合う金額と払い方を相手と詰める
  5. 5調停を申し立てる相手方の住所地の家庭裁判所

意思表示を話し合いより先に置いたのは、話し合いが長引いて1年が過ぎてから決裂すると、請求する権利が時効で消えたと言われるおそれがあるからです。話がまとまりそうに見えても、意思表示だけは先に済ませておくと、その心配を減らせます。内容証明郵便の書き方や文例はここでは扱いません。書面にする段階で弁護士に見てもらうと、伝える中身の過不足を確かめられます。

調停の申立ての要点は次のとおりです。

項目 内容
申し立てる人 遺留分を侵害された人(兄弟姉妹以外の相続人)とその承継人
申立先 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
費用 収入印紙1,200円分+連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)
主な書類 申立書とその写し、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し、遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書・預貯金通帳の写しや残高証明書など)

調停では、家庭裁判所が双方から事情を聴き、解決案を示したり助言したりしながら話し合いを進めます。同じ書類は1通で足り、申立ての前に手に入らない戸籍などは後から出してもよいと、裁判所のページに注記があります。申立書の書式と記載例も、同じページに載っています。

たとえば、相手の兄が遠方に住んでいる場合、申立先は原則として兄の住所地の家庭裁判所になります。自分の近くの裁判所でまとめたいなら、兄と合意して申立先を決める道もあります。調停でもまとまらなかったときの次の進め方は、ここからは弁護士と相談して決めてください。費用の印紙額は決まっていても、郵便切手の額は申立先によって違うので、出す前に申立先の家庭裁判所に確かめてください。

出典:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

遺留分侵害額請求をされたら確かめること

遺留分を請求されても、言われた額をそのまま払うと決まっているわけではありません。まず、請求してきた人に遺留分があるか(兄弟姉妹ではないか)、期限の内か、2019年7月1日以降に開始した相続か、を確かめてください。そのうえで、払うことになった場合も金銭で払うのが原則です(民法1046条1項)。

負担する人が複数いるときは、条文に順番があります。遺言で受け取った人(受遺者)と生前に贈与を受けた人(受贈者)がいれば、受遺者が先に負担します。受贈者が複数いて贈与の時期が違えば、新しい贈与を受けた人から順に、前の贈与を受けた人へとさかのぼって負担します。受遺者が複数いる場合や、同時にされた贈与の受贈者が複数いる場合は、目的の価額の割合に応じて負担し、遺言に別段の意思が書かれていればそれに従います(民法1047条1項)。また、多く受け取った人が相続人の場合は、受け取った額からその人自身の遺留分の分を引いた額が、負担の限度になります。

  • 請求してきた人は兄弟姉妹以外の相続人か
  • 相続の開始と遺言・贈与を知った時から1年、相続開始から10年の内か
  • 亡くなった日は2019年7月1日以降か
  • 相手が数えている贈与は、算入される期間と種類に入っているか
  • 自分より先に負担する受遺者や、新しい贈与の受贈者はいないか

お金をすぐに用意できない場合は、裁判所に支払の猶予を求めることができます。請求を受けた受遺者や受贈者が求めれば、裁判所は、払う債務の全部または一部について相当の期限を与えることができると定められています(民法1047条5項)。どれだけの期限が認められるか、どんな事情なら認められるかは条文に書かれていないので、ここでは扱いません。

たとえば、遺言で実家を受け継いだ長男が、弟から遺留分を請求され、預金はわずかしか残っていない、という場面を考えてみてください。払う方法がお金と決まっている以上、実家を手放す、借りる、分けて払うといった道を探すことになり、すぐに決められない事情があるなら、期限の許与を求める道があります。実家を売るか持つかは、遺留分の話と別に、その先の実家の扱いとして考える必要が出てきます。

実家をどうするかを、順番に確かめる

実家の名義を自分に移していない場合は、相続登記の期限も同時に進んでいます。遺留分の話し合いが続いていても、名義の手続きは別の期限で動くので、あわせて確かめておいてください。

実家の名義を移す相続登記

出典:民法1047条(e-Gov法令API)

遺留分の放棄は、相続放棄と別の手続き

障子のある和室

遺留分の放棄と相続放棄は、名前が似ていても別の手続きです。親の生前(相続開始前)に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が要ります(民法1049条1項)。相続放棄は、親が亡くなったあと、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する手続きです(民法915条1項・938条)。

遺留分の放棄(生前) 相続放棄
いつ 相続開始前(親の生存中) 知った時から3か月以内(家庭裁判所に請求して伸ばせる場合がある)
どこへ 親の住所地の家庭裁判所に許可の申立て 親の最後の住所地の家庭裁判所に申述
費用 収入印紙800円分+郵便切手 収入印紙800円分(申述人1人につき)+郵便切手
効果 遺留分だけを手放す。相続人のまま 初めから相続人でなかったことになる

違いの要は、放棄したあとも相続人でいるかどうかです。遺留分の放棄は遺留分だけを手放す手続きで、相続人であることは変わりません。親の借金を引き継がないようにしたいなら、それは相続放棄の話になります。相続放棄をすれば、初めから相続人でなかったものとされ、財産も借金も引き継ぎません(民法939条)。また、共同相続人の一人が遺留分を放棄しても、ほかの相続人の遺留分は増えも減りもしません(民法1049条2項)。

生前の放棄に許可が要るのは、条文が「相続の開始前における」放棄に限って家庭裁判所の許可を求めているからです。相続が始まったあとに、請求しないと決めて請求しないことは、この許可の対象ではありません。許可の申立ては遺留分を持つ相続人本人がし、必要な書類は申立書と、親と申立人の戸籍謄本です。許可されるかどうかは家庭裁判所の判断で、申し立てれば認められるとは限りません。

たとえば、「生前に親から言われて、遺留分を放棄する書類に署名した」という人がいたら、まず家庭裁判所の許可を受けたものかどうかを確かめてください。許可を受けていない書面だけなら、条文の上では生前の放棄の効力は生じていない、という読み方になります。自分の署名した書面がどちらに当たるか迷うときは、その書面を持って弁護士に相談してください。

生前の備えとして、遺言とあわせて家族信託を考える家もあります。信託を使っても遺留分の話が消えるかどうかは別の問題なので、設計する段階で専門家に確かめてください。

家族信託という選択肢

相続放棄の期限はいつから数えるか

出典:民法1049条(e-Gov法令API)/裁判所「遺留分放棄の許可」/民法915条(e-Gov法令API)/民法938条(e-Gov法令API)/民法939条(e-Gov法令API)/裁判所「相続の放棄の申述」

自分たちだけで進めないほうがよいとき

遺留分は、きょうだいの間で話し合ってまとまるなら、それで終わる話です。ただし、次の場面に当たるなら、ここからは弁護士へ相談してください。

  • 実家の土地や建物、非上場の株など、いくらと見るかで意見が割れる財産がある
  • 生前の贈与があったかどうか、生計の資本に当たるかどうかで言い分が食い違う
  • 1年の期限が迫っている、または起算点がいつかで争いになりそうだ
  • 相手と連絡が取れない、話し合いの場に出てこない
  • 請求された側で、払う額や払い方に納得できず、期限の許与も考えている

こうした場面で専門家が要るのは、条文の当てはめと証拠の集め方で結論が動くところだからです。誰がいくら払うのが妥当か、どこで折り合うのがよいかは、ここでは書きません。費用の面で相談をためらうときは、公的な法律相談の窓口を探す方法もあります。調停の書類や手続きの流れは、申立先の家庭裁判所のページで確かめられます。

逆に、相続人の顔ぶれがはっきりしていて、財産が預金だけで額に争いがなく、相手も払う意思を示している、という家なら、自分たちで話し合って書面に残すところまで進める選択も取れます。その場合も、意思表示を1年のうちに済ませたかどうかの記録は残しておいてください。

遺留分の支払で受け取る財産が変わると、相続税の申告にも影響することがあります。相続税がかかる家かどうか、申告をどう直すかは、税理士へ相談してください。申告の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。

遺産額ごとの相続税の早見表

相談に行くときは、遺言書の写し、戸籍、財産と借金の一覧、贈与を示す資料、相手とのやり取りの記録(いつ・何を伝えたか)をそろえておくと、残りの期限で何ができるかを具体的に聞けます。

出典:国税庁 No.4205「相続税の申告と納税」

亡くなったあとの手続きを、期限の順に見る

よくある質問

遺産がいくらと分かれば、遺留分の額も決まりますか?

同じ遺産額でも、遺留分の額は相続人が誰かで変わります。遺留分を算定するための財産に、全体の割合(親だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1)を掛け、さらに各自の法定相続分を掛けて出す、という式に当てはめてください。財産の額そのものも、贈与を足し借金を引いて出すので、遺産の見た目の額とは違うことがあります。

遺留分を請求するにはどうすればいいですか?

相続の開始と侵害する遺言や贈与を知った時から1年のうちに、多く受け取った人へ請求の意思表示をします。話し合いでまとまらなければ、相手方の住所地の家庭裁判所に調停を申し立てます。調停の申立てだけでは意思表示にならないので、別に内容証明郵便等で伝える必要があると、裁判所は案内しています。

兄弟に遺留分がある場合、遺留分を請求できますか?

兄弟姉妹には遺留分がありません(民法1042条1項)。亡くなった人に子も親もいなくて兄弟姉妹が相続人になる場合でも、遺言で取り分が無くされていれば、兄弟姉妹は遺留分を請求できません。遺留分を持つのは、配偶者・子・親などの兄弟姉妹以外の相続人です。

遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求は何が違いますか?

2019年7月1日以降に開始した相続は遺留分侵害額請求で、お金で請求します。それより前に開始した相続は改正前の民法の遺留分減殺請求で、物の返還が原則でした。どちらに当たるかは、亡くなった日で決まります。

親の生前に、遺留分を放棄させることはできますか?

生前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限って効力が生じます(民法1049条1項)。申し立てるのは遺留分を持つ相続人です。許可されるかどうかは家庭裁判所の判断です。

請求されたら、すぐに全額を払わないといけませんか?

払うことになっても金銭が原則で、すぐに用意できなければ、裁判所に支払の猶予(相当の期限の許与)を求めることができます。その前に、相手に遺留分があるか、期限の内か、数えている贈与が算入の範囲に入っているかを確かめてください。額や払い方に納得できないときは、弁護士に相談してください。

順番のおさらい

  1. 取り分:遺言があっても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が残り、侵害されたらお金で請求できる
  2. 割合:全体は親だけなら3分の1、それ以外は2分の1。複数なら各自の法定相続分を掛ける。兄弟姉妹にはない
  3. 期限:相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年。調停とは別に意思表示が要る
  4. 額:亡くなった時の財産+算入される贈与-債務で全体を出し、すでに受けた分を引いて請求できる額を出す
  5. 贈与:相続人以外は原則1年、相続人は婚姻・養子縁組・生計の資本に限り10年
  6. 請求する側:期限の日付→相続人と遺言・贈与の確認→意思表示→話し合い→調停(収入印紙1,200円分と郵便切手)
  7. 請求された側:相手の遺留分と期限を確かめる。払うのは金銭が原則で、受遺者が先。すぐ払えなければ期限の許与を求める
  8. 放棄:生前の遺留分の放棄は家庭裁判所の許可が要る。相続放棄とは別で、相続人のまま
  9. 頼む目安:評価や贈与で争いがある、期限が迫っている、相手と話せないなら弁護士へ。相続税の申告への影響は税理士へ

遺留分の話は、きょうだいの関係と期限が同時に押し寄せるので、額を先に決めようとすると身動きが取れなくなります。請求する側はまず1年の日付を書き出して意思表示を済ませ、された側はまず相手の権利と期限を確かめる。順番を守っておけば、額の話し合いに時間がかかっても、権利が消える、払い方に詰まる、という事態は避けやすくなります。

調停の郵便切手の額と書類の細部は、申立先の家庭裁判所で確認してください。

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この記事を書いた人

親の介護と相続の手引き編集部です。親の介護と相続の手続きについて、法令や省庁・自治体の公式資料を原文で確かめ、確認日を添えてまとめています。

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