- 月に何度も実家へ通うのが、もう限界に近い
- 親は「ここを離れたくない」と言って、話が先に進まない
- こちらに呼んだら親が弱る、という話を聞いて踏み切れない
- 同居となると、配偶者が首を縦に振りそうにない
- 近くに部屋を借りて住んでもらう、という手もあるのか知りたい
- 引っ越したら、介護認定はまた一からやり直しになるのか
- 今のケアマネジャーやヘルパーさんとの縁が切れてしまうのか
- 住民票をいつ移せばいいのか分からない
- 決めたあとで「呼ばなければよかった」「もっと早く呼べばよかった」と後悔したくない
上記のような悩みに答えます。
親の呼び寄せは、離れて暮らす親の介護が見えてきたときに、通い続けるか、近くに住んでもらうか、一緒に暮らすかを選ぶ話です。検索すると、高齢者向けの住まいを扱う会社の案内や、うまくいかなかった家族の体験記、3つの住まい方の長所と短所を並べた比較が上に出てきます。ただ、長所と短所を読み比べても「うちの場合はどちらか」を決める条件は見えにくく、引っ越したあとの介護保険の手続きも「14日以内」とだけ書かれていても、何の日から数えるのか、何が省けるのかの形までは確かめにくいことがあります。そこで、通う・近居・同居の違いと親の意思の確かめ方という基本を押さえたうえで、呼び寄せない方がよい条件、転居の前に今の地域と呼び寄せ先の両方へ相談しておく順番、介護保険法36条の認定の特例の正確な読み方まで、介護保険法と住民基本台帳法の条文で確かめながら整理しました。住まいや施設の紹介はしません。
親を呼び寄せるか通い続けるかは、親がどこで暮らしたいかと、いま必要な介護の中身、通う側がどこまで続けられるかの3つで決めてください。親が離れたくない、介護がまだ軽いなら、通い続けて地域のサービスを使うのが先です。呼び寄せると決めたら、転居の前に今の地域と呼び寄せ先の市区町村の両方に相談し、介護保険の認定の手続きを確かめておきます。
2026年10月時点の制度で確かめています
介護の入口で何から手を付けるかの全体像は、次の記事で順に追えます。
決め手は親の意思と介護の中身
呼び寄せるか通い続けるかは、家族の都合だけでも、親の希望だけでも決まりません。次の4つを、上から順に確かめていくと、自分の家がどちらに寄っているかが見えてきます。
- 親がどこで暮らしたいと言っているか(今の家か、子の近くか、まだ決めかねているか)
- いま必要な介護の中身(見守りと声かけで足りるのか、毎日の家事や身の回りの手助けが要るのか)
- 通う側がどこまで続けられるか(移動の時間、仕事の休み、体力、家計)
- 受け入れる側の住まいと家族(部屋の空き、配偶者や子の暮らし、近くに借りられる住まいがあるか)
順番を親の意思から始めるのは、呼び寄せが「住む場所を変える」決定だからです。家、近所づきあい、通い慣れた病院や店といった暮らしの土台が丸ごと動くので、一度動かすと元に戻すのは簡単ではありません。通い続ける方は、帰省の回数やサービスの組み方を少しずつ変えながら続けられます。後戻りしにくい方を選ぶときほど、条件を先にそろえておく必要があります。
1と2は子が一人では決められません。親の意思は親に聞かないと分かりませんし、介護の中身は、親の住む地域の地域包括支援センターや、すでに認定を受けているならケアマネジャーと一緒に見ていくことになります。子が自分で決められるのは3と4で、ここを正直に書き出すことが、親や兄弟と話すときの土台になります。
たとえば、親は一人で買い物と通院ができていて、子の側が毎月の帰省で疲れ切っている、という家を考えてみてください。この場合、いま困っているのは親の暮らしより通う側の体制です。呼び寄せを考える前に、帰省の回数を減らしても回るように、見守りと地域のサービスで間を埋めることを先に試す価値があります。反対に、家の中での転倒が続いて毎日の手助けが要るようになり、親本人も「そっちへ行ってもいい」と言っているなら、話は近居の検討に進みます。同じ「通うのが限界」でも、4つの条件のどれが崩れているかで、次の一手が変わります。
「今決めなくていいなら、いつ決めればいいのか」と迷う人もいるはずです。決める時期の目安は、2の介護の中身が変わったときか、3の通う側の限界が先に来たときです。どちらも起きていないうちは、決めるための材料(親の意思と、受け入れ先の事情)を集めておく時期と考えてください。材料がそろっていれば、急に決めなければならない場面が来ても、慌てて住まいを動かさずに済みます。
通う・近居・同居の違い

3つの住まい方の違いは、「誰が、何を手放し、何を背負うか」で比べると整理しやすくなります。費用も、金額の大小より先に「どこにお金がかかるか」が住まい方ごとに違います。
| 比べる点 | 通い続ける | 近居(近くに住んでもらう) | 同居 |
|---|---|---|---|
| 親の暮らす場所 | 今の家のまま | 子の家の近くの住まい | 子の家 |
| 親が手放すもの | 少ない | 家・近所づきあい・かかりつけ医 | 家・近所づきあい・かかりつけ医・一人の時間 |
| 家族の負担 | 移動の時間と休み | 行き来と、近くでの手助け | 毎日の手助けと、同居する家族の暮らしの変化 |
| 介護保険の手続き | 変わらない | 市区町村をまたぐなら転入先で手続き | 市区町村をまたぐなら転入先で手続き |
| 費用がかかる所 | 交通費・移動の時間・休んだ分の収入 | 親の住まいの家賃や購入費・引っ越し・家財 | 部屋の用意や改修・引っ越し・生活費の分け方 |
| 向く家 | 親が離れたくない/介護がまだ軽い | 親も移ることに納得/家族の暮らしは分けたい | 親も家族も納得/毎日の手助けが要る |
介護サービスの自己負担は、どの住まい方を選んでもかかります。住まい方で変わるのは、その上に乗る交通費、住まいの費用、引っ越しの費用、休みの取り方です。この表の「費用がかかる所」の欄に、自分の家の数字を書き入れて比べてください。交通費は帰省の回数と人数で、住まいの費用は呼び寄せ先の家賃や改修の見積もりで、それぞれ実際の数字が出せます。相場ではなく自分の家の数字で比べると、家族で話すときにも食い違いが起きにくくなります。
近居は、通いと同居の間にある選び方です。親は住まいを移しますが、自分の台所と自分の時間は残ります。家族の側も、生活を分けたまま、行き来できる距離に親がいる形になります。配偶者が同居に反対している家では、同居を説得するより、近居を選択肢に入れるほうが話が進みやすくなります。
たとえば、配偶者が「同居は無理」と言い、子の側は毎月の通いが続かない、という家なら、近居は両方の事情を残したまま負担を減らせる選び方になります。ただし、近居でも、ふだんの買い物の付き添いや通院の送り迎えを誰がするかは決めておく必要があります。距離が縮まったぶん、頼まれごとが増えて、通っていた頃より忙しくなることもあるからです。
もう一つの選択肢として、介護の中身が重くなってきた段階では施設も候補に入ります。施設に入る場合の介護保険の住所の扱いは、下の「のちに施設を考えるときの住所の扱い」の項で触れます。
親を呼び寄せない方がよい条件
呼び寄せは、通う負担を減らす手としてはわかりやすい選び方ですが、次のどれかに当てはまるうちは、急いで決めない方が安全です。
- 親が「ここを離れたくない」と言っていて、その理由をまだ聞けていない
- 親が自分の暮らしを回せていて、困りごとが見守りや地域のサービスで埋められる
- 呼び寄せ先で一緒に暮らす家族(配偶者や子)が、まだ納得していない
- 親のかかりつけ医や、今の地域で親を支えている人とサービスを、移った先で組み直す見通しが立っていない
- 呼び寄せたあと、ふだんの手助けを誰が担うかが決まっていない
慣れた暮らしや人間関係、かかりつけ医から離れることを、親が負担に感じる場合があります。子から見れば「近くにいてくれれば安心」でも、親にとっては、知り合いのいない土地で一から暮らしを始めることになります。呼び寄せたら親が弱る、という話を聞いて怖くなる人もいますが、親の体や心がどう変わるかは、ここで言えることではありません。言えるのは、移ることを親がどう受け止めているかは、親に聞くまで分からないということです。だから、条件の1を最初に置いています。
5は見落としやすい条件です。呼び寄せると、移動の負担は減ります。一方で、親の暮らしが子の暮らしのすぐそばに来るので、ふだんの頼まれごとや手助けは増える場合があります。通っていた頃は「帰省の日だけ」だったことが、平日の夕方にも入ってくる、という変化です。誰が、どの曜日の、どの手助けを受け持つかが決まっていないまま呼び寄せると、通う負担が、毎日の負担に置き換わるだけになりかねません。
たとえば、親は元気に一人暮らしをしていて、子の側は「先々が心配だから、元気なうちに近くへ」と考えている場合です。親が乗り気でないなら、いま住まいを動かすより、今の地域で使える見守りや相談先を整えておき、呼び寄せは「介護の中身が変わったときに改めて話す」と家族で決めておく方が、親の暮らしを守れます。反対に、親のほうから「そっちへ行きたい」と言い出しているなら、1の条件は満たされているので、3から5を順に確かめていけば足ります。
呼び寄せでうまくいかなかった話を聞いて不安になったら、その話のなかで、上の5つのうちどれが欠けていたかを見てみてください。欠けていた条件が分かれば、自分の家で先に手当てしておくことがはっきりします。
呼び寄せる前に親と話すこと

親との話は「こっちへ来て」と頼む場ではなく、「どこで、どう暮らしたいか」を聞く場として始めてください。結論を持って行くと、親は説得されていると感じ、本音を話しにくくなります。
聞いておきたいのは次のことです。
- どこで暮らしたいか。今の家にいたい理由は何か
- いまの暮らしで困っていること、手伝ってほしいこと
- 移るとしたら手放したくないもの(友人、通っている場所、かかりつけ医、家そのもの)
- 体が動かなくなってきたら、どうしたいと思っているか
聞くだけでなく、子の側の事情も言葉にして伝えます。「通うのが大変になってきた」「仕事の休みが足りない」と正直に話すほうが、「心配だから」とだけ言うより、親も一緒に考える立場に立ちやすくなります。親が離れたくない理由が「友人と離れたくない」なのか「家を空けたくない」なのかで、近居で解けるのか、通い方を変えるべきなのかが変わってきます。
話がまとまらないときは、短い期間、呼び寄せ先に滞在してもらって試す方法があります。子が帰省するのとは逆に、親に来てもらい、近所を一緒に歩き、買い物や通院の道を確かめてもらいます。季節を変えて何度か試せば、暮らしの様子が親にも子にも具体的に見えてきます。試してみて「やっぱり家がいい」となったら、それも大事な答えです。
たとえば、兄弟が「長男なんだから引き取るべきだ」と言ってきた場合も、まず親がどこで暮らしたいかを確かめた結果を共有するところから始めてください。誰が引き受けるかを続柄や順番で決めつけるより、親の希望と、それぞれの家の事情(住まい、仕事、家族)を並べて話すほうが、あとで責め合わずに済みます。一人っ子で相談できる兄弟がいない場合の考え方は、別の記事にまとめています。
話し合いは一度で決めなくてかまいません。親が迷っているなら、迷っていること自体を家族で共有し、次に話す時期を決めておきます。決める前の話し合いに時間をかけておくと、決めたあとに「聞いてもらえなかった」という行き違いを減らせます。
引っ越すと要介護認定はどうなるか
すでに要介護・要支援の認定を受けている親が市区町村をまたいで引っ越す場合、転入先の市町村が、前の認定の内容をもとに認定をすることができる仕組みがあります。介護保険法36条です。
条文の要点は次のとおりです。他の市町村で要介護認定または要支援認定を受けている人が、転入先の市町村の介護保険の被保険者になった場合に、資格を取得した日から14日以内に、前の市町村から交付された認定に関する事項を証明する書面を添えて認定の申請をしたときは、市町村は、認定審査会の審査と判定を経ずに、その書面に書かれた事項に即して認定をすることができる、とされています。
- 1元の窓口で確かめる転出の前に、書面と手続きを聞く
- 2転居と届け出転出届はあらかじめ、転入届は転入後に
- 314日以内に申請する資格を取得した日から数える
- 4審査を省ける仕組み市町村が「できる」と定める
読むときに押さえておきたい点が3つあります。
1つ目は、14日の起点です。条文は「資格を取得した日から」と書いています。介護保険の資格は、その市町村に住所を有するに至った日に取得します(介護保険法10条)。転入届を出した日から数えるのではない点に注意してください。14日は資格を取得した日から数え始めるので、荷ほどきや届け出に手間取っているあいだにも日数は進みます。
2つ目は、条文が「することができる」という書き方だという点です。審査を省いて認定する仕組みが用意されている、という意味で、どんな場合でも同じ要介護度がそのまま続くと約束したものではありません。転入先でどう扱われるかは、転入先の介護保険の窓口で確かめてください。
3つ目は、添える書面です。前の市町村が交付する書面の名前や、どこでどう受け取るかは、条文からは読み取れません。転出の前に、元の市区町村の介護保険の窓口で「引っ越し先で認定の申請をするときに要る書面と手続き」を確かめておくのが確実です。
たとえば、引っ越しの片付けや荷ほどきに追われて、気づいたら住み始めてから日がたっていた、ということが起こりえます。転居の日が決まったら、その日から逆算して、元の窓口での確認、転出届、転入届、認定の申請を予定表に書き込んでおくと、14日を取りこぼしにくくなります。まだ認定を受けていない親なら、36条の特例は関係ありません。転入先で必要になったときに、新しく認定を申請する流れになります。
36条の特例で認定が出ても、サービスの事業所やケアマネジャーは引っ越し先で決め直しになる場合があります。保険料の扱いも、認定とは別に転入先で確かめる事柄です。引っ越したあとに親の状態が変わったときは、認定の有効期間の途中でも、要介護状態区分の変更(介護保険法29条)や要支援状態区分の変更(同33条の2)の認定を申請できます。
住民票と介護保険の資格
介護保険は、親が住所を持つ市町村の制度です。呼び寄せて子の家や近くの賃貸住宅に住む場合は、住所を移した先の市町村の被保険者になるのが基本です。手続きの細部は、住民票を移す前に、移す先の市区町村に確かめてください。
介護保険法9条では、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の人は、その市町村が行う介護保険の第1号被保険者とされています。資格の切り替わりは、10条と11条で「住所」を基準に決まっています。
- 取得:転入先の市町村に住所を有するに至った日から(10条)
- 喪失:元の市町村に住所を有しなくなった日の翌日から。ただし、その日に他の市町村に住所を有するに至ったときは、その日から(11条1項)
条文が基準にしているのは「住所」で、住民票の届け出をした日そのものとは書かれていません。どの時点で住所が移ったと見るかは個別の事情で変わることがあるので、住民票を移す前に、移す先の市区町村に確かめておくと安心です。
住民票の手続きは、住民基本台帳法で決まっています。転出届は、あらかじめ、氏名、転出先、転出の予定年月日を届け出ます(24条)。何日前までという日数は条文には書かれていません。転入届は、転入した日から14日以内に届け出ます(22条1項)。転入届には、住所の異動に関する文書を添えることになっていて(同条2項)、転出証明書などがこれに当たります。窓口での細かな手続きや、郵送などで届け出られるかは、転出元と転入先の市区町村で確認してください。
たとえば、親がしばらく子の家に滞在してから住民票を移すかどうか決めたい、という場合は、滞在が「お試し」なのか「住み始め」なのかで、住所の扱いが変わってくる可能性があります。どちらに当たるかを家族だけで判断せず、市区町村の窓口に、滞在の予定と事情を伝えて相談してください。※お住まいの市区町村で確認してください。
どの窓口で何を出すのか分かりにくいときは、転入届を出すときに、介護保険の手続きと36条の認定の申請も済ませたいことを伝えて、案内を確かめてください。
出典:介護保険法9条(e-Gov法令API)/介護保険法10条(e-Gov法令API)/介護保険法11条(e-Gov法令API)/住民基本台帳法22条(e-Gov法令API)/住民基本台帳法24条(e-Gov法令API)
今のケアマネと、引っ越し先での組み直し
認定の手続きと並んで、今使っている介護サービスの組み直しが要ります。転居の前に、今の地域と呼び寄せ先の地域の両方に相談しておく、というのが順番の要点です。
今のケアマネジャーや事業所は、親が今の地域に住んでいることを前提にサービスを組んでいます。引っ越せば、通っていたデイサービスや来てもらっていたヘルパーの事業所を、引っ越し先で探し直すことになる場合があります。とくに地域密着型サービスは、原則として、指定をした市町村の被保険者に対する給付についてだけ効力を持つと定められています(介護保険法78条の2・42条の2)。グループホームや定期巡回・随時対応型訪問介護看護などがこれに含まれ、引っ越すと今の事業所が使えなくなる場合があります。
相談の順番は次のとおりです。
- 今の地域:担当のケアマネジャー(いなければ、親の住む地域を担当する地域包括支援センター。どこが担当かは親の市区町村で確認)に、呼び寄せを考えていることを伝え、今のサービスの内容を確かめる
- 呼び寄せ先:転入先の市区町村の介護保険の窓口と、担当の地域包括支援センターに、転居の予定と今の認定・サービスを伝えて相談する
- 転居の時期:引っ越し先でサービスが始められる見通しが立ってから、日程を決める
地域包括支援センターは介護保険法115条の46に根拠がある窓口で、暮らしの実情の把握や、制度の情報の提供、関係機関との連絡調整といった総合相談を行います(115条の45第2項1号)。市町村が直接運営している場合と、法人に委託している場合があり、名前も担当する地域も自治体ごとに違います。呼び寄せ先でどのセンターが担当になるかは、転入先の市区町村の窓口か公式サイトで確かめてください。
相談のときに手元にあると話が早いのは、今のケアプランの内容、使っているサービスと事業所の名前、かかりつけ医と飲んでいる薬のメモです。要介護認定の申請の手続きは、地域包括支援センターや要件を満たす居宅介護支援事業者などに代わって行わせることができる、と定められています(介護保険法27条1項後段)。転入後の申請を手伝ってもらえるかどうかは、転入先のセンターに聞いてみてください。
たとえば、今の地域で週に何度かデイサービスに通い、それが親の楽しみになっている場合は、引っ越し先で似た通い先が見つかるかを先に探しておくと、移ったあとの暮らしの落差が小さくなります。親にとっては、介護保険の手続きより、通い先の仲間と離れることのほうが大きな変化かもしれません。
出典:介護保険法42条の2(e-Gov法令API)/介護保険法78条の2(e-Gov法令API)/介護保険法115条の46(e-Gov法令API)/介護保険法115条の45(e-Gov法令API)/介護保険法27条(e-Gov法令API)
通いの介護を続けるときの体制

通い続けると決めることは、今のまま何も変えないことではありません。帰省の回数を増やして踏ん張るのではなく、子が行けない日も親の暮らしが回る形に組み替えることが、通い続ける選び方の中身です。
組み替えるときに見直したいのは次の4つです。
- 親の様子に気づく手段:電話の時間を決める、見守りの機器や自治体の見守りを使うなど、親が嫌がらない型を選ぶ
- 親の住む地域の相談先:担当の地域包括支援センターと一度つながり、困ったときに連絡できる関係を作っておく
- 自分の仕事:介護休業や介護休暇などの両立の制度を、帰省のたびに使い切る前に、どう配分するか考えておく
- 家族の役割:帰省する人、電話でやり取りする人、お金や書類を見る人を分けておく
見守りの型の選び方は、別の記事で順番に整理しています。
仕事と介護の両立の制度と、介護休業をどの時期に使うかは、それぞれ次の記事が詳しく扱っています。
親が倒れた、入院したという連絡を遠くで受けたときの動き方と、そのための平時の備えは、遠距離介護の緊急時の記事に任せます。
たとえば、子が会社の休みを帰省のたびに使い、気づけば年の途中で休みが残っていない、という家では、帰省を「様子を見る日」と「手続きや付き添いをする日」に分け、手続きの一部は電話や郵送で済ませられないか地域の窓口に聞いてみると、休みの減り方が変わるかもしれません。通い続けると決めても、上の「決め手」の4つの条件は、親の状態や子の仕事が変われば動きます。家族で見直す時期を決めて、通い続ける前提がまだ成り立っているかを見直してください。
のちに施設を考えるときの住所の扱い
呼び寄せても通い続けても、介護の中身が重くなれば、施設が候補に入る時期が来るかもしれません。そのとき知っておきたいのが、介護保険法13条の住所地特例です。
住所地特例は、施設に入って住所を移した場合の決まりです。介護保険施設、特定施設、養護老人ホーム(措置で入所した人)に入所して、その施設の所在地に住所を変えたと認められる人で、入所の際に他の市町村に住所があった人は、施設のある市町村ではなく、元の市町村の被保険者のままになるのが原則です(13条1項)。二つ以上の施設に続けて入所した場合などには別の扱いが定められています(同条1項ただし書・2項)。
ここで押さえておきたいのは、呼び寄せて子の家や近くの賃貸住宅に住む場合は、住所地特例に当たらないという点です。この場合は、上の「住民票と介護保険の資格」の項のとおり、転入先の市町村の被保険者になります。また、認知症の人のグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、住所地特例の対象施設に含まれません。グループホームは地域密着型サービスなので、原則として住んでいる市町村の事業所を使うことになり、他の市町村のホームを使えるかは市町村に確かめる必要があります。
有料老人ホームなどについては、入る施設が住所地特例の対象になるかどうかは施設ごとに違います。施設を探す段階になったら、その施設と市区町村の両方に確かめてください。
たとえば、実家に住む親が、子の住む市の近くの施設に直接入る場合と、いったん子の家に呼び寄せて住所を移してから施設に入る場合とでは、どの市町村の介護保険になるかが変わってくる可能性があります。呼び寄せの段取りを考えるときに、のちに施設を考える可能性があるなら、住所をどの順番で動かすかも、呼び寄せ先の市区町村に相談しておく項目に加えてください。
次は認定とお金
呼び寄せるか通い続けるかが決まったら、次に来るのは、要介護認定と、介護に毎月いくらかかるかの話です。
どちらの住まい方を選んでも、介護サービスを使うには認定が要り、自己負担の割合や、毎月使えるサービスの上限が家計に関わってきます。呼び寄せるなら、転入先での認定の手続きとあわせて、引っ越し後の月々の費用の見通しを立てておくと、住まい方の比較表に入れる数字がそろいます。通い続けるなら、交通費と介護サービスの自己負担を並べて見ることで、通い続ける前提が家計の面でも成り立つかを確かめられます。
認定の申請から、負担の割合、月々の費用の考え方までは、次の記事で順番にまとめています。
よくある質問
田舎から高齢の親を呼び寄せたらどうなりますか?
親は、家や近所づきあい、かかりつけ医から離れて新しい土地で暮らすことになり、それを負担に感じる場合があります。介護保険は、住所を移した先の市町村の被保険者になるのが基本です。すでに認定を受けているなら、資格を取得した日から14日以内に、前の市町村の書面を添えて申請すると、市町村が審査を省いて認定することができる仕組みがあります(介護保険法36条)。
お金がない親の介護はどうすればいいですか?
まず、親の住む地域を担当する地域包括支援センターに、家計が苦しいことも含めて相談してください。介護保険のサービスを使うには要介護認定が要るので、認定の申請と、使えるサービスの見通しを先に立てます。呼び寄せや住み替えは費用が増える場合があるので、通い続ける場合と並べて、自分の家の数字で比べてから決めてください。
認知症が始まっていても、呼び寄せられますか?
呼び寄せること自体はできますが、親がどこで暮らしたいかを確かめにくくなる場合があります。それでも、本人の言葉や表情から意向をくみ取る努力は続けてください。進め方は、今のケアマネジャーや地域包括支援センター、かかりつけ医に相談しながら決めると、移ったあとの暮らしまで見通しやすくなります。
住民票はいつ移せばいいですか?
転入届は、転入した日から14日以内に出すと住民基本台帳法22条で決まっています。転出届は、あらかじめ出します(同法24条)。介護保険の資格は「住所」を基準に切り替わり、認定の特例の14日もそこから数えるので、住民票を移す前に、移す先の市区町村に介護保険の手続きもあわせて確かめておいてください。
兄弟が呼び寄せに反対したら、どうすればいいですか?
反対の理由を聞き、親がどこで暮らしたいか、それぞれの家で何ができるかを並べて話してください。続柄や順番で誰が引き受けるかを決めつけるより、親の希望と各家の事情を共有するほうが、まとまりやすくなります。決めきれないときは、呼び寄せを決める前に、短期間の滞在で試すことを提案する方法もあります。
引っ越したら、今のケアマネジャーとは続けられませんか?
今のケアマネジャーや事業所は、今の地域でサービスを組んでいるので、引っ越し先で探し直しになる場合があります。地域密着型サービスは、原則として、事業所を指定した市町村の被保険者だけが使えます。転居の前に、今のケアマネジャーと、呼び寄せ先の市区町村の窓口の両方に相談してください。
順番のおさらい
- 決め手:親がどこで暮らしたいか、いま必要な介護の中身、通う側がどこまで続けられるか、受け入れる側の住まいと家族の順に確かめる
- 3つの違い:通う・近居・同居は「誰が何を手放し、何を背負うか」で比べ、費用は「どこにかかるか」の表に自分の家の数字を入れる
- 呼び寄せない方がよい条件:親が離れたくない理由を聞けていない、地域のサービスで埋められる、家族が納得していない、組み直しの見通しがない、ふだんの手助けの担い手が決まっていない
- 親と話す:頼むのではなく聞く。まとまらなければ短期間の滞在で試す
- 認定:介護保険法36条は、資格を取得した日から14日以内に前の市町村の書面を添えて申請すると、審査を省いて認定「できる」仕組み。書面は転出前に元の窓口で確かめる
- 住民票と資格:介護保険は住所のある市町村。転出届はあらかじめ、転入届は転入した日から14日以内
- 組み直し:今のケアマネジャーと呼び寄せ先の窓口の両方に、転居の前に相談する。地域密着型サービスは住む市町村のもの
- 通い続ける:帰省で踏ん張るのではなく、行けない日も回る形に組み替え、時期を決めて見直す
- 施設を考えるとき:住所地特例は施設に入って住所を移した場合の話。グループホームは対象外
- 次に来ること:認定と、介護に毎月いくらかかるか
呼び寄せるか通い続けるかの選択は、どちらが正しいかを当てる話ではなく、親と家族の条件がどちらにそろっているかを確かめる話です。親の意思を聞き、介護の中身を地域の窓口と一緒に見て、自分たちの限界を正直に書き出せば、選ぶ方向が見えてきます。呼び寄せると決めたなら、引っ越しの日より先に、今の地域と呼び寄せ先の窓口へ電話を一本ずつ入れるところから始めてください。
地域包括支援センターの名称と担当区域、介護保険の窓口の名称、転入時の手続きの細部は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

