- 親の介護をしたくない、と思ってしまう自分は悪いのだろうか
- 親の介護は法律で決まった義務なのか、しないとどうなるのか
- 昔ひどいことをされた。毒親と呼びたくなる親の世話を、自分がするとは思えない
- 自分の仕事と生活で手一杯で、通う時間もお金もない
- 一度関わったら、全部を背負わされるのではないかと怖い
- 役所や病院から連絡が来たら、断れないのではないか
- ケアマネジャーに「関われません」と言っていいのか分からない
- お金のことだけ、手続きだけ、という関わり方はありなのか
- 兄弟がいるのに、自分だけが言われている気がする
上記のような悩みに答えます。
親の介護をしたくないという気持ちは、親子の関係、住んでいる場所、仕事、お金など、事情の違いから生まれます。検索すると「扶養の義務があるので放棄はできない」という説明と、介護サービスや施設の紹介が目に入ります。この記事では、民法の条文のどこまでが言えて、どこからは言えないのかを分けて書きます。そのうえで、「手を動かす介護はしない」と決めたあとに選べる関わり方と、窓口に何をどう伝えるかまで扱います。具体的には、法律上の義務・しないとどうなるか・任せられる先という基本を押さえたうえで、関わり方を段階で選ぶ考え方、最初の相談での伝え方、暴力や虐待があった親との距離、家族が関われないときに市町村が動く仕組み、そして関わったほうが自分のためになる場面まで、民法・老人福祉法・高齢者虐待防止法・介護保険法の条文で確かめながら整理しました。
親の介護をしたくないなら、自分の手で介護をすることは介護保険のサービスや施設に任せてかまいません。民法が親子の間に定めているのは扶養の義務で、同居して身の回りの世話をすることまでは条文に書かれておらず、どこまで負担するかはまず話し合い、まとまらなければ家庭裁判所が親の必要と子の資力などを考えて決めます。まずは親の住む地域の地域包括支援センターに、自分が関われる範囲を言葉にして伝えてください。
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親の介護で手を動かす部分は任せていい
親の食事、入浴、排せつの世話のように、手を動かす介護を自分でしないと決めることは、選べる道の一つです。そう決めたあとに考えるのは、「誰に任せるか」と「自分はどこまで関わるか」の2つです。
親の介護をしたくないと感じることに、良い悪いの答えはありません。この記事では、その気持ちを評価することはしません。確かめられるのは、法律が何を定めていて、どんな仕組みが用意されているか、という事実のほうです。
事実として言えることを、先に並べておきます。
- 民法が親子の間に定めているのは「扶養をする義務」で、条文に「介護をする義務」「同居して世話をする義務」とは書かれていない
- どこまで扶養を負担するかは、まず家族の話し合いで決め、まとまらなければ家庭裁判所が決める
- 手を動かす介護は、介護保険の在宅サービスや施設が担う仕組みになっている
- 家族が関われない事情があるとき、市町村が措置や後見等の申立てをする仕組みもある(使うかどうかは市町村の判断)
この4つから言えるのは、「手を動かす介護をしない」ことと、「親のことに一切関わらない」ことは、同じではないということです。前者は介護保険と施設に任せれば成り立ちますが、後者は扶養の話し合いや、親のお金の段取りなど、別の場面が残ります。その間に、手配と連絡だけ、お金のことだけ、緊急連絡先だけ、という関わり方がいくつもあります。
たとえば、実家から遠く離れて暮らしていて、仕事も休めない人の場合、通って世話をすることはそもそも難しいはずです。この場合、地域包括支援センターに相談して要介護認定の申請を進め、ケアマネジャーに在宅サービスの組み立てを任せ、自分は電話とオンラインで連絡を受ける役に絞る、という関わり方になります。一方、親から暴力を受けてきた人の場合は、連絡を受ける役も負担になることがあります。その事情があるなら、窓口に最初から話してかまいません(下の「暴力や虐待があった親との距離」で扱います)。
したくない気持ちを抱えたまま無理に引き受けると、途中で続けられなくなったときに、親にとっても自分にとっても急な形で降りることになりかねません。最初に「ここまではする、ここからは任せる」を決めておけば、任せる先の手配も前もって進められます。迷ったら、下の「関わり方は5段階から選ぶ」の表で、自分に近い段を1つ選ぶところから始めてください。
民法が定めているのは扶養の義務
民法877条1項は、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。親と子は直系血族なので、この条文が親子の間の扶養の義務の根拠になります。
ここで押さえておきたいのは、条文に書かれている言葉と、書かれていない言葉の区別です。877条の言葉は「扶養をする義務」で、「介護をする義務」「同居して身の回りの世話をする義務」とは書かれていません。かといって、「扶養の義務はお金に限られる」とも書かれていません。条文は、扶養の程度や方法を別の条文(879条)に委ねていて、そこでも決め方の手順と考える要素が書かれているだけです。
- 親子や兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある
- 扶養の程度・方法はまず話し合いで決める
- まとまらなければ家庭裁判所が決める
- 子には親を介護する義務がある/ない
- 義務はお金の負担だけで足りる
- 長男だけ・同居の子だけが負う
もう一つ、よく引き合いに出されるのが民法730条です。730条は「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」と定めています。ただ、730条は親族の間の扶け合いについての一般的な規定で、877条のように家庭裁判所が中身を定める仕組みは書かれていません。「730条があるから介護の義務がある」とは、条文からは言えません。
877条2項は、特別の事情があるときは、家庭裁判所が三親等内の親族にも扶養の義務を負わせることができると定めています。どんな事情が「特別の事情」にあたるかは、条文には書かれていません。
出典:民法877条(e-Gov法令API)/民法730条(e-Gov法令API)
たとえば、親族から「法律で子が介護することになっている」と言われた場合、条文に書かれているのは扶養の義務で、介護の方法までは書かれていない、という事実を手元に置いておくと、話を落ち着いて進めやすくなります。反対に、「法律上は何もしなくていい」と言い切る説明を見かけても、それも条文からは言えないことです。どちらの言い切りにも寄りかからず、「扶養の程度と方法は話し合いで決める」という手順のほうを見てください。
自分のケースで義務がどこまで及ぶのかを知りたいときは、条文の一般論ではなく個別の事情の当てはめになります。その判断は家庭裁判所の手続きの中で行われるものなので、親族との話し合いがこじれそうなときは、弁護士や法テラスに、家族の構成・親の暮らしの状況・自分の収入と暮らしの状況をまとめて相談してください。
どこまで負担するかは話し合いで決まる
扶養をどの程度、どんな方法でするかは、まず家族の話し合いで決めます。話し合いがまとまらないとき、または話し合いができないときは、家庭裁判所が決めます。
民法879条は、扶養の程度または方法について当事者の協議が調わないときは、「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める」としています。親がどれだけの支えを必要としているか、子がどれだけの資力を持っているか、そのほかの事情を合わせて考える、という形です。金額や「ここまで」という基準は、条文には書かれていません。
兄弟姉妹など扶養の義務を持つ人が複数いるときの順序も同じ形です(878条)。誰が先に負担するかは、まず当事者の話し合いで決め、まとまらなければ家庭裁判所が決めます。「長男が先」「同居している子が先」といった順序は、条文には書かれていません。
| 決めること | 条文 | 決め方 |
|---|---|---|
| 誰が先に扶養するか(順序) | 民法878条 | 話し合い → まとまらなければ家庭裁判所 |
| どの程度・どんな方法で扶養するか | 民法879条 | 話し合い → まとまらなければ家庭裁判所が、親の需要・子の資力その他一切の事情を考えて決める |
| 決めた後に事情が変わったとき | 民法880条 | 家庭裁判所が、協議や審判の変更・取消しをすることができる |
一度決めた内容も、その後に事情が変わったときは、家庭裁判所が協議や審判の変更または取消しをすることができます(880条)。自動的に変わるわけではなく、どんな変化が「事情の変更」にあたるかも条文には書かれていませんが、決めた形がずっと固定されるわけではない、という点は知っておくと気持ちの上で違います。
出典:民法878条(e-Gov法令API)/民法879条(e-Gov法令API)/民法880条(e-Gov法令API)
たとえば、兄と自分の2人きょうだいで、兄が親の近くに住み、自分は遠方という場合、話し合いの材料になるのは、親の必要と、それぞれの資力や事情です。兄が手配と見守り、自分は費用の一部と書類のやり取り、のように分ける形もあれば、2人とも手を動かす介護はせず、サービスと施設に任せる形もあります。話し合いが進まないときは、親の状態や必要なサービスを、ケアマネジャーや地域包括支援センターに先に整理してもらう方法もあります。
「しないとどうなるか」への答えは、この仕組みの中にあります。扶養の中身は、家族の話し合いと、まとまらなければ家庭裁判所の手続きで決まります。そして親の日々の暮らしは、介護保険のサービスや施設、必要なときは市町村の仕組みで支えられます。話し合いの席で何を言えばいいか分からないときは、「自分ができること」と「できないこと」を紙に書いて持って行くところから始めてください。
親の介護への関わり方は5段階から選ぶ
関わり方は、「全部やる」か「何もしない」かの二択ではありません。手を動かす、手配と連絡だけ、お金のことだけ、緊急連絡先だけ、関わらない、の5段階から、自分の事情に合う段を選べます。
段階で考えると、「したくない」の中身が分けて見えてきます。したくないのは毎日の世話なのか、親と顔を合わせることなのか、お金を出すことなのか。中身が分かれば、どこを任せて、どこを自分が持つかを決めやすくなります。
| 関わり方 | 自分がすること | 任せる先 | 向いている事情 |
|---|---|---|---|
| 手を動かす | 通院の付き添い・身の回りの世話の一部 | 足りない部分を在宅サービスに | 近くに住んでいて、関係も保てている |
| 手配と連絡だけ | 認定の申請・ケアマネとのやり取り・契約の確認 | 手を動かす介護はすべてサービスと施設 | 遠方・仕事が忙しい・同居はしたくない |
| お金のことだけ | 親のお金の管理の段取り・費用の確認 | 手配は兄弟やケアマネ、介護はサービス | 兄弟が近くにいる・連絡を受ける余裕がない |
| 緊急連絡先だけ | 入院や急変のときの連絡を受ける | 日々のことはケアマネとサービス | 関係が難しいが、全く切るのは迷う |
| 関わらない | 窓口に事情を伝える | 地域包括・ケアマネ・市町村 | 暴力や虐待があった・自分の生活が危うい |
どの段を選んでも、介護保険のサービスや施設の費用をどう出すかは別に考える必要があります。子が負担するかどうか、どこまで負担するかは、上の「話し合いで決まる」の話になります。費用の出し方は別の記事で詳しく扱っています。
たとえば、「親とは話したくないが、施設探しくらいなら手伝える」という人は、手配と連絡だけの段です。ケアマネジャーとはメールや電話でやり取りし、親との面会は自分が決めたときだけ、という形でも、介護の段取りは進められます。反対に、「お金の管理だけは自分がしないと、誰もいない」という一人っ子の人は、お金のことだけの段を選び、手配はケアマネジャーに任せる組み合わせが考えられます。
段は一度決めたら動かせない、というものではありません。最初は緊急連絡先だけにしておき、親の状態や自分の暮らしが変わったら段を上げ下げする、という使い方もできます。大事なのは、選んだ段を自分の中だけに置かず、窓口とケアマネジャーに言葉で伝えておくことです。伝え方は次の項で扱います。
最初に「関われる範囲」を伝える

親の介護の相談は、親の住む地域の地域包括支援センターが入口です。最初の相談で、親の状態と一緒に「自分が関われる範囲」を言葉にして伝えておくと、そのあとの相談を、その範囲を前提に進めやすくなります。
地域包括支援センターは、介護保険法115条の46にもとづき市町村が設置できる施設で、事業の委託を受けた法人が設置することもあります。名称や担当区域が自治体で違うのはそのためです。地域支援事業の総合相談支援として、高齢者の心身の状況や暮らしの実態を把握し、保健医療や福祉の情報提供、関係機関との連絡調整などを行います(115条の45第2項1号)。最初の一歩は、家族が地域包括支援センターに相談することです。
※地域包括支援センターの名称と担当区域は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
出典:介護保険法115条の46(e-Gov法令API)/介護保険法115条の45(e-Gov法令API)
- 1範囲を書き出すできること・できないこと
- 2地域包括に相談まず家族が相談する
- 3認定とケアマネ申請し、ケアマネを決める
- 4窓口を1つに絞る連絡を受ける人と方法
伝えるときは、気持ちの説明より、具体的な「できる・できない」を短く並べるほうが伝わります。たとえば次のような言い方です。
- 「遠方に住んでいて、通って介護することはできません。手続きと連絡は自分が受けます」
- 「平日の日中は電話に出られません。連絡はメールでお願いします」
- 「お金の管理は自分がしますが、身の回りの世話はサービスでお願いしたいです」
- 「事情があって、親と直接会うことは控えたいです。緊急時の連絡先にだけなります」
たとえば、病院から「退院後はご家族が見てくださいね」と言われたときも、同じ言い方が使えます。「自分は介護はできないので、退院前に地域包括支援センターに相談して、サービスを組みたい」と返すことができます。断ることは、何もしないことではなく、任せる先を指定することだと考えると、言葉にしやすくなります。
連絡が来たときの答え方も、最初に決めておくと慌てません。「その件はケアマネジャーの◯◯さんに相談してください」「費用のことだけは自分に連絡してください」のように、誰に回すかを決めた一文を用意しておくと、連絡のたびに引き受けるかどうかで悩まずに済みます。要介護認定の申請を自分がするのか、地域包括支援センターやケアマネジャーに手伝ってもらうのかも、最初の相談で聞いておいてください。
手を動かす介護は介護保険と施設へ

身の回りの世話は、介護保険の在宅サービスや施設に任せられます。子が手を動かさなくても、要介護認定を受けてケアマネジャーがケアプランを作れば、訪問介護や通所介護などで親の暮らしを支える形を組めます。
介護保険のサービスを使うには、まず親が要介護認定を受けることが入口になります。申請は親の住む市区町村の窓口で、地域包括支援センターに手伝ってもらうこともできます。認定が出たら、在宅ならケアマネジャーがサービスを組み立て、施設なら施設の種類と空きを見ながら申し込む流れです。
任せる先は、親の状態と、子がどの段で関わるかで変わります。
- 在宅で暮らし続ける:訪問介護・通所介護・短期入所などを組み合わせる。手配と連絡はケアマネジャーが中心になる
- 施設に移る:施設の種類によって入れる条件と費用が違う。見学や契約の場面だけ子が関わる形もある
- 親が施設を嫌がる:無理に説得するより、まず在宅のサービスを増やして様子を見る道もある
たとえば、一人暮らしの親に物忘れが増えてきたが、子は誰も同居したくない、という場合は、まず在宅サービスで日中の見守りと食事を支え、夜間や一人で暮らすのが難しくなった段階で施設を考える、という順番が取れます。親が「施設には行かない」と言う場合は、子が説得役になる必要はありません。ケアマネジャーや地域包括支援センターに、本人の気持ちを聞く場を作ってもらうこともできます。
介護保険のサービスと施設は、手を動かす介護を家族の外に出すための仕組みとして使えます。「サービスに任せるのは手抜きでは」と迷う必要はありません。子が持つのは、サービスが合っているかを時々確かめることと、変更が必要になったときにケアマネジャーに伝えることです。それも難しい段を選んだ人は、そのこと自体をケアマネジャーに伝えておいてください。
暴力や虐待があった親との距離
親から暴力や暴言を受けてきた、今も受けているという事情があるなら、そのことを市町村の窓口や地域包括支援センターに話したうえで、距離を取る前提で相談してかまいません。関われない事情は、最初に伝えてかまいません。
高齢者虐待防止法6条は、市町村が養護者による高齢者虐待の防止のため、高齢者と養護者に相談・指導・助言を行うと定めています。この法律でいう「養護者」は、高齢者を現に養護する人(介護施設の職員などを除く)です。6条は、親から暴力を受けてきた子の相談先を定めた条文ではないので、事情は、地域包括支援センターの総合相談(介護保険法115条の45第2項1号)に話すことができます。
出典:介護保険法115条の45(e-Gov法令API)/高齢者虐待防止法2条(e-Gov法令API)/高齢者虐待防止法7条ほか(e-Gov法令API)
相談するときに伝えるとよいことは、次のとおりです。
- 過去に何があったか(細かく話す必要はなく、「暴力があったので直接関わるのが難しい」で足りる)
- 今どこまでなら関われるか(緊急連絡先だけ・書類のやり取りだけ・関われない)
- 連絡を受けるときの方法(電話は避けたい、メールなら受けられる、など)
ただし、高齢者虐待防止法は、名前のとおり高齢者の虐待の防止と養護者への支援について定めた法律です。子自身が親から受けてきたこと、受けていることへの対応は、この記事で扱う範囲の外になります。また、「介護を断ること」そのものが虐待にあたる、という定義は条文にはありません。
たとえば、親から長く暴言を受けてきて、声を聞くだけでつらいという人の場合、地域包括支援センターに「事情があって直接の連絡は受けられない。書面かメールでなら手続きに協力できる」と伝えれば、その範囲で関わる形を窓口と相談できます。親に暴力を振るわれる危険がある場合は、関わる段を「関わらない」にして、その事情を窓口に伝えておく、という選び方もあります。
市町村の高齢者虐待の相談窓口の名前や部署は、市町村ごとに違います(18条で、窓口となる部局を明示して周知することになっています)。親の住む市区町村の高齢福祉の担当か、地域包括支援センターに聞くのが近道です。
家族が関われないとき市町村が動く仕組み
家族が関われない事情があるとき、市町村が親に介護サービスや施設を用意する「措置」や、市町村長が後見等の審判を家庭裁判所に請求する仕組みがあります。ただし、どちらも使うかどうかは市町村が判断するもので、子が断れば自動的に動く仕組みではありません。
老人福祉法10条の4第1項は、市町村は必要に応じて、身体上または精神上の障害で日常生活に支障がある高齢者が、やむを得ない事由で介護保険のサービスを利用することが著しく困難だと認めるとき、居宅での介護などの措置を採ることができると定めています。11条1項2号は、65歳以上で、身体上または精神上著しい障害があって常時の介護が必要で、居宅で介護を受けることが困難な人が、やむを得ない事由で特別養護老人ホームに入ることが著しく困難だと認めるとき、市町村が入所させるなどの措置を、必要に応じて採らなければならないとしています。
| 仕組み | 条文 | 市町村が判断すること |
|---|---|---|
| 居宅での介護などの措置 | 老人福祉法10条の4第1項 | やむを得ない事由で、介護保険のサービスの利用が著しく困難か |
| 特別養護老人ホームへの入所の措置 | 老人福祉法11条1項 | やむを得ない事由で、入所が著しく困難か |
| 市町村長による後見等の審判の請求 | 老人福祉法32条 | 福祉を図るため特に必要があるか |
「やむを得ない事由」の中身は、条文には書かれていません。そのため、「家族が介護を拒否すれば措置になる」「施設の順番を飛ばして入れる」とは言えません。
老人福祉法32条は、市町村長は高齢者の福祉を図るため特に必要があると認めるとき、民法に定める後見開始・保佐開始・補助開始などの審判を家庭裁判所に請求できるとしています。条文は「福祉を図るため特に必要があると認めるとき」と書いていて、どんな場面かは市町村長が判断します。ここも条文は「できる」で、親族の有無を要件にしていません。
出典:老人福祉法10条の4(e-Gov法令API)/老人福祉法11条(e-Gov法令API)/老人福祉法32条(e-Gov法令API)
たとえば、親から虐待を受けてきて子が誰も関われず、親自身も判断が難しくなっている場合、その事情を地域包括支援センターなどの窓口に伝えておくことはできます。これらの仕組みを使うかどうかは市町村が判断します。
ここで子ができるのは、「関われない」という事実と、その理由を窓口に伝えておくことです。仕組みを使うかどうかの判断は市町村に委ねることになるので、結果を約束してもらうのではなく、事情を共有しておく相談だと考えてください。
※措置や市町村長の申立ての扱いは、親御さんの住所地の市区町村が判断します。お住まいの市区町村で確認してください。
親の介護に関わったほうがいい場面
手を動かす介護はしないと決めた人でも、関わっておいたほうが後で自分が困らない場面があります。親が判断できるうちのお金の段取りと、連絡先だけは残しておくこと、の2つです。
1つめは、親のお金の管理です。親の判断能力が落ちてからでは、本人が契約を結ぶことが難しくなります。親が判断できるうちなら、任意後見契約という形で、将来お金の管理や療養看護に関する事務を任せる人を親自身が決めておけます。任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書でしなければなりません(任意後見契約法3条)。また、契約しただけでは効力は生じず、親の判断能力が不十分になったあと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力を生じます(2条1号・4条)。監督人が選ばれるのは任意後見契約が登記されている場合で、事情によっては選任されない場合もあります(4条1項ただし書)。本人以外が選任を請求するときは、本人が意思を表示できない場合を除き、本人の同意が必要です。
出典:任意後見契約に関する法律2条(e-Gov法令API)/任意後見契約に関する法律3条(e-Gov法令API)/任意後見契約に関する法律4条(e-Gov法令API)
子が任される側にならなくても、「親が判断できるうちに、誰かに任せる段取りをしておいてほしい」と一度伝えておくと、親が判断できるうちに任意後見などの段取りを話し合うきっかけになります。
2つめは、連絡先です。関わらない段を選んだ人でも、親が入院したときや急変したときの連絡をどうするかは考えておくと安心です。緊急連絡先だけは残す、メールなら受ける、のように最小の形を決めておく、という選び方もあります。
たとえば、親とは疎遠だが、一人っ子で他に親族がいない人の場合、手を動かす介護はしないとしても、お金の段取りと緊急連絡先の2つだけは引き受けておくと、親の判断能力が落ちたあとに自分が慌てる場面を減らせます。反対に、兄弟姉妹が近くにいて、お金の管理を引き受けてくれる人がいるなら、自分は緊急連絡先だけ、という分け方もできます。遠距離で何かあったときの動き方は、別の記事にまとめています。
自分が倒れそうなときの降り方

すでに介護を担っていて、自分の暮らしや体が持たなくなりそうなときは、関わる段を下げてかまいません。降りるときは、いきなり手を離すのではなく、任せる先を決めてから降りる順番にすると、親の暮らしを途切れさせずに済みます。
同居して介護している人の場合、介護の手が自分に集中していると、急に降りたその日から親の生活が回らなくなるおそれがあります。だからこそ、降りる順番を決めて、ケアマネジャーや地域包括支援センターに「この日までに、ここまで手を離したい」と伝えることが出発点になります。
降りる順番は、次のように考えると整理しやすくなります。
- いま自分が担っていることを全部書き出す(食事・入浴・通院・お金・夜間の見守りなど)
- ケアマネジャーに書き出したものを見せ、サービスに置き換えられるものを相談する
- 置き換えられないものは、施設やショートステイを含めて相談する
- 自分が最後まで持つもの(連絡を受ける・お金の確認など)を決めて、それ以外から手を離す
高齢者虐待防止法6条は、市町村が養護者による高齢者虐待の防止のため、養護者にも相談・指導・助言を行うと定めています。介護の負担が重くなったときは、地域包括支援センターの総合相談(介護保険法115条の45第2項1号)にも相談できます。
たとえば、親と同居して何年も介護してきて、仕事も休みがちになってきたという人は、まずケアマネジャーに「同居は続けるが、日中の介護からは手を離したい」と伝え、通所介護や訪問介護を増やすところから始められます。それでも難しければ、施設を含めて考える段に進みます。同居をやめることを考えている場合も、引っ越しや別居の前に、親の側の介護の手配を先に済ませておくと、親の暮らしが途切れずに済みます。
降りたあとの介護をどう支えるかは、要介護認定と、介護にかかるお金の見通しが土台になります。次の段階は、認定とお金の話です。
よくある質問
親の介護を拒否したいのですが、どうすればいいですか?
親の住む地域の地域包括支援センターに家族が相談し、「自分が関われる範囲」を最初に伝えてください。手を動かす介護は、介護保険のサービスや施設に任せる形で組み立てられます。扶養の程度については、まず家族の話し合い、まとまらなければ家庭裁判所が決める仕組みです。
親の介護は絶対にしなければなりませんか?
民法877条が定めているのは扶養をする義務で、介護をする義務とは書かれていません。ただし、扶養の義務がお金に限られるとも書かれておらず、程度や方法は話し合いと家庭裁判所で決まります。自分の場合どうなるかが気になるときは、弁護士や法テラスに家族の事情をまとめて相談してください。
親と関わりたくない場合、介護はどうすればいいですか?
関わり方は、緊急連絡先だけ、関わらない、という段も選べます。その場合も、事情を地域包括支援センターや市町村の窓口に伝えておくと、親の介護を誰が担うかを窓口が考える材料になります。暴力や虐待があった場合は、その事情も話してかまいません。
親を介護する義務は誰にあるのですか?
民法は、親子などの直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めています。特別の事情があるときは、家庭裁判所が三親等内の親族に扶養の義務を負わせることもあります。複数いるときの順序は、話し合いで決め、まとまらなければ家庭裁判所が決めます。
相続放棄をすれば、介護をしなくてよくなりますか?
相続放棄は、介護や扶養とは別の制度で、親が亡くなった後に行う手続きです。親が生きている間の扶養の話とは切り離して考えてください。期限などは別の記事で扱っています。
お金がなくて、親の介護費用を出せません。
介護費用をどう出すかは、親のお金の状況から確かめるところが出発点になります。子が負担するかどうか、どの程度負担するかは、親の必要と子の資力などを考えて、まず話し合い、まとまらなければ家庭裁判所が決めます。出せないことは、最初の相談で窓口に伝えておいてください。
順番のおさらい
- 任せていい:手を動かす介護は、介護保険のサービスと施設に任せられる。「しない」と「一切関わらない」は別
- 条文:民法877条は扶養をする義務。介護の義務とも、お金に限るとも書かれていない。730条は一般的な扶け合いの規定
- 決め方:扶養の順序・程度・方法は、まず話し合い、まとまらなければ家庭裁判所。事情が変われば、家庭裁判所が変更や取消しをすることがある
- 関わり方:手を動かす/手配と連絡だけ/お金のことだけ/緊急連絡先だけ/関わらない、から選ぶ
- 伝え方:親の住む地域の地域包括支援センターに家族が相談し、関われる範囲を言葉にする
- 任せる先:要介護認定を受け、在宅サービスか施設をケアマネジャーと組み立てる
- 暴力や虐待:事情を窓口に話し、距離を取る前提で相談してよい
- 市町村の仕組み:措置や市町村長の申立てはあるが、使うかどうかは市町村が判断する
- 関わったほうがいい場面:親が判断できるうちのお金の段取りと、緊急連絡先
- 降り方:担っていることを書き出し、任せる先を決めてから手を離す
親の介護をしたくないと感じたとき、重くのしかかるのは「全部やるか、何もしないか」の二択で考えてしまうことかもしれません。条文が定めているのは扶養の義務で、その中身は話し合いで決まり、手を動かす介護は家族の外に任せる仕組みがあります。だからこそ、自分が持つものを先に小さく決めて、それを窓口に言葉で伝えておく。その一言があるだけで、連絡が来るたびに悩むことも、急に全部を引き受けることも避けやすくなります。
地域包括支援センターの名称と窓口、措置や虐待の相談の担当部署は市町村によって違います。親御さんの住所地の市区町村で確認してください。
