父が亡くなったら母の年金|遺族年金の差額・併給の見落とし・手続きの順番

電卓とペン
  • 父が亡くなったら、母の年金は月いくらになるのか
  • 母の自分の年金と、父の遺族年金は両方もらえるのか
  • ずっと専業主婦だった母は、どうなるのか
  • 母はもう70代。それでも遺族年金はもらえるのか
  • 父は自営業で、国民年金だけだった
  • 父の年金を止める手続きを、どこでするのか分からない
  • 父が最後に受け取るはずだった年金は、どうなるのか
  • 母は年金事務所に一人で行けない。子が代わりに手続きできるのか
  • 遺族年金だけで、母がこの先も一人で暮らしていけるのか不安

上記のような悩みに答えます。

夫を亡くした妻の年金は、父を亡くした子から見れば「母の年金」の話です。つまずきやすいのは、遺族年金を「母の年金にそのまま足されるもの」と考えてしまう点で、65歳以上の母に自分の老齢厚生年金があると、受け取り方は足し算ではなく差額になります。保険会社やFPの解説は制度の一般論や若い遺族の話が厚く、最後は保険の見直しや相談の案内で終わるものが目立ちます。65歳以上の母に絞った働き方別の見方や、父の年金の停止・未支給年金・遺族年金の請求を子が代わりに進める段取りは、まとまって書かれていません。そこで、遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い、額の決まり方、もらえる条件という基本を押さえたうえで、差額のしくみと手続きの順番まで、国民年金法・厚生年金保険法の条文と日本年金機構の資料で確かめながら整理しました。

先に答え

65歳以上の母は、自分の老齢厚生年金が先に支給され、遺族厚生年金はその差額になります。遺族厚生年金の額のもとは、父の報酬比例部分の4分の3です。母の年金は「自分の年金に遺族年金をそのまま足した額」ではなく、差額で考えるのが見落としやすい点です。手続きは、父の年金の停止や未支給年金の請求とあわせて、順番に進めます。

2026年10月時点の制度で確かめています

年金額は令和8年度(2026年4月分から)の額で、毎年4月に改定されます。

目次

65歳以上の母がもらえるのは遺族厚生年金

父が厚生年金に加入していた人なら、65歳以上の母が受け取る遺族年金の中心は遺族厚生年金です。遺族基礎年金は「子のある配偶者」か「子」が受け取る年金なので、母と生計を同じくする対象の子がいなければ、母は遺族基礎年金の対象になりません(国民年金法37条の2)。

ここで言う「子」は、18歳になった年度の3月31日までの子か、20歳未満で障害等級1級・2級の子で、どちらも結婚していないことが条件です。子がすでに成人して独立していれば、この条件には当たりません。そのため、65歳以上の母の相談では、話の中心は遺族厚生年金に移ります。

母が受け取る年金を並べると、次の3つになります。

  • 母自身の老齢基礎年金(これは減らずにそのまま受け取る)
  • 母自身の老齢厚生年金(会社員などで厚生年金に入っていた期間がある場合)
  • 父の記録から出る遺族厚生年金(母の老齢厚生年金との差額)

老齢基礎年金は、遺族厚生年金と一緒に全額受け取れます。調整がかかるのは、母の老齢厚生年金と遺族厚生年金のあいだだけです。この区別がつくと、「遺族年金をもらうと自分の年金が減るのでは」という心配の一部は解けます。

たとえば、母が若いころに少しだけ会社勤めをして、その後は家庭に入っていた場合、母の老齢厚生年金は小さく、遺族厚生年金の差額が大きく残ります。反対に、母が長く会社勤めを続けていた場合は、母の老齢厚生年金が大きく、差額は小さくなるか出なくなります。同じ「父が亡くなった」でも、母の働き方で受け取り方が変わるのはこのためです。

編集部の整理では、最初に確かめるのは「父は厚生年金に入っていたか」と「母に自分の厚生年金の記録があるか」の2点です。両親の年金証書や、毎年届く振込の通知書を並べると、この2点はおおよそ見当がつきます。

出典:国民年金法37条の2(e-Gov法令API)/日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」

遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い

遺族年金には、国民年金から出る遺族基礎年金と、厚生年金から出る遺族厚生年金があります。誰が受け取れるか、額がどう決まるかが、二つでまったく違います。

違いを表にすると、次のとおりです。

項目 遺族基礎年金 遺族厚生年金
受け取れる人 子のある配偶者、または子 配偶者・子・父母・孫・祖父母(父が生計を維持していた人)
65歳以上の母 対象の子がいなければ対象外 要件を満たせば対象になる(妻には年齢の要件がない)
額 令和8年度は年847,300円(昭和31年4月2日以後生まれの場合)+子の加算 父の報酬比例部分の4分の3が基本
請求先 遺族基礎年金だけなら市区町村 年金事務所・街角の年金相談センター

遺族基礎年金が「子のある配偶者」に限られているのは、条文が配偶者の要件として、対象の子と生計を同じくしていることを求めているからです(国民年金法37条の2第1項)。一方、遺族厚生年金は配偶者そのものが対象で、妻には年齢の要件がありません(厚生年金保険法59条1項)。

母が70代でも80代でも、年齢で遺族厚生年金の対象から外れることはありません。ただし、受け取れる順番には決まりがあり、日本年金機構の説明では、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母の順です。父が亡くなって母が残る家では、母が受け取る側になります。

若い世代には、30歳未満で子のない妻は遺族厚生年金が5年間の有期になるといった別の決まりがありますが、65歳以上の母には関係しません。

たとえば、両親と、すでに独立した40代の子という家族で父が亡くなった場合、子は成人しているので遺族基礎年金の「子」には当たらず、母は遺族厚生年金だけを請求することになります。窓口は市区町村ではなく年金事務所です。

迷ったときは、請求する年金が遺族厚生年金なら年金事務所か街角の年金相談センター、遺族基礎年金だけなら市区町村、と覚えておくと、どこへ行くかで迷わずに済みます。

出典:厚生年金保険法59条(e-Gov法令API)

額のもとは父の年金の一部、報酬比例部分の4分の3

遺族厚生年金の額のもとは、亡くなった父の老齢厚生年金のうち、報酬比例部分の4分の3です(厚生年金保険法60条1項1号)。

ここで間違えやすいのは、「父が受け取っていた年金全体の4分の3」ではない点です。父が受け取っていた年金には、国民年金から出る老齢基礎年金と、厚生年金から出る老齢厚生年金があり、4分の3の計算に使うのは、厚生年金のうち働いていたときの給料と加入期間で決まる報酬比例部分だけです。老齢基礎年金の部分は含まれません。

そのため、父の年金の振込額をそのまま4分の3にしても、遺族厚生年金の額にはなりません。父の年金のうち、どこまでが老齢基礎年金で、どこからが老齢厚生年金かを分けて見る必要があります。

報酬比例部分の額を確かめる方法は、次のとおりです。

  • 父の年金証書(年金決定通知書)を見る
  • 毎年届いていた年金額の通知書を見る
  • 母を連れて、または子が代わりに年金事務所で聞く(代わりに行く場合の持ち物は、行く前に電話で確かめる)

たとえば、父が会社員として長く勤めたあとに退職した人なら、老齢厚生年金の報酬比例部分がまとまった額になっていて、遺族厚生年金のもとも大きくなります。父が会社員だった期間が短く、その後は自営業だった人なら、報酬比例部分は小さく、遺族厚生年金のもとも小さくなります。

ここまでで分かるのは、遺族厚生年金の「もとの額」までです。母に自分の老齢厚生年金がある場合は、次の差額のしくみがかかるので、受け取る額はここからさらに変わります。月いくらになるかの最終的な数字は、年金事務所かねんきんネットで確かめてください。

出典:厚生年金保険法60条(e-Gov法令API)

母に自分の厚生年金があるときは差額になる

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65歳以上の母に自分の老齢厚生年金がある場合、母の老齢厚生年金が先に全額支給され、遺族厚生年金はその差額だけが上乗せされます。

日本年金機構は、65歳以上で老齢厚生年金と遺族厚生年金を受ける権利がある人について、「ご自身の老齢厚生年金が支給されることになり、遺族厚生年金は、老齢厚生年金より年金額が高い場合に、その差額を受けることができます」と説明しています。遺族厚生年金より母の老齢厚生年金のほうが高い場合は、遺族厚生年金は全額支給停止になります。

こうなるのは、厚生年金保険法64条の2が、65歳以上で老齢厚生年金の受給権がある人の遺族厚生年金について、「当該老齢厚生年金の額に相当する部分の支給を停止する」と定めているからです。

もう一つ、65歳以上で母自身の老齢厚生年金がある場合は、遺族厚生年金の額そのものの決め方にも特徴があります。次の二つを比べて、高いほうが遺族厚生年金の額になります(厚生年金保険法60条1項2号)。

  1. 父の報酬比例部分の4分の3
  2. 1の額の3分の2と、母自身の老齢厚生年金の2分の1を足した額
計算例

日本年金機構のガイドには、この計算の例が載っています。1が60万円、母自身の老齢厚生年金が50万円の場合、2は40万円と25万円を足した65万円になり、1の60万円より高いので、65万円が遺族厚生年金の額になります。

母の年金は「足し算」ではなく「差額」で見る
母の老齢厚生年金(全額)+遺族厚生年金のうち差額の分+母の老齢基礎年金=母が受け取る年金
機構の例:2の額は 40万円+25万円=65万円(これは遺族厚生年金の額で、母が受け取る総額ではない)

ここで気をつけたいのは、この65万円は「遺族厚生年金の額」であって、母が受け取る総額ではないことです。65万円のうち、母自身の老齢厚生年金50万円に相当する部分は支給が止まり、残りの差の分だけが遺族厚生年金として支払われます。母はそれとは別に、自分の老齢厚生年金50万円と、自分の老齢基礎年金を受け取ります。

この差額のしくみを知らないと、「遺族年金65万円が自分の年金に上乗せされる」と思い込み、あとで振込額を見て驚くことになります。反対に、「自分の年金をもらっているから遺族年金はゼロになる」と思い込んで請求しないのも誤りです。全額停止になるのは、母の老齢厚生年金のほうが遺族厚生年金より高いか同じときだけです。

なお、母の老齢厚生年金に加給年金額が付いている場合は、それを除いた額で比べます。

編集部の整理では、子が先に押さえておくのは「母の老齢厚生年金はいくらか」の1点です。父の側の報酬比例部分と並べれば、差額が出そうか、出なさそうかの見当がつきます。正確な額は年金事務所で出してもらい、差額が出るかどうかを家族で決めつけずに、請求して年金事務所の判断を受けてください。

出典:厚生年金保険法64条の2(e-Gov法令API)/日本年金機構「年金の併給または選択」

母の働き方別に見る、受け取れる年金

母が受け取れる年金は、母がどう働いてきたかと、父が入っていた年金で大きく分かれます。65歳以上の母を前提に並べると、次のようになります。

母と父の状況 遺族厚生年金 見るポイント
ずっと専業主婦だった母(父は会社員) 対象。母の老齢厚生年金が無いか小さいので、差額が大きく残る 母の老齢基礎年金+遺族厚生年金が中心になる
共働きで、母にも厚生年金がある 対象。ただし母の老齢厚生年金が先に出て、差額だけが上乗せ 母の老齢厚生年金が遺族厚生年金の額より高いか同じだと、遺族厚生年金は全額停止
父が自営業で、国民年金だけだった 父に厚生年金の記録が無ければ出ない 寡婦年金・死亡一時金の条件を確かめる
母がまだ65歳になっていない 対象。条件によって中高齢寡婦加算が付く 65歳になると受け取り方が変わる

専業主婦だった母の場合は、母自身の老齢厚生年金が無いか、結婚前の短い勤めの分だけという場合は、遺族厚生年金が母の暮らしの柱の一つになります。父の報酬比例部分の4分の3が遺族厚生年金の額になり、そこから母自身の老齢厚生年金の分を引いた差額が支給される組み合わせです。

共働きだった母の場合は、上の差額のしくみがそのままかかります。母の老齢厚生年金が、上の1と2のうち高いほうの額(遺族厚生年金の額)以上になる家では、遺族厚生年金は全額停止になり、父が亡くなっても母の振込額は変わらない、ということも起こります。差額が出るかどうかは、請求して年金事務所の判断を受けてください。

父が国民年金だけだった場合は、遺族厚生年金はありません。遺族基礎年金も、対象の子がいなければ出ません。国民年金には寡婦年金と死亡一時金がありますが、寡婦年金は妻が60歳以上65歳未満で、婚姻関係が10年以上続いていたことなどが条件で、65歳以上の母は対象になりません。死亡一時金は、父が国民年金の保険料を36月以上納めていたことなどが条件で、額は納めた月数に応じて12万〜32万円です。ただし、父がすでに老齢基礎年金を受け取っていた場合は、寡婦年金も死亡一時金も出ません。父が年金を受け取っていた家では、まずこの点を確かめてください。

※寡婦年金と死亡一時金の請求先は、自治体によって窓口が違います。お住まいの市区町村で確認してください。

母が70代・80代という場合も、年齢そのものは遺族厚生年金の対象に影響しません。母が昭和31年4月1日以前生まれの場合は、条件によって経過的寡婦加算が付くことがあります。額は生年月日によって違うので、付くかどうかと額は年金事務所で確かめてください。

たとえば、父が会社員で、母が専業主婦の家と、父も母も定年まで会社員だった家とでは、父の年金記録が同じでも、母が受け取る遺族厚生年金は違う額になります。親戚や近所の「うちはこれだけもらえた」という話がそのまま当てはまらないのは、このためです。

自分の家がどの行に当たるかが分かったら、母の年金証書と父の年金証書を並べ、年金事務所で「どの年金がいくら出るか」を一覧にしてもらうのが近道です。

出典:国民年金法49条(e-Gov法令API)/国民年金法52条の2(e-Gov法令API)

もらえる条件は生計維持と父の加入期間

遺族厚生年金を受け取るには、父の側の条件と、母の側の条件の両方を満たす必要があります。

父の側の条件は、亡くなったときの父の状況で分かれます。年金を受け取っていた父が亡くなった場合は、日本年金機構の言い方では「老齢厚生年金の受給権者であった方(受給資格期間25年以上)」が亡くなったときに当たります。父が会社で働いている途中に亡くなった場合などは別の要件で、こちらは保険料の納付要件(亡くなった日の前日に、加入期間の3分の2以上が納付済みか免除)もかかります。

母の側の条件は、父が亡くなった当時、父によって生計を維持されていたことです。日本年金機構の説明では、次の二つをどちらも満たすことを言います。

  • 父と生計を同じくしていたこと(同居が典型だが、別居でも仕送りや健康保険の扶養などで認められる場合がある)
  • 母の前年の収入が850万円未満、または所得が655.5万円未満であること

収入と所得は別の数字なので、混ぜずに見てください。母の前年の収入は、源泉徴収票や年金の通知書で確かめられます。気をつけたいのは、両親が別々に暮らしていた場合で、そのときは、生計を同じくしていたかどうかが問題になります。別居でも、仕送りや健康保険の扶養などで認められる場合があります(日本年金機構)。

母が65歳になる前に父が亡くなった場合は、中高齢寡婦加算という加算があります。父が亡くなったときに母が40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない場合などに、令和8年度は年635,500円が、母が65歳になるまで加算されます。年金を受けていた父が亡くなった場合は、父の厚生年金の加入期間などの条件もあります。65歳以上で父を亡くした母には、この加算は付きません。

たとえば、母が65歳になる前に父が亡くなった場合は、条件を満たせば65歳になるまで中高齢寡婦加算が付き、65歳以降は母自身の老齢厚生年金との差額のしくみで考えます。母が65歳を過ぎてから父が亡くなった場合は、最初から差額のしくみで考えます。

条件に当てはまるか確信が持てないのは、たとえば、別居していた場合や、父が年金を受け取る前に亡くなった場合です。そのような場合は、どの書類が要るかを年金事務所に電話で確かめたうえで、先に相談してください。

出典:厚生年金保険法58条(e-Gov法令API)/日本年金機構 年金用語集「生計維持」

手続きの順番と、子が代わりに行くとき

書類に記入する手元

父が年金を受け取っていた場合、手続きは「父の年金を止める」「父が受け取っていない年金を請求する」「母の遺族年金を請求する」の三つです。遺族厚生年金の請求先は、年金事務所か街角の年金相談センターです。

父の年金を止めてから、母の年金を請求する
  1. 1父の年金を止める年金受給権者死亡届(省略できる場合がある)
  2. 2未支給年金を請求する父が受け取っていない分を母が請求
  3. 3遺族厚生年金を請求する年金事務所・街角の年金相談センター
  4. 4振込と額を確かめる亡くなった月の翌月分から

一つ目の父の年金の停止は、年金受給権者死亡届を出して行います。日本年金機構は「すみやかに」提出するよう案内していて、提出が遅れると年金を多く受け取りすぎることになり、あとで返すことになる場合があるとしています。法令の上では、老齢基礎年金の受給権者の死亡の届出について、国民年金法施行規則24条が、亡くなった日から14日以内と定めています。ただし、日本年金機構にマイナンバーが収録されている人で、亡くなった日から7日以内に戸籍法の死亡届を出した場合などは、原則としてこの死亡届を省略できます。省略できるかどうかは、年金事務所で確かめてください。

二つ目の未支給年金は、父が受け取るはずだったのに、まだ受け取っていない年金です。請求できるのは、父が亡くなった当時に生計を同じくしていた家族で、順番は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、それ以外の3親等内の親族です(国民年金法19条)。母が生きていれば、母が最初の順番になります。

三つ目が、母の遺族厚生年金の請求です。請求先は年金事務所か街角の年金相談センターで、年金請求書には戸籍謄本などの書類を添えます。遺族年金は、亡くなった月の翌月分から受け取れます。

子が代わりに手続きに行く場合は、行く前に年金事務所に電話をして、次の点を確かめておくと、一度で済みやすくなります。

  • 委任状が必要かどうか、必要なら書き方と、代わりに行く子が持っていく本人確認書類
  • 今回の請求に要る添付書類(戸籍謄本など。家族の状況で変わる)
  • 父の死亡届が省略できる扱いになっているか

手元にそろえておくと話が早いのは、父と母の年金証書(基礎年金番号が分かるもの)、父の死亡の日付が分かるもの、母の振込先の通帳です。

たとえば、母が遠方に住んでいて、子が週末にしか動けない場合は、母の家に行ったときに、年金事務所に電話で確かめた必要な書類を書いてもらい、書類を集めてから、子の住まいに近い年金事務所や街角の年金相談センターで相談できるかを確かめて進める、という分け方もできます。行ける窓口が近くにあるかは、日本年金機構のサイトで探せます。母の判断力に不安がある場合は、そのことを年金事務所に伝えて、どう進めればよいかを先に聞いてください。

葬儀のあとの手続きは、年金のほかにも役所・銀行・保険と続きます。全体の順番は、次の記事にまとめています。

親が亡くなったらすること

相続放棄の期限はいつから3か月?

出典:日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」/国民年金法施行規則24条(e-Gov法令API)/国民年金法19条(e-Gov法令API)/戸籍法86条(e-Gov法令API)

税金と時効、制度の見直しとの関係

遺族年金には税金がかかりません。遺族基礎年金は国民年金法25条、遺族厚生年金は厚生年金保険法41条2項で、租税その他の公課の対象にならないと定められています。

一方で、同じ条文のただし書きで、母自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金は課税の対象になると定められています。「遺族年金は非課税、自分の老齢年金は課税」と対にして覚えておくと、源泉徴収の通知を見たときに混乱しません。母に税金がいくらかかるか、確定申告が要るかどうかは、母の住所地の税務署に確かめてください。

時効にも気をつけてください。遺族厚生年金と遺族基礎年金を受ける権利は、支給すべき事由が生じた日から5年で時効によって消えます(厚生年金保険法92条1項・国民年金法102条1項)。請求が遅れても5年分まではさかのぼれる、という言い方のほうが実態に近いのですが、手続きを後回しにしてよい理由にはなりません。死亡一時金の時効は2年で、遺族年金の5年とは違います。

制度の見直しについては、厚生労働省が、遺族厚生年金の見直しを2028年4月に施行する予定だとしています。見直しの中心は、若い世代の子のない配偶者の遺族厚生年金を、原則5年の有期給付の対象にすることです。厚生労働省は、すでに遺族厚生年金を受け取っている人と、60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人は、見直しの影響を受けないと説明しています。65歳以上で父を亡くした母は、この「60歳以降に受給権が発生する人」に当たります。中高齢寡婦加算も段階的に縮小される予定ですが、65歳以降に夫と死別した妻はもともと対象外なので、影響はないとされています。

ただし、これは厚生労働省が示している現時点の説明で、今後の政令や運用はここでは確かめられていません。気になる場合は、年金事務所で最新の扱いを聞いてください。

たとえば、父の死後の手続きに追われて、遺族厚生年金の請求を1年以上忘れていた場合でも、5年以内であれば、さかのぼって受け取れる分があります。気づいた時点で、すぐに年金事務所に行ってください。

出典:国民年金法25条(e-Gov法令API)/厚生年金保険法41条(e-Gov法令API)/厚生年金保険法92条(e-Gov法令API)/国民年金法102条(e-Gov法令API)/厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」/厚生労働省「遺族厚生年金の見直しに対して寄せられている指摘への考え方」

遺族年金だけで暮らせるかを考える

湯のみを持つ手

母の年金の額が分かったら、次は、その額で母がこれまでどおり暮らしていけるかを考えます。答えは、年金の額だけでなく、母の住まいと体の状態で変わります。

家の固定資産税や修繕など、家の維持にかかる費用は、母が一人になっても家を持ち続けるかぎりかかります。一方で、母の収入は、父の年金がなくなり、遺族厚生年金は差額の分だけになるので、二人のときより小さくなります。この差をどう埋めるかが、子が考えておくことです。

母の年金の額が分かった段階で、次のことを母と一緒に確かめておくと、先の見通しが立ちます。

  • 母の年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金・遺族厚生年金)の合計と、毎月の支出
  • 家の維持にかかる費用(固定資産税・修繕・庭や雪の手入れなど)
  • 母に介護が必要になったときの自己負担
  • 子がどこまで手伝えるか(お金・時間・距離)

介護サービスの自己負担の割合は、本人の所得によって変わります。母の年金の額が決まると、介護が必要になったときの負担の見通しも立てやすくなります。

母に介護が必要になったときの自己負担の目安

母がこのまま一人で実家に住み続けるのが当たり前とは限りません。母が一人で実家に住み続けない選択が向いているのは、たとえば、年金の合計で家の維持費と生活費をまかなうのが難しい、家が広くて掃除や手入れが母の負担になっている、通院や買い物に車が要るのに母が運転しない、といった条件が重なる場合です。反対に、年金で生活費がまかなえていて、近所に頼れる人がいて、母自身が住み続けたいと言っているなら、急いで住まいを変える理由は小さくなります。

たとえば、父が車で母を病院に連れて行っていた家では、父が亡くなったとたんに母の通院の足がなくなります。年金の額は足りていても、暮らしの手段が足りなくなる、ということも起こります。

年金の額が分かったところで一度、母の住まいをどうするかを家族で話しておくと、次に何かあったときに慌てずに済みます。実家に住み続けるか、住み替えるかの考え方は、次の記事にまとめています。

母がこのまま実家で暮らすか、住み替えるか

よくある質問

年金暮らしの父が亡くなったら、母の年金は月いくらになりますか?

父の報酬比例部分の4分の3をもとにした遺族厚生年金と、母自身の年金の組み合わせで決まるので、家ごとに違います。母に自分の老齢厚生年金があれば、そちらが先に支給され、遺族厚生年金は差額になります。月いくらになるかは、年金事務所かねんきんネットで確かめてください。

母の自分の年金と、父の遺族年金は両方もらえますか?

母の老齢基礎年金は、遺族厚生年金と一緒に全額受け取れます。母の老齢厚生年金と遺族厚生年金は、老齢厚生年金が先に支給され、遺族厚生年金はその差額になります。母の老齢厚生年金のほうが高ければ、遺族厚生年金は全額支給停止になります。

母が70代・80代でも遺族年金はもらえますか?

もらえます。遺族厚生年金は、妻には年齢の要件がありません。父が厚生年金に加入していて、母が父によって生計を維持されていたなどの条件を満たせば、70代でも80代でも対象になります。

専業主婦だった母の遺族年金はどうなりますか?

母自身の老齢厚生年金が無いか小さいので、遺族厚生年金の差額が大きく残ります。母が受け取る年金は、母の老齢基礎年金と遺族厚生年金が中心になります。父が国民年金だけだった場合は遺族厚生年金が出ないので、条件を年金事務所で確かめてください。

子が母の代わりに手続きできますか?

子が代わりに年金事務所で手続きできるかどうか、必要な書類は、行く前に年金事務所に電話で確かめてください。委任状の書き方と、子が持っていく本人確認書類は、行く前に年金事務所に電話で確かめておくと、一度で済みやすくなります。

遺族年金に税金はかかりますか?

遺族基礎年金と遺族厚生年金には税金がかかりません。ただし、母自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金は課税の対象です。母に税金がいくらかかるか、確定申告が要るかは、税務署に確かめてください。

請求を忘れていたらどうなりますか?

遺族年金を受ける権利は、支給すべき事由が生じた日から5年で時効によって消えます。5年以内なら、さかのぼって受け取れる分があります。気づいた時点で、年金事務所に相談してください。

順番のおさらい

  1. 何がもらえるか:65歳以上の母は、対象の子がいなければ遺族基礎年金は対象外。中心は遺族厚生年金
  2. 二つの違い:遺族基礎年金は子のある配偶者のもの。遺族厚生年金は妻なら年齢を問わない
  3. 額のもと:父の報酬比例部分の4分の3。父の年金全体の4分の3ではない
  4. 差額のしくみ:母の老齢厚生年金が先に全額出て、遺族厚生年金は差額だけ。老齢基礎年金は減らない
  5. 働き方別:専業主婦の母は差額が大きく、共働きの母は小さいか出ない。父が国民年金だけなら遺族厚生年金は出ない
  6. 条件:父の加入期間と、母が父に生計を維持されていたこと。65歳以上の母に中高齢寡婦加算は付かない
  7. 手続き:父の年金を止める → 未支給年金 → 遺族厚生年金の請求。子が行くなら、行く前に年金事務所に電話で確かめる
  8. 税金と時効:遺族年金は非課税、母の老齢年金は課税。時効は5年。2028年4月施行予定の見直しは、65歳以上で父を亡くした母には影響しないと厚生労働省は説明している
  9. 暮らせるか:年金の額が分かったら、母の住まいと支出を家族で話す

父が亡くなったあと、子が母の年金について押さえておくことは、突き詰めると「母の年金は足し算ではなく差額」「父の年金を止めてから母の年金を請求する」「額が分かったら住まいの話をする」の三つです。正確な額を自分たちで計算しようとするより、両親の年金証書をそろえて年金事務所で一覧にしてもらうほうが、早く確かな答えにたどり着けます。

父の家の中の物を片づけ始める前に、先に探す書類や貴重品の順番を遺品整理は相続を決めてからで見ておくと、片づけで手戻りが出にくくなります。

死後の手続き全体の流れは、こちらにまとめています。

亡くなったあとの手続き

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この記事を書いた人

親の介護と相続の手引き編集部です。親の介護と相続の手続きについて、法令や省庁・自治体の公式資料を原文で確かめ、確認日を添えてまとめています。

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