- 帰省したら、親が何日もお風呂に入っていないようで、臭いが気になる
- 「お風呂に入って」と言うと、とたんに機嫌が悪くなる
- 浴槽をまたぐのが怖くなっているのかもしれない
- 冬の浴室が寒いからなのか、お湯の沸かし方が分からなくなっているのか、見当がつかない
- 認知症かもしれないと思っても、口に出すのが怖い
- どこに相談すればいいのか、本人を連れて行かないと相談できないのかが分からない
- デイサービスでお風呂に入れると聞いたが、親は嫌がりそう
- 父親の入浴を、娘の自分が手伝うのは現実的ではない
- 遠くに住んでいて、たまにしか帰れない
- 介護保険の申請はまだ早いのではないか、自分の考えすぎではないか、とも思う
上記のような悩みに答えます。
親がお風呂に入らなくなるのは、介護の手前でよく見えてくる変化のひとつです。検索すると、入浴を嫌がる理由や声かけの工夫、体の拭き方がたくさん出てきますが、多くは親と同居して入浴を手伝う家族に向けて書かれています。離れて暮らす子が、たまの帰省で気づいた場合や、異性の親で手伝いようがない場合、本人が支援そのものを嫌がる場合の話は薄く、浴室の改修や道具に使える介護保険の枠、相談の順番にはほとんど触れていません。そこで、入らない理由の見当のつけ方・言い方・入らない日の清潔という基本を押さえたうえで、帰省の日に浴室で見ておくこと、家族だけで使える公的な窓口、入浴の支援が使えるようになるまでの順番、様子見を選ぶときの合図まで、介護保険法と厚生労働省の資料で確かめながら整理しました。病名や原因の見立ては医師に聞くことなので、扱いません。
叱って入らせる前に、「入らない」のではなく「入れない」理由がないかの見当をつけ、家族だけで地域包括支援センターに相談してください。デイサービスでの入浴や訪問入浴などを介護保険で使う入口は、要介護認定(要支援を含む)の申請です。
2026年9月時点の制度で確かめています
親がお風呂に入らないときは叱る前に理由を見る
親がお風呂に入らないと気づいたら、最初にやるのは説得ではなく、入れない理由の見当をつけることです。そのうえで、家族だけで地域包括支援センターに相談し、必要なら要介護認定の申請へ進みます。
順番は次のとおりです。
- 帰省の日に、浴室・脱衣所・給湯のまわりで「入れない理由」の手がかりを見ておく
- 本人を責めない言い方に切り替え、無理に入らせようとしない
- 親の住む地域の地域包括支援センターに、家族だけで電話する
- センターと相談しながら、要介護認定の申請と、入浴の支援・浴室の手すりや道具を検討する
- 1理由の見当をつける帰省の日に浴室で
- 2言い方を変える責めない・急がせない
- 3地域包括に電話家族だけでよい
- 4認定と入浴の支援センターと相談しながら
この順番にしているのは、「なぜ入らないの」と問い詰めても、たいてい本当の理由は出てこないからです。浴槽をまたぐのが怖い、浴室が寒くてつらい、お湯を張る手順があやふやになった——どれも本人にとっては認めたくないことで、子に聞かれるほど「面倒なだけ」「入っている」と返したくなります。理由が「嫌い」ではなく「入れない」なら、説得を重ねるほど親は追い詰められ、家族の関係だけが傷つきます。
たとえば、帰省のたびに「臭うから入って」と言い続け、そのたびに言い合いになっている家を考えてみてください。何か月たっても入浴の回数は増えず、親は子の帰省そのものを気重に感じ始めます。一方、浴室を見て「浴槽のふちが高くて手をつく所がない」と気づけば、話は「入れ」から「どうすれば入りやすいか」に変わります。手すりや道具、デイサービスでの入浴といった、家族が手を出さずに済む方法が選択肢に入ってきます。
迷ったときの軸は、「親を入らせる」ではなく「入れる条件を整える」です。本人の同意がなくても今日できるのは、浴室を見ておくことと、窓口に電話することの二つです。ここから手を付けてください。
なお、転んでけがをしている、体調が急に悪そう、といった様子があるなら、この順番を待たずにかかりつけ医や医療機関に連絡してください。
入らない理由は「嫌い」より「入れない」

高齢の親がお風呂に入らなくなる理由は、ひとつに決まりません。ただ、家族から見て「面倒くさがっている」「だらしなくなった」と映る場面の多くに、体の動き・寒さ・手順・気分のどれかで「入れない」事情が隠れています。
入浴は、家の中の動作でもかなり負担の大きいものです。服を脱ぐ、濡れた床を歩く、浴槽のふちをまたぐ、湯船から立ち上がる、体を拭いて服を着る。どれかひとつでも不安になると、全体をやめてしまうのは自然なことです。しかも入浴は一人で行うことが多く、途中で困っても誰にも見られないぶん、本人は「怖かった」とは言わずに、入る回数を減らしていきます。
家族が思い当たる理由を、場面ごとに並べると次のようになります。
| 入れない理由の見当 | 家族から見えるサイン | 近い対処の方向 |
|---|---|---|
| 浴槽のふちをまたぐのが怖い | シャワーだけで済ませる・湯船を張らない | 手すり・入浴用の道具、デイサービスでの入浴 |
| 脱衣所や浴室が寒い | 寒い時期だけ入らなくなる | 脱衣所を暖める・入る時間帯を変える |
| お湯を張る手順があやふや | 給湯の操作をためらう・お湯を出しっぱなし | 操作の見直し・誰かが入浴の日に関わる |
| 気分が沈んでいる | 入浴以外の身だしなみや外出も減っている | 医師への相談を急ぐ理由になる |
表の右側は「対処の方向」であって、原因を決めるものではありません。気分の落ち込みや物忘れが理由に見えても、それが病気かどうかを判断するのは医師の仕事です。家族が「認知症では」「うつでは」と口にすると、本人をかえって身構えさせるので、家族は見えたサインを覚えておき、相談の場で伝える役に回ってください。
たとえば、湯船は張らないがシャワーは浴びている様子がある場合と、浴室にまったく入った形跡がない場合では、見当のつけ方が変わります。前者なら、またぐ動作や湯船から立ち上がる動作に不安がある可能性が高く、手すりや道具、浴室の工事の話が近くなります。後者で、ほかの身だしなみや外出も減っているなら、入浴だけの問題ではないかもしれないので、センターへの相談と受診の段取りを急ぐ理由になります。
「無理に入れて転んだらどうしよう」という心配は、もっともです。だからこそ、入れない理由が体の動きにありそうなら、家族が手を貸して入らせるより、入れる環境と外の支援を整えるほうが安全です。
帰省の日に浴室と脱衣所で見ておくこと
たまにしか帰れないなら、帰省の日は「お風呂に入らせる日」ではなく、「浴室と脱衣所を見て記録する日」と決めておくと、次の一手が打ちやすくなります。
離れて暮らす子が持っている手がかりは、帰省の日に見たことと電話で聞いたことだけです。その少ない機会を入浴の説得に使って言い合いになると、見るべきものを見ないまま帰ることになります。浴室を見ておけば、センターやケアマネジャーに相談するときに「何となく入っていない」ではなく、具体的な場面で伝えられます。
見ておきたいのは次のようなところです。
- 浴槽のふちの高さと、またぐときに手をつける場所があるか
- 洗い場や浴槽の中が滑りやすくないか、床が濡れたままになっていないか
- 脱衣所と浴室が寒くないか、暖める器具があるか
- 給湯の操作パネルを本人が使えているか(設定が変わったまま、表示を読みにくいなど)
- タオルや着替えの置き場所、洗濯物の量が以前と変わっていないか
- シャンプーや石けんの減り方、浴室の乾き具合
聞き方にも気を配ってください。「最近お風呂に入ってる?」と聞くと、入っていなくても「入ってる」と返ってくることがあります。「この浴槽、ふちが高くてまたぎにくくない?」「脱衣所、冬は寒いでしょう」と、家のほうを話題にすると、本人も責められた感じがせずに答えやすくなります。
たとえば、帰省の日に浴室を見たら、浴槽のふちが高く、手をつく所がどこにもなかったとします。それだけで、親が湯船を避けている理由の見当がつき、手すりの取付けや入浴用の道具の話を、センターやケアマネジャーに具体的に持ち込めます。反対に、浴室はきれいに乾いていて、シャンプーもほとんど減っていないなら、しばらく浴室を使っていない可能性が高いと分かります。
見たことは、家族のメッセージのやり取りに日付と一緒に短く残しておけば十分です。次の帰省で同じところを見れば変化が分かり、兄弟と感じ方が違っても話を進められます。
こじれる言い方と通りやすい言い方
お風呂の話は、言い方ひとつで親の態度が大きく変わります。こじれるのは、本人の衰えや臭いを正面から指摘する言い方で、通りやすいのは、家や子の側の事情として話す言い方です。
入浴は、身だしなみと自尊心に直結する話題です。子から「臭う」「汚い」と言われるのは、親にとって自分が一人でやれていないと突きつけられることで、反発して当然です。病院やデイサービスの話を持ち出すと、「そこまで弱っていない」と示したくなり、話はさらに遠のきます。ここでの目的は、その日のうちに入らせることではなく、次に支援の話ができる関係を残しておくことです。
こじれやすい言い方と、通りやすい言い方を並べると、次のようになります。
| こじれやすい言い方 | 通りやすい言い方 |
|---|---|
| 「臭うから入って」 | 「今日は寒いから、先にお湯を張っておこうか」 |
| 「なんで入らないの」 | 「このお風呂、ふちが高くて入りにくくない?」 |
| 「病院で診てもらおう」 | 「健康のことで一度相談してみたい所があるんだけど」 |
| 「デイサービスに行って入ってきて」 | 「大きいお風呂に入れる所があるらしいよ」 |
通りやすい言い方に共通しているのは、本人を主語にしないことです。「あなたが入らない」ではなく「浴槽が高い」「脱衣所が寒い」と、家や季節のほうを話題にします。ただし、本人をだますような言い方や、別の用事だと偽って連れ出すことは勧めません。いったん信頼を失うと、あとで本当に支援が必要になったときに話を聞いてもらえなくなります。
異性の親の場合は、さらに難しくなります。たとえば、父親の入浴が心配でも、娘が浴室の話をすること自体を父親が嫌がるなら、家族が直接言うより、地域包括支援センターやケアマネジャーのような第三者から話を出してもらうほうが受け入れられやすいことがあります。家族は「入らせる役」を降り、第三者につなぐ役に回ると考えてください。
一度の帰省で決着をつけようとしないことも大切です。その日は言い方を変えて様子を見るだけにし、断られたら無理に続けず、センターに「本人に話したが嫌がった」と伝えて次の段取りを相談します。
地域包括には家族だけで相談できる
地域包括支援センターには、本人を連れて行かなくても、家族だけで、電話で相談できます。費用の扱いは最初の電話で確かめておくと安心です。「お風呂に入らなくなった」という、まだ介護保険を使うかどうか分からない段階の相談こそ、この窓口の本来の仕事です。
地域包括支援センターは、介護保険法115条の46に根拠がある公的な窓口です。条文では、介護予防の支援と包括的支援事業を行い、地域の住民の心身の健康の保持と生活の安定のために必要な援助を行う施設とされ、市町村が設置できることになっています。市町村から委託を受けた法人が運営していることもありますが、施設やサービスを売るための窓口ではありません。相談したからといって、介護サービスを使い始めることが決まるわけでもありません。
相談先は、自分の住所ではなく、親が住んでいる地域を担当するセンターです。親の住所で検索するか、親の住む市区町村の介護保険の窓口に電話して「この住所の担当の地域包括支援センターはどこか」と聞けば教えてもらえます。
電話では、見たことをそのまま伝えれば足ります。たとえば「親がしばらくお風呂に入っていないようだ。浴槽のふちが高くて手をつく所がない。本人は入浴の話を嫌がる。家族として何から始めればいいか」です。前の項の記録に加えて、次のことをメモしておくと話が早く進みます。
- いつごろから、どのくらい入浴していないように見えるか
- 入浴以外に変わったこと(着替え・外出・食事・物忘れなど)があるか
- かかりつけ医がいるか、定期的に通っている病院があるか
- 親は一人暮らしか、誰かと暮らしているか
- 自分や兄弟がどのくらいの間隔で帰れるか
家族が相談すると、センターのほうから、本人が受け入れやすい入り口を一緒に考えてもらえることがあります。子が「お風呂に入って」と言うより、第三者から健康のことを聞かれるほうが、本人も構えずに話せる場合があります。家を訪ねてもらえるか、どんな対応ができるかは地域と状況で違うので、親の了解が取れそうかどうかも含めて聞いてみてください。相談の結果、医師に診てもらう段取りが要りそうなら、かかりつけ医など、本人が構えずに済む受診の入り口をセンターと一緒に考えられます。要介護認定の申請の手続きは、地域包括支援センターに代わって行ってもらうこともできます(介護保険法27条)。
編集部の整理では、この段階でいちばん損が大きいのは、「お風呂くらいで相談するのは大げさだ」と思って電話をしないことです。相談しても何も決まらないなら、失うものはありません。「いまは様子見でいい」と言われれば、それもひとつの答えになります。
※地域包括支援センターは市町村が設置するか委託を受けた法人が運営するため、名称(「高齢者あんしんセンター」など)と担当区域は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
入浴の支援は認定の申請が入口

デイサービスでの入浴、訪問介護での入浴の手伝い、訪問入浴といった支援を介護保険で使う入口は、要介護認定(要支援を含む)の申請です。要介護と認定されれば候補にできますが、要支援の場合は使える形と仕組みが違い、デイサービスや訪問介護は市区町村の総合事業の扱いになるので、どれが使えるかは地域包括支援センターで確かめてください。家族が入浴を手伝えないなら、まず申請から始めることになります。
介護保険のサービスは、申請して認定を受けた人が、ケアマネジャーなどと相談して計画を立てたうえで使う仕組みになっています。入浴の支援も同じで、「お風呂に入れてほしい」と事業所に直接頼めば始まるわけではありません。どの支援が使えるかは、認定の結果(要支援か要介護か、どの程度か)によって変わります。利用者負担は原則1割で、所得によってはそれより高い割合になります。
入浴の支援には、おおまかに次の三つの形があります。
- デイサービス(通所介護など)に通い、施設のお風呂で入浴の手伝いを受ける
- 訪問介護で、自宅のお風呂での入浴の手伝いを受ける
- 訪問入浴で、浴槽を持ち込んでもらい自宅で入浴する
どの形が合うかは、親の体の状態・家の浴室の造り・本人の気持ちで変わります。家の浴槽が深くてまたげないなら、自宅の浴室にこだわらずデイサービスのお風呂を使う考え方があります。外に出ることを嫌がるなら、自宅で受けられる形が候補になります。どれが使えるか、どれが向くかは、認定の結果とケアマネジャーとの相談で決まります。
認定を申請すると、介護保険法27条では、申請に対する処分は原則として申請のあった日から30日以内にしなければならないとされています。ただし同じ条で、調査に時間がかかるなど特別な理由があるときは、見込みの期間と理由を通知したうえで延ばせるとされており、実際にかかる日数は自治体や状況によって違います。そのため、急ぐ事情があるなら申請のときに窓口で伝えてください。
たとえば、父親の入浴を娘が手伝うのは難しく、父親はデイサービスという言葉にも抵抗がある、という家を考えます。この場合でも、先に認定を申請しておけば、結果が出たあとにケアマネジャーと「自宅のお風呂で手伝ってもらう形」や「大きなお風呂に入れる所に試しに行く形」を比べられます。申請していなければ、本人がその気になった日から申請を始めることになり、介護保険の支援を使えるまでに時間がかかります。申請したからといって、サービスを使い始めなければならないわけではないので、「まだ早い」と迷うなら、申請の時期も含めて地域包括支援センターで相談してください。
※実際の処理日数は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
浴室の手すりや道具に使える介護保険の枠
浴室の手すりや段差、入浴に使う道具には、介護保険の住宅改修と特定福祉用具販売という二つの枠があります。どちらも要支援・要介護の認定を受けた人が使うもので、住宅改修は工事の前に市区町村へ申請するのが原則、福祉用具は買い方に決まりがあるので買う前にケアマネジャーや市区町村に対象かを確かめておく必要があります。
手すりの取付けや段差の解消などの工事は、住宅改修として介護保険の対象になります。住宅改修費の支給限度基準額は20万円で、ひとり生涯の枠です(要介護状態区分が3段階上がったときと、転居したときは再度設定されます)。20万円は工事費の枠で、そのうち自己負担分を除いた額が支給されます。工事の前に市区町村へ申請するのが原則で、やむを得ない事情がある場合を除き、申請しないまま工事をした分は対象になりません。
入浴に使う福祉用具の一部は、特定福祉用具販売として介護保険の対象になります。支給限度基準額は年度(4月〜翌3月)で10万円です。住宅改修の20万円が生涯の枠なのに対し、こちらは年度ごとの枠で、期間の単位が違います。
出典:厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会「福祉用具・住宅改修」
- 手すりの取付けや段差の解消などの工事
- ひとり生涯20万円
- 工事の前に市区町村へ申請(原則)
- 入浴に使う福祉用具の一部
- 年度で10万円
- 対象かはケアマネ・市区町村に確認
どの工事、どの道具が対象になるかは、細かい決まりがあり、親の状態によっても変わります。浴室の手すりや入浴用の椅子のようなものを考えているなら、買う前・工事の前に、ケアマネジャーか市区町村の介護保険の窓口に「これは対象になるか」「どんな手続きが要るか」を確かめてください。先に買ってしまった道具や、申請前に済ませた工事は、あとから介護保険の対象にできないことがあります。
「手すりを付けたら入るようになるのか」は、入れない理由によって答えが変わります。理由が浴槽をまたぐ動作の不安なら、つかまる所ができるだけで入りやすくなることがあります。理由が寒さや手順の混乱なら、手すりだけでは変わらないかもしれません。
たとえば、帰省の日に浴槽のふちに手をつく所がないと分かった場合、急ぎの危険がなければ、先に認定を申請し、結果を待ちながらケアマネジャーや市区町村と工事の中身を相談するほうが、生涯の枠を活かせます。一方、明日にも転びそうだと感じるなら、自費になることを承知で先に手を打つ判断もあります。どちらにするかは、危なさの度合いと費用を比べて家族で決めてください。
※住宅改修の上乗せ助成は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。
お風呂に入らない日も清潔を保つやり方
入浴の支援が始まるまで、あるいは本人が入る気になるまでのあいだは、お風呂に入らない日でも清潔を保てる範囲のことを、本人のやり方に任せる形で整えておきます。
「何日入らなかったら危ないのか」は、多くの家族が気にする点です。ただ、日数で線を引くより、見ておくべきは変化のほうです。臭いが強くなってきた、同じ服を着続けている、皮膚が赤くなったりかゆがったりしている、下着の汚れが目立つ——こうした変化が出てきたら、入浴だけの話ではなく、暮らし全体の手助けを考える時期に来ています。日数で数えると「まだ大丈夫」と先延ばしにしがちなので、変化で見るほうが動くきっかけをつかみやすくなります。
入らない日の清潔は、家族が遠方から手を出す前提ではなく、本人が一人でできる範囲で整えるのが現実的です。
- 顔や手、脇などを、温かいタオルで拭けるように、タオルを手に取りやすい所に置いておく
- 着替えを出しやすくし、洗濯物がたまりにくいように量を見直す
- 足だけ、手だけのように、部分的にお湯につかれる道具や場所を用意しておく
- 寝具や枕カバーを帰省のときに替えておく
どれも「お風呂に入って」と言わずにでき、衰えを指摘された感じが薄い手です。ただし、拭き方や体の洗い方を家族が細かく教えようとすると、入浴を促すのと同じ反発が起きやすいので、道具と置き場所を整えるところまでにとどめてください。
たとえば、同居していない母親が、寒い時期になってからお風呂を避けるようになったとします。帰省のときに洗面所に温かいタオルを用意しやすいようにし、着替えを取り出しやすく並べ替えておけば、本人は入浴しなくても、ある程度は身の回りを整えられます。そのうえで、脱衣所の寒さを話題にして、暖かい時間帯に入る提案をしたり、センターに相談したりする。入らない日をしのぐ工夫と、入れる条件を整える動きは、並行して進めるものです。
「自分の考えすぎかもしれない」と思うなら、変化を記録しておけば、センターに相談したときに一緒に確かめてもらえます。
様子見にするなら動く合図を決めておく
いますぐ相談や申請に進まない、という判断もありえます。その選択をするなら、「こうなったら動く」という合図を家族で先に決めておくことが条件です。
本人が嫌がる、兄弟は「お風呂くらいで大げさだ」と言う、自分も仕事で手が回らない。そうした事情で様子見を選ぶのは、無責任なことではありません。ただ、合図のない様子見は、清潔の問題が暮らし全体に広がるまで何も決まらないのと同じになります。先に合図を言葉にしておけば、様子見は「何もしない」ではなく「決めた条件を待つ」選択になります。
合図の例(家族で言葉にしておくもの)
- 臭いや服の汚れが、前の帰省のときより目に見えて強くなった
- 皮膚の赤み・かゆみ・ただれのような変化が出てきた
- 浴室で転んだ、または転びかけたと聞いた
- 入浴だけでなく、着替えや外出、食事も減ってきた
合図を決めたら、兄弟とも共有しておきます。誰か一人が「まだ早い」と言っても、合図に当たったら動く、と決めておけば、後から「なんで早く動かなかったの」と責め合うことを避けられます。合図に当たったときに誰が地域包括支援センターに電話するかまで決めておくと、いざというときに押し付け合いになりません。
たとえば、近くに住む兄は様子見でいいと言い、遠くに住む妹は心配している、という家を考えます。この場合、様子見に賛成したうえで「浴室で転びかけたと聞いたら兄がセンターに電話する」と役割を決めておけば、兄にとっても負担が少なく、妹の心配も行き場を持ちます。意見をひとつにそろえるより、合図と担当をそろえるほうが、兄弟の間ではまとまりやすくなります。
様子見を選んだ場合も、帰省の日に浴室を見ておくことと、センターへの一度の相談だけは済ませておくことを勧めます。どちらも本人の気持ちを動かさずにでき、合図に当たったときの動き出しが速くなります。
次に来るのは要介護認定の話
お風呂に入れない状態が続く、あるいは入浴の支援や浴室の手すりを考え始めたなら、次は要介護認定と、介護保険でいくら使えるかの話になります。
この段階で先に知っておくと慌てないのは、次の三つです。
- 要介護認定は誰が申請できるのか、結果はいつ出るのか
- 認定が出たとき、1か月にいくらまでサービスを使えるのか
- 親の自己負担はどの割合になるのか
入浴の支援も、手すりの工事も、入浴に使う道具も、介護保険で使うには認定の申請が先に要ります。お風呂のことをきっかけに急に必要になることが多いので、仕組みだけ先に読んでおくと、地域包括支援センターで何を聞けばいいかがはっきりします。
認定・お金|要介護認定が出て、月にいくら出ていくか/要介護3・2割負担の月額はいくら?
段差でのつまずきや受診を嫌がる場面が重なっているなら、こちらも合わせて読んでください。
介護の手前で何から始めればいいかを、全体の順番で見たいときはこちらです。
ちょっと心配|親の物忘れ・転倒・遠距離が気になり始めた人の最初の一歩
よくある質問
お風呂に何日入らなかったら危ないですか?
日数で一律に線を引くことはできません。見ておきたいのは、臭いや服の汚れが強くなった、皮膚に赤みやかゆみが出てきた、着替えや外出も減ってきた、といった変化です。こうした変化が出てきたら、上の「動く合図」に当たるものとして地域包括支援センターに相談してください。
お風呂に入らない親はどうすればいいですか?
叱って入らせる前に、浴槽をまたぐ動作・浴室の寒さ・給湯の手順など、入れない理由の見当をつけてください。そのうえで、家族だけで地域包括支援センターに相談し、必要なら要介護認定を申請して、入浴の支援や手すり・道具を検討します。言い方は、本人ではなく家や季節を話題にするほうが通りやすくなります。
シャワーチェアのような入浴の道具に補助は出ますか?
入浴に使う福祉用具の一部は、要支援・要介護の認定を受けていれば、特定福祉用具販売として介護保険の対象になります。支給限度基準額は年度で10万円です。ただし、どの道具が対象になるかは決まりがあるので、買う前にケアマネジャーか市区町村の窓口で確かめてください。
訪問入浴とはどんなサービスですか?
自宅に浴槽を持ち込んでもらい、自宅で入浴の手伝いを受けるサービスです。介護保険で使う入口は要介護認定の申請で、要支援か要介護かで使える形が違うため、使えるかどうかは地域包括支援センターで確かめてください。デイサービスでの入浴や訪問介護での入浴の手伝いと比べて、どれが向くかは、親の状態と家の浴室の造りを踏まえてケアマネジャーと相談して決めます。
介護保険の申請はまだ早いでしょうか?
早いかどうかは親の状態で変わるので、地域包括支援センターで一緒に確かめてください。申請しても、サービスを使い始めることが決まるわけではありません。入浴の支援や手すりの工事、入浴の道具を介護保険で使いたいなら、認定の申請が先に要ることだけは覚えておいてください。
異性の親の入浴は、家族が手伝わないといけませんか?
家族が手伝わなければならない決まりはありません。父親の入浴を娘が手伝うのが難しいなら、デイサービスや訪問介護での入浴の手伝い、訪問入浴といった支援を使う考え方があります。本人への話も、家族より地域包括支援センターやケアマネジャーから出してもらうほうが受け入れられやすいことがあります。
順番のおさらい
- 叱る前に:入らないのか、入れないのかの見当をつける。説得より入れる条件を整える
- 入れない理由:またぐ動作・寒さ・手順・気分など。原因の見立ては医師、家族はサインを覚えておく
- 帰省の日:浴室・脱衣所・給湯を見て、日付と一緒に記録する
- 言い方:本人ではなく家や季節を主語にする。だます言い方はしない。異性の親は第三者から
- 相談先:親の住む地域の地域包括支援センターに、家族だけで電話する(相談=介護開始ではない)
- 入浴の支援:デイサービス・訪問介護・訪問入浴を介護保険で使う入口は認定の申請。要支援だと使える形が違う
- 手すりと道具:住宅改修はひとり生涯20万円の工事費の枠で、工事の前に申請が原則、特定福祉用具販売は年度で10万円。対象かは先に確かめる
- 入らない日:日数より変化を見る。拭く・着替えるの道具と置き場所を整える
- 様子見:家族で「動く合図」と、合図に当たったときの担当を先に決めておく
親がお風呂に入らなくなったとき、家族がいちばん消耗するのは、入らせようとして言い合いを繰り返すことです。入れない理由を浴室で確かめ、窓口に一本電話を入れておけば、あとは認定と支援の順番に沿って、家族が手を出さずに済む方法を選べます。親の自尊心を守ることと清潔を保つことは、順番さえ間違えなければ両立できます。
センターの名称や担当区域、住宅改修の上乗せ助成、認定の実際の処理日数は自治体によって違います。お住まいの市区町村で確認してください。

